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社会保障の整備は胡錦濤政権の最大の功績(1)

  2012年秋に、第18回中国共産党党大会が開催されることになっている。この党大会で2002年の第16回党大会以来、指導部の大規模な入れ替え人事が行われることが予想されている。要するに、現・胡錦濤政権は後わずかで任期満了を迎え退陣する。

  今期政権は中国を統治する期間中、自分の特色としてさまざまな政治理念やビジョン、社会政策を打ち出してきた。

  まずは、“以人為本”という、人間、国民をもっとも大切にする執政の基本理念を大々的に唱えている。それに関連して、「重視民生」、つまり、国民の生活を重視する一連の具体的な政策を講じている。

  次に、経済社会の発展モデルとしては、共産党政権史上初めて「科学的発展観」を掲げ、経済成長最優先から、経済と社会、人間と自然、開発と公正などバランスのよくとれた新しいモデルへの大転換を図っている。

  さらに、国家と社会のあり方に関する中長期ビジョンにおいては、「和諧社会」、つまり、「調和のとれた社会」、略して「調和社会」という理想的な姿を持った社会の実現を目指すようになった。

  「科学的発展観」はもし政策方法論だとすれば、「調和社会」はいうまでもなくその目指すべき政策目標となる。

  さまざまな状況がすでに証明しているように、「調和社会」の実現にとって最大の難関は、都市と農村の絶大な格差をどう解消するかである。

  「調和社会」実現の行方を左右している農村部のよりハイペースの発展を求めるために、現政権は同時に「社会主義新農村の建設」という途方もないプログラムを用意した。

  以上のように、現政権は誕生してから前・江沢民政権の影響を懸命に払拭しつつ、独自性を持った執政理念や社会政策、および中長期ビジョンを編み出してきたのだ。

  では、こうした独自色のものおよびその具現化をめぐる努力はどこまで実っているのか、客観的かつ詳細なチェックと検証は必要不可欠である。つまるところ、胡錦濤政権の功績はいったいどこにあるのだろうかという問いかけになる。

  まず、持続的な高度経済成長を成し遂げたことが挙げられるだろう。

  1978年以降中国経済の推移を見ると、華国鋒政権を除いて、胡耀邦政権、趙紫陽政権、江沢民政権はいずれも高度成長に一定の成果を上げた(伸び率に差があるとはいえ)が、胡錦濤政権期間はもっとも安定したものになっている。

  改革開放後の中国経済には、成長が激しく乱高下するという特徴が見られる。その背景には、国内と国際の情勢の影響や、政府の意図的なコントロールなどがある。政府の意図的なコントロールというのは、「社会主義」の計画経済から市場経済へと転換する過程で現れる象徴的な経済政策と金融政策のことで、いわば、政府が経済と金融に対するコントロールの加減によって生じた結果である。マクロコントロールを緩めると、経済が過熱状態になり、GDPが10%台の後半まで異常に上がる年すらあった。それに対するマクロコントロールを強め、金融政策などを通して引き締めると、今度は成長率が反対に急激に下がってしまう。

  この現象は通常、「一抓就死、一放就乱(ひとたび引き締めれば活力が失われ窒息状態になるが、ひとたび緩めればすぐに混乱してしまう)」という中国ならではの特徴である。改革開放から今日に至るまで、特に前半期にはこの特徴が極めて顕著に現れていたが、1990年代中頃からはかなり穏やかになり、経済成長がほぼ7%から10%の間に維持するようになった。このプロセスは何より中国政府、とりわけ胡錦濤政権の経済環境に対するマクロコントロールの技法がかなり成熟してきたことを物語っているといえよう。その成果は、世界的な経済危機に直面しても、一定水準以上の成長を維持できたという点にもはっきり現れている。

  一方、その輝いている中長期ビジョンや華々しい政策のパフォーマンスとは裏腹に、中国は「調和社会」に邁進しているどころか、むしろかつてないほど「格差社会」への狂奔が幕を切って落とされたというべきである。極めて遺憾なことだが、すべて事実である。

  したがって、安定した高度経済成長の達成は胡錦濤政権の功績であることは間違いないが、その最大のものかといえば、必ずしもそうではない。むしろ社会保障の整備は胡錦濤政権の最大の功績だと筆者は考えている。主な理由としては以下の6点を挙げることができる。

