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ニューバランス、非効率な“職人業”で世界3位へ

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自社工場はアジア圏でなく米英


【弘兼】つまり「シューズブランド」から「スポーツブランド」へ変わることですね。現在、全世界のスポーツブランドの売り上げを見ると、3兆円台のナイキ、2兆円台のアディダスと、1位、2位が突出しています。ニューバランスは、アンダーアーマー、プーマ、アシックスなどと3位グループの中にいます。

【冨田】3位グループは、5000億円前後の売り上げですね。

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スポーツブランド世界2強の背中を追いかける/主張の少ない“中間色”をメインに展開

【弘兼】その中でニューバランスの強みはどのようなところでしょうか?

【冨田】ニューバランスの特徴の一つは、他のメーカーと違って株式上場をしていないプライベートカンパニーなので、オーナーの意向が経営方針に反映されるということです。それは、クラフトマンシップであったり、フィッティングであったりを重視することに表れています。

【弘兼】世界的企業は、工場を中国や東南アジアに集中させて同じ商品を大量生産し、全世界で販売するという効率的な経営手法をとっています。ニューバランスはそうではない、と。

【冨田】我々が同業他社と違うのは、アメリカ生産、そしてイギリス生産にこだわっているところです。これらの工場は協力工場ではなくて、すべて自社工場です。コストを下げて安く大量に売るのではなく、質の高い製品、フィッティングを追い求めているのです。

【弘兼】フィッティングといえば、正確に測ると左右の足の大きさが0.5センチほど違うことも少なくないそうですね。

【冨田】はい。足は甲の広さ、高さによっても様々です。足の長さは一緒でも横幅が広い人、狭い人もいます。我々はランニングなどのパフォーマンスシューズでは長さのサイズだけでなく足幅のサイズも選べるように「D」「2E」「4E」といった複数のサイズを用意しています。

【弘兼】細かなところにまで気遣いがあるというのは、日本人気質に合っている気がしますね。日本発の製品というのも存在するのでしょうか。

【冨田】ええ。わが社では「クリエーションセンター」と呼んでいる開発企画の部署があります。これがあるのは世界に3カ所です。1つはボストンの本社、2つ目は工場のあるイギリス、そして日本。もともと、ニューバランス ジャパンは本社にライセンス権を付与され、日本国内で企画・製造・販売できるという契約から始まっています。後にそのニューバランス ジャパンの株式を本社が全部買い上げて、100%の子会社になった。そういった場合、クリエーションセンターは通常本国に吸収され、閉鎖するものですが、日本の場合は残したのです。

【弘兼】日本が世界的にも少し特殊な市場だったからでしょうか?

【冨田】はっきりわかりませんが、すでに日本のマーケットでニューバランスは非常に受け入れられていました。ブランドイメージを損なっているのではなく、問題ないという判断だったのでしょう。ニューバランス本社の体質として、アメリカの方針を強引に押しつけるということはありません。

【弘兼】日本での開発はどれくらいなのでしょうか?

【冨田】アパレルの5割は日本で商品開発しています。シューズに関しても3割程度。外資のスポーツメーカーの中で、シューズを日本で開発しているところはほとんどない。その一つの象徴がウオーキングシューズです。矢野経済研究所の調査では、日本国内のウオーキングシューズ販売足数・金額で3年連続トップ、シェアは30%となっています(※)。これほど受け入れられたのは、日本人に合わせて日本で開発した商品だったからでしょう。

【弘兼】現在、中国・韓国市場はかなり大きくなっています。東アジアへは日本企画の商品が入っているということでしょうか?

【冨田】もちろん。中国・韓国にはクリエーションセンターが存在しませんから。日本企画の商品は中国・韓国でよく売れますね。

※矢野経済研究所「YPS スポーツシューズデータ:2013年、14年、15年ウォーキングシューズ販売足数・金額ベース」(全国主要スポーツ店をはじめとした計2031店舗のスポーツブランドを対象とした定点観測調査2016年1月時点)

30~40代に刺さるメイド・イン・USA


【弘兼】日本の独自性といえば、ニューバランスは16年7月からゴルフ製品を展開しています。これは日本だけです。ゴルフの分野では、ナイキやアディダスが撤退しています。縮小気味な分野にあえて手を広げたのはどうしてでしょうか?

