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トランプの黒幕「バノン」の世界観(5・了)「オルタナ右翼」と日本文化の親和性 - 会田弘継

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日本との関連

 1990年代初めに「パレオ・コンサーバティブ(略称パレオコン、パレオは「原」ないし「旧来」の意味)」と呼ばれたブキャナン、フランシス、ゴットフリードと、2000年代にオルタナ右翼という呼称で活動を活発化させたスペンサーらを結ぶ中間的な存在が、「新世紀財団」という組織をつくり『アメリカン・ルネッサンス』という雑誌(現在は休刊)を主宰していたジャレッド・テイラー(1951~)だ。オルタナ保守を厳しく批判する「SPLC」は、そのホームページの「過激派情報」でテイラーについて詳細な情報を載せている。【JARED TAYLOR, SPLC EXTREMIST INFO

 SPLCの批判では、1990年に発足したテイラー主宰の「新世紀財団」は、白人の優越性を立証する「研究」を推するエセ・シンクタンクであり、雑誌『アメリカン・ルネッサンス』は、人種と知能の関連に焦点を当てていたとされる。SPLCはテイラーを過激な人種差別主義者と認定している。そうしたシンクタンクや雑誌が生まれたのが1990年、つまりアイデンティティ・ポリティクスを左派の立場から批判するシュレジンガーの『アメリカの分裂』が出版されたのとほぼ同時期である点に注意を喚起しておきたい。また、冷戦集結とともにグローバル経済がまさに大進展していく時期でもあった。

 もう1点、注意を喚起したいのは、テイラーが宣教師の子として16歳まで日本で育ち、イェール大で哲学を学び、フランスのエリート校であるパリ政治学院で国際経済の修士号を得ている点だ。日本語とフランス語に堪能と言われる。この日本との関連は、次に考える若手論客リチャード・スペンサーにおいても注目される。

「オルタナ右翼」の穏健化

 スペンサーの主宰する「国家政策研究所」がトランプ大統領の当選翌週の11月19日にワシントン市内でオルタナ保守系諸組織を集めた祝賀会を開いた際、「ハイル・トランプ(トランプ万歳)」と叫んでナチス式に右手を斜め上に掲げた敬礼をしている映像がテレビで放映され、大きな論議を呼んだ。スペンサーは、イァノプロスのオルタナ右翼分類では「1488族」に近い論客と考えていいだろう。 

 そのスペンサーについては、進歩派の『マザージョーンズ』誌オンライン版がトランプ当選の10日ほど前に詳細なインタビューに基づく優れた報道を行っている。スペンサーは現在、モンタナ州のホワイトフィッシュという人口6000人ほどのスキーリゾートを拠点に活動している。マザージョーンズはスペンサーの思想を次のように要約する。アメリカの白人は多文化主義とずさんな移民政策によって危機に直面している。主流派保守はそうした問題の解消に取り組んで来なかった。アメリカは独裁制による「新たなローマ帝国」を目指すべきだ。市民権の条件は白人であること……ただ、そんなアメリカの実現は夢のような話だと当人も自覚しているから、当面は政策議論の方向性を自分の考える方に向けさせることが目標なのだという。

 スペンサーにとって、バノンやその腹心イァノプロスは、オルタナ右翼を穏健化させようとしているとしか見えない。バノンらは人種に焦点を当てた考え方を捨て、目標を「欧米の価値観(Western values)」の擁護と「PC(政治的正しさ)」による言葉狩りとの戦いに重点を置こうとしているからだという。【Meet The White Nationalist Trying To Ride The Trump Train to Lasting Power, Mother Jones, Oct. 27, 2016

東洋からのインスピレーション

 この記事には不思議なかたちで日本が登場する。たとえば、記事はホワイトフィッシュのホテルのレストランで、スペンサーが箸を巧妙に使って「唐辛子(togarashi)」で味付けしたキハダマグロ料理を食べながらインタビューに応じるシーンから書き起こされる。記者に強い印象を残したのであろう。昨年8月下旬、ヒラリー・クリントン候補がトランプ陣営はオルタナ右翼に乗っ取られたと非難する演説をネバダ州で行った時、スペンサーは休暇を東京で過ごしていて、ホテルのテレビでこの演説を聴いたことも紹介される。さらに、スペンサーは30歳になる直前、アジア系アメリカ人女性と付き合っていたが、それを隠そうとしていることも記事は暴いている。

 マザージョーンズ誌記者は、スペンサーのような白人民族主義者は東洋からインスピレーションを得ようとする傾向があると指摘する。またヒトラーが、日本と中国の古い文明はドイツに優るとも劣らないと評価していたことと関係しないかとも推測している。

 スペンサーとジャレッド・テイラーだけでなく、白人民族主義のアメリカ自由党の党首ウィリアム・ジョンソンも日本語に堪能といわれる。ミーム・チームが、『2ちゃんねる』を模した『4chan』『8chan』を舞台に言論を展開していることも含め、日本(文化)とオルタナ右翼の親和性のようなものは、考察を必要とするテーマだ。

 社会心理学者ジョナサン・ハイトによれば、保守的心理とは「多様性よりは同質性、変化よりは安定、平等主義よりは階層と秩序」を重んじることである。ブライトバート・ニュースのイァノプロスらによれば、オルタナ右翼の中核である本来的保守主義者は、この心理を強く抱いているという。「同質性、安定、階層秩序」こそ、オルタナ保守と日本文化の親和性の核なのかもしれない。そして、アメリカ文化がむしろ「多様性、変化、平等」に重きを置く側なのだとしたら、日米関係は最後はすれ違わないか。気になる。(了)

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