  第一に、胡錦濤政権は新中国史上初めて社会保障の整備における国家の責任を憲法の中に盛り込む形で認めた。2004年の改正憲法は、「国家は経済発展の水準に相応しい社会保障制度を構築、健全化する」という第14条を設け、その後の社会保障関連法規・政策の制定に最も根源的で権威のある法的根拠を与えた。

  第二に、胡錦濤政権は従来の政権と違って社会保障の立法にも一定の意欲を示している。その最大の成果は新中国初の本格的な社会保障立法ともいえる「社会保険法」の制定である。2010年10月に採択、2011年7月に施行された同法は、憲法の趣旨を体現する形で、「国が基本養老保険、基本医療保険、労災保険、失業保険、生育保険等の社会保険制度を構築し、国民が老齢、疾病、労災、失業、生育等の状況下において、法により国及び社会から物質的援助を受ける権利を保障する」(第2条)と明言する。

  第三に、新中国の社会保障は基本的に都市部だけの労働者と住民の基本生活を守ることになっているが、農村住民はほとんど自助努力に頼って暮らしを支えざるをえない。一方、胡錦濤政権はこの従来の方針を転換して、農村住民の基本生活の保障にも積極的に乗り出した。

  第四に、これまでの政権は社会保障の整備において都市中心、都市重視の路線を貫いていたのに対して、胡錦濤政権は初めて社会保障整備の重点を農村部に移した。ここ数年間、都市部の社会保障整備はほぼ従来のものを踏襲しつつ制度の微調整を行い、非就労者の医療保険と年金保険をも導入し始めたが、画期的な進展は見られない。一方、農村部の社会保障には劇的な変化が起き、制度の充実はかつてないほど図られている。その主な制度を年代順に見てみると、2003年には新型農村合作医療が試行され農村住民の病気治療に対して初めて政府財政を投入することになった。2007年には生活保護にあたる最低生活保障が全国的に設けられ、貧しい住民の最低限生活保障を制度的に行うことになった。2009年には農村住民の老後生活を保障すべく新型農村社会養老保険の試行がスタートした。このように、胡錦濤政権は公的扶助と社会保険の両方から農村住民の基本生活保障に重点を置くようになったと考えられる。

  第五に、中国の社会保障は都市と農村の二重構造に規定されており、都市部の社会保障と農村部の社会保障とは別々に整備されてきた。そのため、両者の間には大きな制度的格差があるのみならず、互換性が著しく欠けており、近代化や都市化の進展、国民の自由移動を大きく制約している。一方、胡錦濤政権は初めて都市と農村の社会保障の一体化に乗り出して、新たな社会保障制度の整備にあたり都市・農村間の連携、とりわけ農村社会保障の都市社会保障へのリンクが積極的に図られている。

  第六に、胡錦濤政権は新中国史上初めて「国民皆保険・皆年金」体制の構築を成し遂げようとしている。「国民皆保険」体制は都市労働者基本医療保険、都市住民基本医療保険、新型農村合作医療など三つの制度によってすべての国民をカバーするものである。一方、「国民皆年金」体制は公務員・事業体職員基本養老保険、都市企業基本養老保険、都市住民社会養老保険、新型農村社会養老保険からなり、近い将来、すべての国民が公的年金の受給によって老後生活を保障されることが目的である。これはいうまでもなくほかの発展途上国を見渡しても存在しない中国だけの挑戦である。

  長年の高度経済成長は中国国民の生活水準を大幅に引き上げてきた。一方で、国民が直面するリスクもかつてないほど急速に拡大している。疾病、老齢、失業など先進国が経験した問題はいま中国でも広範囲に起き、深刻化を増している。それらを解決するための物的条件は確かに経済発展にあるのだが、経済発展だけでは決してうまくいくはずがない。むしろ権利性や普遍性のある包括的な社会保障の整備は中国の現在と将来に欠かせない最重要課題である。

  そういう意味では、胡錦濤政権の取り組みはこれからの中国の進路を方向づけるほど重要なものであるといえよう。

  このシリーズは、中国の社会保障整備における胡錦濤政権の理念、政策、成果などを紹介、分析することとする。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)

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