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ランド研究所による米中衝突のシナリオ

ランド研究所のレポートが産経新聞レコードチャイナで報じられていたので、読んでみました。

そもそも、核戦争はもちろんのこと、2つの世界大戦のような高強度紛争が米中間でそう易々と生起すると考える人はほとんどいないでしょう。レポートでも、そうした「大規模軍事衝突の可能性は少ない」、と指摘していますが、同時に、米国が大規模な陸上戦力を必要とするシナリオは朝鮮半島有事であると想定し、これが最も米中衝突の蓋然性が高いシナリオであるとしています。また、中国が、台湾や日本と交戦状態に入った際には、米国は中国に対して軍事行動をとることを断言しています。

言ってみれば、抑止行為や直接的な軍事能力を保つために適切な処置を米国が怠ると、中国の野心をコントロールすることはできなくなる、という警告に満ちたレポートなのですね。

中国の領土的野心などの点でいくつか気になる描写はありますが、執筆メンバーはしっかりした面々ですから、一読に値するレポートだと思います。
Conflict with China: Prospects, Consequences, and Strategies for Deterrence [PDF] (ランド研究所)
By James Dobbins, David C. Gompert, David A. Shlapak, and Andrew Scobell
中国がその道を選ぶなら、最盛期のソ連やナチス・ドイツ以上の敵国になりうる。しかし、中国は、周辺国に対する領土拡大やイデオロギー的支配を求めておらず、防衛費で米軍と張り合おうとしているわけでもない。

しかし一方、米中衝突のリスクは依然として残っており、そのリスクは中国の軍事力の増強とともに大きくなっている。

衝突のシナリオ


衝突の可能性は、以下の順である。
■ 北朝鮮
  • 北朝鮮の崩壊は、経済破たん、金正日死後の後継問題、韓国との戦争による敗戦などが原因として考えられる。
  • そうした状況下では、おそらく数百万規模の人々が、食料と安全を求めて北朝鮮国境へと殺到する。
  • 中国は瀋陽軍区のミサイル部隊を動員して統制を失った北朝鮮の大量破壊兵器(WMD)に備え、さらに国境を越える難民の整理のために鴨緑江へ部隊を派遣することになる。
  • 在韓米軍/米韓連合司令部の懸案は、北朝鮮内の弾道ミサイル及びWMDサイトの確保である。
  • 中国は、米韓軍による北朝鮮乗っ取りを懸念し、おそらく自らも部隊を派遣する。
  • この状況において、米中間で起こる衝突の蓋然性は高く、エスカレーションの危険性もある
  • 他方、北朝鮮の崩壊が米中協力の契機となる可能性もある

■ 台湾
  • 中台関係は改善中であるが、実質的な進展はない。
  • 最終的な台湾の位置づけに関する意見の相違が解消されない限り、台湾海峡を巡るリスクは残る。
  • 台湾有事における米国の行動目標は、中国による台湾の征服の阻止、そして台湾の軍、経済、社会へのダメージを抑えることである。
  • 米軍の軍事的任務の中心は、中国による航空・海上優勢獲得の阻止である。
  • そのために、米軍は中国本土に対する攻撃を想定することになるが、これはさらなるエスカレーションの危険性をはらんでいる。
  • また、そうした米軍の攻撃を制する目的で、中国の方が地域の米軍基地への先制攻撃を企図する可能性もある。
  • 中国の軍事力が近代化するに伴い、米国の目標達成能力が低下しつつある。
  • 近い将来、中国は台湾自身の防衛力のみならず、米国の陸・海戦力投射プラットフォーム(空軍基地と空母)を脅かす能力を有するだろう。

■ サイバースペース
  • 人民解放軍は米国のネットワークに繰り返し侵入し、米国の情報システムへの信頼性を低下させた。
  • 米国は、今後こうしたサイバー攻撃に報復するかもしれない。
  • 中国は武力衝突を望んではいないものの、そのような報復に対して、米国のC4ISRグリッドに不可欠な衛星への「ソフトキル」(例:ネットワークリンクへの干渉)を試みるだろう。
  • 両国の応酬によるエスカレーションの結果、両国は甚大な社会的・経済的損害を被ることになる
  • イランでの米中協力は停滞し、朝鮮半島でのにらみ合いはヒートアップするかもしれない。
  • サイバー戦争では「勝者」は存在しない

