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バランスを欠いた「共謀罪」論議ー噛み合わぬ質疑、飛ばされる論点

平成29年度予算案の審議も終盤、中央公聴会も既に開催され、分科会を経て後は締めくくり総括質疑、いわゆるシメソウと採決を待つばかり。24日に本会議採決が予定されていたが、その日は金曜日で初の「プレミアムフライデー」実施の日。さすがに「プレミアムフライデー」の夕方に衆議院本会議を入れるようなことをすれば、まさに掛け声倒れということか、翌週の27日月曜日に先延ばしになったようだ。(おかげさまで他の委員会審議も後ろ倒し。さてはて、いいのか悪いのか・・・)

 さて、その予算委員会、本来予算に関連する審議が行われるべき場であるが、実際に行われている質疑の多くは予算とは直接的な関係がないものばかり。文科省天下り問題に南スーダンPKO問題、そして共謀罪。いずれも議論することの必要性や重要性を否定するつもりはないし、大いに議論すべきであるが、来年度予算についての質疑は国民の税金の使い途を決める大事な質疑。せめて予算委員会では来年度予算の中身や金額、編成の在り方といった内容の質疑に集中してもらいたいもの。

 さはさりながら、衆院での来年度予算の審議が終わろうとしているところ、今後は本格的な法案の審議に入るわけであるので、こうした予算委員会で取り上げられた事項のうち、実際に法律改正を行うこととなる「共謀罪」について、テロに代表される組織犯罪への対処の在り方という観点から少々整理してみたい。(なお、この「共謀罪」、「テロ等準備罪」とその名称を変えたが、本稿では便宜上「共謀罪」の方を使用する。)

 まず、この「共謀罪」、関係法令を改正して新設しようという話が始まったのは小泉内閣の時代。その後衆院解散による廃案、再提出、解散による廃案を経て、与野党が修正案を提出しての活発な議論が行われたが、結局またしても衆院解散により廃案となっていた。つまり、この「共謀罪」についての検討や審議は最近始まった話ではないということだが、与野党、少なくとも自民公明のみならず、民主(当時)も、スタンスの違いはあるものの、前を向いて審議に参加していたわけである。

 では、そのスタンスの主な違いとは何かと言えば、「共謀罪」の対象範囲である。当初は適用対象は「団体」とされ、対象犯罪も600以上であったようだが、民主党(当時)がこれを「組織的犯罪集団」に限定するとともに、対象犯罪も300程度に絞り込む修正案を出した。前述のとおり本案共々採決に至らず廃案になったのだが、次の段階の議論では、与党が提出した修正案では対象犯罪こそ600以上のままだったが、適用対象は民主党(当時)同様の「組織的犯罪集団」となったようで、廃案、再提出となったものの、少しずつではあるが、議論は建設的に行われてきたようである。今国会に提出予定の法案の適用対象も、どうやら「組織的犯罪集団」のようである。

 その対象犯罪、現在準備中の政府案では676とされていたが、ここへきて277まで絞り込むこととしたようだ。適用対象が「組織的犯罪集団」ということであれば、対象犯罪は基本的には組織犯罪と直接関連があるものなるはず。ところが、4年以上の懲役又は禁錮の刑を定める刑を「機械的」に対象としていたようで、これでは「共謀」とは無関係のものまで含まれてしまうことになるということで、絞り込んだということのようだ。(少なくともそう聞いている。)

 また、この「共謀罪」新設の背景は「国際組織犯罪防止条約」、いわゆるパレルモ条約の批准に必要であるからとされている。これについては両論あるようで、法務省や外務省は必要であるという立場であり法務省のサイトにもその旨説明がなされているが、例えば日本弁護士連合会は現行法で対処可能であり、不要であるとしている。現行制度で対処可能ならばあえて法令改正を行う必要はないということになるが、さてどう考えるべきだろうか。

 これについて一つの考え方として、このパレルモ条約の性格を検証してみよう。この条約、国連の条約であって締約国・地域も187と多く、そこまで細かな内容が記載されているわけでもない。そしてこの手の条約の場合は、国内法で対処できると説明し、それを裏付ける根拠を示すことができれば批准は可能といえば可能。そうなってくると、条約の批准を金科玉条のように位置づけるのは少々難しくなってくるだろう。本来考えるべきは条約の批准云々よりも我が国の安全の確保。国際条約の批准やましてやオリンピックを根拠として必要性を訴えるのは主権国家としては筋違いのように思えてならない。さて、実際の法案審議では政府はどう説明するのか。

