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トランプ氏「張り子の虎」露呈



岩田太郎(在米ジャーナリスト)

ドナルド・トランプ米大統領(70)は、バラク・オバマ前大統領(55)に欠けていた「強さ」を売り物にして当選した。だが、強面の政策を「疾(はや)きこと風の如く」に打ち出した就任後3週間のお披露目期間が過ぎ、「発言だけが勇ましく、実際は気が弱い」本性が徐々に明らかになりつつある。

トランプ大統領は、我が国の安倍晋三総理(62)との日米首脳会談を目前に控えた2月9日、冷遇してきた中国の習近平国家主席(63)が音を上げず、「動かざること山の如し」であることに焦り、取引の材料にしようとした「一つの中国」政策の見直しを、あっさり引っ込めてしまった。ロイター通信の分析記事は、「習国家主席から目に見える譲歩を何も引き出していないのに、態度を軟化させたことで、立場が弱まったようにもみえる」と評した。

毛沢東元国家主席の語録にある「米帝国主義は、張り子の虎である」という言葉を、青年時代に繰り返し学んだ習主席は、「トランプは張り子の虎であり、弱い。これで台湾、南シナ海や尖閣諸島に攻め込んでも大丈夫だ」と確信したことであろう。「侵掠(しんりゃく)すること火の如く」行動するかもしれない。

トランプ氏が弱みを見せたのは、中国に対してのみではない。元日に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長(33)が「新年の辞」で、「(米本土を狙う)大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験の準備が『最終段階』に入った」と述べたことに対し、1月2日、「そんなことは、させない!」とツイートした。「金正恩が越えてはならない一線」を設定したのである。

だが金委員長は、日米首脳がトランプ大統領のフロリダの別荘でいちゃいちゃと「ハネムーン」を楽しんでいるタイミングを狙い、2月12日に新型の中長距離戦略弾道ミサイル「北極星2型」を日本海に射ち込んだ。いつもの「米国に対する求愛行動」の一環であり、米本土を狙える型ではないものの、あっさりと「越えてはならない一線」をかすめてしまった。

この行為に対し、記者会見で安倍首相と並び立ったトランプ大統領は質問を受けず、「米国は常に100%、日本とともにある」と発言するのが精一杯。自ら設定した「越えてはならない一線」について追及されるのを怖れたからである。

当面のトランプ大統領の対応は、習主席を通しての金委員長の説得、自分が槍玉に挙げた国際連合を介した制裁措置など、「弱腰で中国頼み」という、オバマ政権時代と代り映えのしないものになろう。発言が勇ましい分、「張り子の虎」の印象が強まってしまうのである。

また、「必ず、米墨国境の壁の建設費を、メキシコに払わせる」と息巻いていたが、「絶対に支払わない」とのメキシコ政府・国民の固い意志の前に、メキシコ出身の不法移民を取り締まって強制送還するなど弱い対応しかできていない。

米国内においても、1月27日に発令したイスラム圏7か国出身者入国禁止の大統領令が、連邦裁判所によって全米規模で差し止められてしまい、大きな失点となった。しかも、外国首脳との電話会談で一方的に通話を切ったり、無知のため通話中に側近に質問を重ねるなどの内容がリークされたり、無能な広報担当者の失言が続くなど、政権のイメージは悪化する一方である。

ついにはアル・フランケン民主党上院議員に、「複数の共和党議員が、真剣にトランプ氏の精神状態を心配している」と、バラされてしまう始末だ。各種のブックメーカー(賭け屋)予想では、トランプ氏が任期終了前に弾劾される、あるいは辞任する確率が最高48%に達するなど、まさに「張り子の虎」状態だ。

こうしたなか、トランプ大統領が唯一、絶大な力を行使できるのが、「すり寄っている」と欧米メディアに揶揄される安倍首相との関係だ。何も譲歩せず、逆に米国から譲歩を勝ち取った習主席と違い、安倍氏は「徐(しず)かなること林の如く」しておれず、二国間経済協議という重要なカードを切ってしまった。この先、「シンゾーは、友達だろう」と凄まれ、国益に反して譲歩するのが目に見えるようだ。全国の農家や日本の自動車業界は、心配のタネが尽きない。

経済評論家の近藤駿介氏は、「満面の笑みを浮かべる安倍総理の姿は、まるで『脅し役』と『なだめ役』の一人二役を演じた『トランプ刑事』の追及によって完落ちさせられた容疑者のようだった」と評したが、先が思いやられる。

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