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異文化理解―違っている点と違っていない点を理解する

異文化を本当に理解するためには、コミュニケーションの両当事者が、お互いに切れば赤い血の流れる人間であるという点を忘れてはならない。言葉や、記号や、慣習や、しきたり、など文化の面において彼我の間に横たわる違いを知ることは大事であるが、その違いに過剰に反応する結果、人間としての同一性という面を軽視するようなことがあってはならないということである。

同じ単語が他の文化圏や言語圏では異なる意味を与えることはよく知られている。英語のsensible(分別のある、賢明な)がフランス語ではsensitive(神経過敏の、傷つきやすい)の意味になるなどというのがその例である。英語のcompromise(妥協する)が、米語、英語、そしてフランス語では、それぞれ意味が異なる(妥協することを積極的な意味として取るか否か)とも言われる。

他の言語圏との間で共通語としての英語を使ってメッセージをやり取りする場合には、そのメッセージの送り手も受け手もともに自分が意図したとおりにそのメッセージが相手にきちんと伝わっているかどうかを確認する必要がある。

ただ、このような異文化間における言葉の持つ意味の彼我の違いだけを強調し過ぎることも避けなければならない。それらの言葉を使用する人間として、民族的、文化的、思想的に違ってはいても、心や情の面では同じことの方が多いものであることも知る必要がある。

人間として、同じ部分の方が違っている部分よりもはるかに多いのだということを次の寓話から考えてみよう。地球はよく知られているように少し横に長い楕円形をしている。またその表面にはエベレストやその他多くの高峰がそびえたっている。

海洋ではエムデン海溝など深い海淵がいくらでもある。これらの「事実」から地球を鉛筆で円に描くとしてみよう。それは果たして「(横長の)ラグビーボール」のようなものになるか、または「(表面が凸凹の)みかん」のようなものか、あるいは「真円」になるのだろうか。

この三つの回答のうちどれが正しい姿となると思うかと質問をすると、多くの学生が「みかん」を選び、次ぎに「ラグビーボール」が続き、「真円」であると答える者はほとんどいない。

実は、正解は「真円」なのである。地球を直径6センチの大きさに描くと、どのように細い鉛筆を使用しても、横長であるとか凸凹であるとかいう点はすべてその細い鉛筆の線の中に吸収されてしまう。

このことは、地球の赤道円周が40、077Kmという大きなものであるのに対し、横(赤道)の直径 12、756Km と縦(南北極)の 直径12、714Kmの差はわすが42Kmにしか過ぎず、エベレストの高さは8.86Km、エムデン海溝の深さは 10.4Kmという小さなものでしかない、ということからして明らかである。

このことを人間にもあてはめて、人間としての同一性の大きさに比べて文化や民族などの違い(凸凹)から生じる違いは小さなものであるというのが、この寓話の教えるところである。

このように世界の人々は、国や文化や言語がそれぞれ異なっていても、人間として同じところの方が多いものである。だからこそ、マクドナルドやコカ・コーラは、食文化がそれぞれ異なる地域においても、大きな変更を加えずに地元の人たちを魅了し、食され、飲まれているのである(もちろん牛肉をマトンに、ソースにチリソースを準備するなどの変更は加えられるが)。

また、みなが同じだからこそ、地球上どこへ行っても、ソニーのプレイステーションやアップルのiPodが爆発的に売れ、マイクロソフト社のウインドウズがディファクト・スタンダードの世界を作り出すことができたのである。

しかし、そうであるからといって、また世界中どこへ行ってもそれらを目にすることができるからといって、世界はすべて同じということにはならないことも理解しておく必要がある。

大事なことは、どこに行ってもそれらを見ることができるという事実ではなく、それらが現地の人間には文化的にどのような意味を与えているかということである。マクドナルドでハンバーガーを食べることが、ステイタスシンボルとなるか、安上がりなファーストフードを意味するか、それらのものとその実体を表す言葉が、文化によって異なる意味を与えるものであることも当然のことながら、よく知っておかねばならない。

(執筆者:亀田尚己 同志社大学商学部・同大学院商学研究科後期課程教授  
 編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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