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「憤慨する国家主義」の独善化 - 岡崎研究所

 フィナンシャル・タイムズ紙主任経済コメンテーターのマーティン・ウルフが、1月17日付同紙にて、今の世界には世の中に憤慨する者を基礎とする国家主義がはびこり、選挙を踏まえた独裁主義が生まれつつある、と警告しています。要旨、次の通り。

 国家は共同体の中で最も強い絆を与える。歴史的に国家は戦争をするか、貿易をしてきた。貿易は協力と繁栄をもたらす。しかし、貿易は国家に対する忠誠を弱める。それと同時に、グローバル化の勝ち組は、勝たなかった者への関心を怠った。また勝ち組は金融危機をもたらし、彼らの誠実さと能力の評価は地に落ちた。

 これを背景に、「憤慨する国家主義」と称すべきものが扇動された。社会的、経済的変化で世界が変わってしまったと見る者が、憤慨する国家主義と保護主義に走るのは不思議ではない。憤慨する国家主義は、下からのものだけではなく、権力を求める者の戦術でもある。彼らは彼らを支持する「真の国民」と、「国民の敵」を区別する。彼らにとって毎日が戦争であり、戦争ではすべてが正当化される。

 そして彼らは自由民主主義を「国民投票に基づく独裁主義」に変えるのは当然であると考える。ポーランドやトルコがいい例である。独立の情報源は腐敗しているとみなされる。トランプはどこまで国民投票に基づく独裁主義への道を歩むのであろうか。

 大方は米国の諸制度がしっかりしているので、たいして進まないだろうと見ている。しかし制度の強さはその制度を運用する人による。米国の司法は言論の自由を守るだろうか。議会は投票権を守るだろうか。トランプは彼に反対する者を脅して黙らせるだろうか。

 イスラエルの思想家のYuval Harariは、自由民主主義と自由市場に幻滅を感じたと言っても、誰もそれに代わる世界的に魅力のあるビジョンを打ち出していない、と言った。しかし「権威主義的国家主義」がそれに代わり得る。いまや権威主義的国家主義が世界体制の中心に座るようになった。

出典:Martin Wolf,‘The economic peril of aggrieved nationalism’(Financial Times, January 17, 2017)
https://www.ft.com/content/5c7c6a26-db0a-11e6-9d7c-be108f1c1dce

 ウルフはこの論説で、2つの新造語により、世界の現状を説明しようとしています。一つは「憤慨する国家主義」で、これはグローバル化に取り残された層の怒りを基礎とする国家主義という意味のようです。もう一つは「国民投票に基づく独裁主義」で、選挙に基づいてはいるが、言論の自由の規制などで事実上独裁政治を行うことを意味していると思われます。今の西側世界の潮流が、反グローバル化、反移民で国家主義の色彩を濃く帯びているのは事実です。トランプも「アメリカ第一主義」を唱えるなど、その主張は国家主義的と言わざるを得ません。

明白となった米国内の分裂

 ウルフは米国も、「国民投票に基づく独裁主義」に陥る危険なしとしない、と警告しています。確かに、トランプは彼に批判的なメディアや反対意見を激しく攻撃しています。しかし、ウルフ自身が引用しているように、米国は諸制度がしっかりしており、しかも、その制度を支える人の多くは良識に富んでいます。米国をポーランドやトルコと同列に論じるのは行き過ぎでしょう。

 米国の問題は、むしろ大統領選挙を通じて明白となった国内の分裂ではないかと思われます。トランプは就任演説で、国民の融和について何の言及もしませんでした。トランプの就任式の日、そしてその後の激しいデモが象徴するような分裂は根が深く、当分続くと見られます。

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