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安全保障法制・憲法改正・外交・基地問題(その2)

〔以下の論攷は、『大原社会問題研究所雑誌』No.700、2017年2月号、に掲載されたものです。4回に分けてアップさせていただきます。〕

2、 憲法改正に向けての動き

(1)自民党改憲草案
 安保法制の整備と歩調を合わせるように、憲法の明文改憲についての動きも強まっている。しかし、安倍首相の思い通りに進んできたわけではない。当初、打ち出した96条先行改憲論は「裏口入学」ではないかとの批判を浴びて後景に退き、憲法審査会も15年6月以来、「開店休業」状態が続いた。9条改憲論についても世論の反対が強く、さし当りの課題とはなっていない。

 他方で、7月の参院選で「憲法改正」を是とする勢力が3分の2以上に達した。とはいえ、一挙に改憲に向けての動きが進む環境にはない。最終的には国民投票という関門が待ち受けており、それを突破することを視野に入れた環境整備が求められるからである。この点では、安倍首相にとっていくつか乗り越えなければならない障害がある。

 その第1は、自民党改憲案の内容である。細かく触れる余裕はないが、為政者への憲法尊重擁護義務から国民に対する尊重義務へという立憲主義の逆転、天皇の元首化や国旗・国歌による国民主権の否定、歴史・文化・伝統を踏まえた人権や天賦人権説への異論など基本的人権への無理解、「公益及び公の秩序」規定による表現の自由に対する制限などが目立つ。

 このほか、第18条(いかなる奴隷的拘束も受けない)や第97条(人権の永久不可侵規定)の削除、前文と9条2の書き換えによる平和主義の変質と自衛隊の「国防軍」化・「外征軍」化、個人の否定と古色蒼然とした家族・共同体観に基づく家族責任の導入などである。

 この改憲案は民主国家としての憲法草案とは思えない内容に満ちており、保守色が強すぎる。自民党の保岡興治憲法改正推進本部長ですら、「保守的な考え方を強調して支持を広げるという目的があったと思うし、政治色がありありと出ていたかなと思う」と述べて「撤回するという性質のものではないが、固執はしない 」と、「棚上げ」の意向を示している。

 同時に、保岡本部長は「緊急事態条項は必要だと思う」とも語っており、これを突破口とする意向もにじませていた。しかし、「お試し改憲」とされているこの条項は、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」とするなど、権力の集中・審議の省略・人権の制限による「打ち出の小槌」のようなもので、ワイマール共和国憲法第48条の大統領緊急権に類似している。ナチスの独裁に道を開いた条項と類似の機能を持つ条項の追加は許されない。

(2)改憲の限界と「壊憲」
 その第2は、改憲の限界である。改憲とは憲法の条文を書き換えることであるが、どのような内容に書き換えても良いということではない。そこには限界がある。憲法の3大原理とされる国民主権、基本的人権の尊重、平和主義を踏み越えるような改憲は許されない。

 現行憲法の前文には、「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」と書かれている。この「原理」こそが憲法の3大原理であり、今日の日本が到達した自由で民主的な平和国家としての国の形を壊すような「壊憲」は許されない。

 戦後、何回も憲法を書き換えてきたドイツの基本法(憲法)にも改憲についての限界が示されており、その枠内での改憲であったことを忘れてはならない。第79条は第1条と第20条に定められている諸原則に抵触するような改正は許されないとし、人間の尊厳、人権、民主的かつ社会的連邦国家という原則を明示している。それが破られようとするときには「抵抗権を有する」としているように、基本法の諸原則を「壊す」ような「壊憲」は、ドイツ憲法によっても排除されているのである。

(3)「そんなことをしている場合なのか」
 そして第3は、「そんなことをしている場合なのか」という意見の強まりである。憲法は不磨の大典ではなく、不都合があれば改正すればよい。しかし、ここで問われているのは、それほどの不都合がこれまで生じてきているのかということである。

 これから憲法審査会を開いて改憲条項を絞り込むということ自体が、それほどの不都合がなかったという現実を示している。不都合な点が明確であれば、何も「絞り込む」必要などないからである。

 国民投票を伴う改憲には膨大なエネルギーや公金が必要となり、最終的には国民全体を巻き込んだ熟議と投票を不可避としている。それほどの政治的エネルギーを憲法に割く必要性や余裕が、果たし今あるのだろうか。そのようなことで政治のエネルギーが無駄使いされてよいのだろうか。このことが、問われなければならない。

 このような立場から安倍首相に対して経済界からの諫言が出されている。榊原定征経団連会長による「憲法は後でいい」という発言である 。榊原会長は「憲法を時代に即したものに変えていく必要性は、一般論としてはその通りです」としながらも、「ただ、経済界からすると、優先順位は憲法ではなく、経済再生」だとし、「『憲法は後にしたってよろしい』と言うくらいのつもりです。経済界としては、このような経済、社会保障、財政の状況にある時期ですから、まさに『経済最優先』の主張を強く発信するところだと思います」と強調している。

 このような発言の背後には、経済界としての強烈な危機感がある。榊原会長は日本のGDP(国内総生産)、世界シェア、国際社会における経済的プレゼンス、人口と生産年齢人口の減少、他方での社会保障給付や医療費、国と地方合わせた長期債務残高などの増加を指摘し、「これほど債務を抱えている先進国はありません。この流れを変えないと、日本はまさに消滅してしまいます」と警告している。

 経団連会長のこの発言は、改憲に前のめりとなっている安倍首相への異議申し立てとなっている。日本の経済と社会が深刻な危機状況に陥っているのに、相も変わらず「壊憲」に精力を費やそうとしている安倍首相の暴走ぶりが、経済界までも「『憲法は後にしたってよろしい』とも言うくらいのつもり」にしてしまったということだろう。

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