■ 南シナ海
  • 南シナ海はフラッシュ・ポイント(発火点)の宝庫だ。
  • パラセル・スプラトリー諸島における中国の領有権主張は、1970年代以降、多くの国と軋轢を生んでいる。
  • 南シナ海は中国の排他的経済水域(EEZ)の一部であり、中国の管理に従うべき、という最近の主張は、自由通航という国際的な規範に反するものであり、東アジアでの米国の国益への挑戦である
  • 米国の目標は、当海域における航行や海洋活動の自由を確保するだけではない。
  • 衝突の状況次第ではあるが、フィリピンやベトナム、タイが中国と海戦・地上戦を行う場合には、航空・海上優勢を確保すべく軍事支援を行う
  • 地上戦では、主として特殊作戦部隊(SOF)を派遣することになる。
  • 中国の南シナ海地域への戦力投射能力は、現状、限定的である。
  • 今後、中国が空母戦力や空中給油能力を追及すれば、この評価は変わるだろう。

■ 日本
  • 日中間の衝突理由は2つ。(1)中国が、1945年までの日本の行動に対していまだに怒りや恨みを抱いており、中国にとって無神経で侮辱的と映る日本の言動が原因となってたまに悪化する。(2)東シナ海の尖閣諸島領有権問題とEEZ問題が残っている。
  • 東シナ海の問題、偶発的な事故、または双方の主張の応酬などがエスカレートし、紛争が発生する可能性がある。
  • 日中武力衝突のケースにおいて、米国の目標は日本の防衛を支援し、損害を最小化し、航空・海上優勢を回復することである。
  • そのため、エスカレーションの危機を承知の上で、日米双方は中国本土への攻撃を考慮する必要がある
  • 中国の軍事力、とりわけ海、空軍力やミサイル戦力、そして戦力投射能力が向上するにつれて、有事に要求されるコストが増大している。

■ インド
  • 中印衝突の原因となるのは、国境問題またはミャンマーのような近隣国家への対応を巡る問題であろう。
  • 両国は、世界最大の人口を抱えるというだけでなく、両国ともに核保有国であることから、エスカレーションに伴うリスクは大きい。
  • 中印衝突のシナリオにおいて、紛争地域の米民間人の救出・退避などの問題は残るが、おそらく米国は紛争自体には関わらない
  • ただし、インドへのインテリジェンスや兵器供与、そして外交支援は行うだろう。
  • 米国の目標は、中国の勝利を阻止し、垂直的なエスカレーション(核ミサイルの使用など)及び水平的エスカレーション(パキスタンを巻き込むこと)を回避することだ。

運用上の関係


  • 米中間の武力衝突はほとんど起こりえないが、中国の国力は増大しており、米国は広いエリアにおける抑止力、ならびに地域への安定確保のための影響力が必要である
  • なお、朝鮮半島以外で米国の大規模な陸上戦力が要求される有事は、東アジアにはないだろう。
  • また、遠距離攻撃能力と抗湛性の高い拠点の必要性が高くなるだろう。
  • 西太平洋における米軍の運用上の重点は、拒否的抑止から懲罰的抑止へと移行することにある。
  • 米国がエスカレーション戦略を採用する場合、衛星攻撃(ASAT)やサイバー攻撃という手段もある。
  • しかし、最も信頼性の高い手段は、中国の中距離弾道ミサイルの射程外から発射される通常型精密攻撃だろう。

経済的相互確証破壊(Mutual Assured Economic Destruction:MAED)


  • 米中の衝突がいかなるものであっても、最も損害を受ける分野は、経済である
  • 両国の経済は史上類を見ないほど密接であり、この相互依存は強力な抑止力となる。
  • MAEDの働きは、理論上は軍事的エスカレーションを核戦争レベル未満に抑制するものの、経済的エスカレーションをとどめることはできない。
  • 米国は、相互依存のバランス、ひいては抑止バランスを危険な状態にしないためにも、強い経済力を維持しなければならない

米中関係の変化


  • 米中間の競争をゼロサムゲームと見るべきではない。
  • 中国が対等な競争相手となれば、経済面では強力な潜在的パートナーとなる。
  • 現在、米国は唯一の超大国として世界の公共財(国際商業・交通路の安全保障など)を守る役割を負っている。
  • 世界中の他の国と同様に、中国はこれにタダ乗りしている。
  • 米国は、中国に対して大国としての責任を引き受けさせることに関心があり、こうした国際的な安全保障への貢献を通じて米中協力を図ろうとしている
  • 米中衝突のリスクは無視できないが、それを誇張すべきではない。

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