【冨田】ゴルフはビジネスとしてまだまだ可能性があると考えています。近年、ゴルフの競技人口は確かに減っています。それでもまだマーケットの規模は大きい。加えて、ゴルフをする方はわが社の顧客層と重なると判断したからです。

【弘兼】比較的裕福な層が多い。

【冨田】ニューバランスの「MADE IN USA」の靴は3万円近い価格が中心になります。それらの靴を好んで買われる層は30代、40代。そうした方がどういうスポーツをやっているかというアンケートをとると、ゴルフが非常に多い。ゴルフというのはよく歩く競技です。そこで我々がいままで大切にしてきたフィット感や履き心地が生きてくるのではないかと考えたのです。実際に、お客さんからの要望も高かった。

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<主要競技の選手と次々に契約 近年では、今まで力を注いでいなかったスポーツの一流選手、チームとの契約に乗り出す。左から英プレミアリーグ、昨季チャンピオン、レスター・シティFCのゴールキーパー、カスパー・シュマイケル選手、テニス世界ランク3位ミロシュ・ラオニッチ選手、米シアトル・マリナーズの青木宣親選手。

【弘兼】9年連続増収見込みと聞いています。この業績好調の中で心がけていることはありますか?

【冨田】ニューバランスのファンの方々は、他のブランドと違うユニークさを買ってくださっています。それが消費者から見て他のブランドと同じように映ってしまうと駄目だと思っています。

【弘兼】お話を伺っていると、ニューバランスが外資系企業であることを忘れてしまいそうです。

【冨田】アメリカのオーナー、ジェームス・S・デービスは従業員を「エンプロイー」(従業員)と呼ぶと怒るんです。社員は家族であって「アソシエイツ」(仲間)であると。外資系といえば、転職が多いという印象があると思うんですが、うちに関していえば離職率が1%を切っているんです。日本の一部上場企業でも3、4%のところが多いはずです。働きやすい環境もあるでしょうし、ニューバランスというブランドが大好きな人が多いのかもしれません。

【弘兼】外資系といえば、本社から外国人社員は何人ぐらい派遣されているのでしょうか?

【冨田】ゼロです。外資系といいながら、西洋人が一人もいない企業は珍しいと思います。もちろん、毎週、アメリカと電話会議は行っています。頻繁に本社から人も訪ねてきています。ただ、前任の林も私も日本人です。ニューバランス ジャパンはずっと日本人が社長を務めてきました。これは日本だけではなく、中国も同じです。ニューバランス チャイナは、うちのほぼ倍の売り上げになっています。他の同業他社ならば役員、社員の多くは外国人でしょうけれど、ニューバランス チャイナは全部中国人。いわゆるローカルスタッフでやっているんです。

【弘兼】ニューバランスは、グローバリゼーションとローカリゼーションの利点を上手く組み合わせているんですね。

弘兼憲史の着眼点


▼スーツ姿に嵌るスニーカーとは?

スニーカーと聞いて思い出すのは、1988年の映画『ワーキング・ガール』です。ニューヨーク・ウォール街の投資銀行で働く登場人物の女性たちは、通勤途中、スーツ姿にスニーカーでした。

ニューヨークはアスファルトが荒れていたり、石畳があったりと、女性のヒールなどでは歩きにくい。様々な路面に対応できるスニーカーを履くのは実に合理的だと思ったものでした。

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弘兼「日本独自の商品はあるのですか?」冨田「あります。国によって色目などの好みが異なりますね」

とはいえスーツ姿に合うスニーカーは限られています。その点、ニューバランスのスニーカーは主張が強くなく、どんな服装にも溶け込みそうです。

冨田さんと話しているうちに、そうしたスニーカーのイメージはニューバランスという会社の体質を反映しているのではないかと思うようになりました。

家族的で職人的――。

スポーツブランドに限らず、グローバル企業は、人件費の安い発展途上国で大量生産して、世界中で販売しています。しかし、ニューバランスはアメリカ生産、イギリス生産にこだわり続けている。グローバル企業と小規模企業のいいとこ取りをしているのかもしれません。

弘兼憲史(ひろかね・けんし)
1947年、山口県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、松下電器産業(現・パナソニック)勤務を経て、74年に『風薫る』で漫画家デビュー。85年『人間交差点』で第30回小学館漫画賞、91年『課長島耕作』で第15回講談社漫画賞、2003年『黄昏流星群』で日本漫画家協会賞大賞を受賞。07年紫綬褒章受章。

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