 一方、「共謀罪」は国民の自由を奪うもののように野党や左翼系と言われる人たちから非難されている。金田法務大臣の答弁ではないが、成案が得られていない現段階では何とも言えないが、頭から否定することはできないだろう。「共謀罪」の新設、刑法を中心に法律の専門的知識がないと議論するのは難しいばかりか、聞いている方も理解するのは容易ではない。そこで、「平成の治安維持法」といったようなある種のレッテル貼りをしないと一般有権者に分かってもらえないと、左翼系の人たちを中心に考えているふしもあるようで、そこから自由を奪う云々の話につながっているという側面もあるようだ。(ご年配の元運動家の方々のある種のアレルギー反応みたいなものもあるのかもしれない。)

 まあ自由を奪うかどうかという話になってしまうと少々抽象論になってしまうのは、一般市民のレヴェルであれば無理もないように思うが、国会議員にはそんなお粗末な議論はしてもらいたくないもの。やはり具体的な点に関して論戦を行って、問題があるのであれば問題を明らかにして欲しいところである。

 その具体的論点の一つとして、「犯罪を実行する団体に一変したと認められる場合には組織的犯罪集団に当たり得る」というものがある。これは法務省のみならず、菅官房長官や安倍総理までその趣旨の発言をしているのであるが、要は犯罪を実行する団体になったら一般団体にも共謀罪が適用されることとなるという話で、一般論として考えれば至極当然であろう。では、「一変したと認められる場合」とはどのような場合なのだろうか?ここが「自由を奪う」という観点からは非常に重要な点であるように思う。仮にこうした点が厳格に運用されれば、国民自由を奪う可能性は低くなると考えられるが、誰が何をもって「一変した」と認めるのだろうか?どこまでいったら「ヤバイ」ということになるのか、現状では分からない。これを法律に規定するのか、政令以下に委ねてしまうのか、更に解釈に委ねてしまうのか。(もっとも関係法を改正したからといって、直ちに関連する犯罪の取締りができるようになるわけではないのだが。)

 いずれにせよ「共謀罪」の新設のための関係法の改正案の提出はこれからである。それを受けて個別具体的な議論が法務委員会で行われることになるのであるが、予算委員会での審議の実態を踏まえて少々苦言を呈しておくと、共謀罪を巡る議論は与野党ともに議論が噛み合っていなかった。まず、野党側は成案が得られていないにも関わらず、細かい点を突きすぎていたように思う。そうして突いた点が実は成案には盛り込まれていませんでしたということになったらどうするつもりなのだろうか。民進党における「共謀罪」質疑の急先鋒である山尾志桜里衆議院議員、元検察官ということもあって、まさにこの質疑にはうってつけの専門家であるが、「空回り」との意見も民進党内にあったとも聞いている。専門という名の趣味の世界ではない実のある質疑が、果たして法案審議の段階でできるのだろうか。

 他方、与党側も専門的な話であるとは言え、咀嚼した答弁ができていない場面が目立ったように思う。法務省の担当部局の役人は当然に説明できるのだろうが、重要案件の割に、そしてこれまでに何度も議論してきた事項にも関わらず、金田大臣のサポート体制も含めてお粗末だったように思う。(大臣ポストには待機組が多いので、交替前提であえて金田大臣に失点を重ねさせていたりして・・・)

 テロや国際犯罪から国民を守ろうという総論に反対する人はいないだろう。ただし、そのために法制的な面の検討も必要ではあるが、犯罪を未然に防ぐためにはまず国家としてのインテリジェンス機能(高度な情報の収集・分析等)の強化・充実が必要であろう。それでも犯罪が起こってしまうような時に対処するための一つの措置が刑事罰の強化であるが、ことが起こってから刑事罰でははっきり言って遅いだろう。国際的なテロや組織犯罪と紛争は表裏一体であったり紙一重であったりもする。警察、更には自衛隊の在り方や日常的な国民の意識の啓発等、ハード面ソフト面でいろいろやるべきことはあるはずではないか。

 予算委員会ということであれば、そのための予算措置についての議論があってしかるべきであるが・・・

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