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なぜ取り締まれないのか|2011脱法ドラッグ問題4

いま日本で「合法ハーブ」と呼ばれて出回っている商品は、乾燥植物片に何らかの合成カンナビノイドを添加して、大麻によく似た作用感をもたらす脱法ドラッグです。売り物にしている大麻類似の作用感は、主に、添加された合成カンナビノイドによってもたらされるもので、この種商品の中心は、ごく少量添加されている合成カンナビノイドなのです。
こうした商品が流通しているのは主に先進国の市場で、ヨーロッパ、アメリカなどと同様に、わが国でも出回っています。

2008年末に、ヨーロッパで合成カンナビノイドの添加が確認されてから、各国は次々と対策をとってきました。
対策は、基本的に、製品に添加されている合成カンナビノイドを特定し、これを法規制の対象薬物に指定する方式がとられます。ヨーロッパ各国は、2009年初頭から暫定措置を適用してこれら物質を規制対象としたり、規制に向けて評価手続きを開始し、様々な手法で法規制に乗り出しました。わが国も、2009年10月、JWH-018、CP-47,497など3種の合成カンナビノイドを指定薬物に指定し、法規制に着手しました。

当初、規制策は成果を挙げたように見えました。あれほど出回っていた製品が一時期は市場から姿を消したのですが、しかし、その効果が持続したのはごく限られた期間でした。間もなく同じブランドで「新ヴァージョン」などと銘打った次世代製品が現れ始め、あっという間に市場のスキマを埋めてしまいました。規制された成分に替えて、別な種類の合成カンナビノイドを添加したものが、次世代商品として供給されたのです。

前述したように、過去数十年の間に、大学や製薬会社の研究室で生み出された膨大な量の合成カンナビノイドに関する基礎資料が、学術文献として発表されています。これらは大麻の作用や、人体のカンナビノイド受容体の仕組みを解明する基礎研究のために合成されたものですが、脱法ドラッグ業者はこうした資料からいくらでも代替品を見つけ出すことができるわけです。さらに、過去の学術研究を発展させて、新たな化合物を生み出すことだってできるでしょう。

わが国では、2009年から3回にわたって10種の合成カンナビノイドが指定薬物に指定されていますが、その都度、すぐに新世代商品が発売され、モグラ叩き状態が繰り返されています。

包括規制への取り組み



こうした状況を予測して、英国(UK)は、確認された物質を個別に規制する方式をとらずに、主要な合成カンナビノイドを包括的に規制する新たな規制方式を採用しました。
英国は、「スパイス」ブランドをはじめ合成カンナビノイド製品の発売元や、小売業者、卸売り業者が集中していたことから、より抜本的な規制策が求められていたという事情がありました。そこで薬物乱用諮問委員会(ACMD)が提言し、政府が採用したのが、化合物の基本骨格による包括的な規制策です。
ここでは、規制すべき合成カンナビノイドを化学構造の基本形(基本骨格)によって6タイプに分類し、各タイプに属する化合物をすべて規制の対称にするという方法をとっています。

ACMDは次のように説明しています。
「特定の物質を規制するのは最も単純なアプローチではあるが、多数の化合物の化学名を延々と列挙しなければならないだけでなく、いかなるリストも完璧ではないというリスクがある。言い換えれば、未規制の(デザイナー)アナログ物質が、たちまち市場に現れるかもしれない。
包括規制は、以下のような物質群に対しては適切である。

・ 構造的な中核のなかで比較的単純な置き換えパターンが起きている
・ 既知の事例が多数ある
・ 新規のアナログ物質の出現がありうる
・ 単純な定義で対象グループをくくることができる
(ACMD‘Consideration of the major cannabinoid agonists’(2009) 9ページ)

たとえば、第1のグループはナフソールインドール類で、このグループに属する既知の合成カンナビノイドの例として、JWH-018など多数が例示されています。資料には、このグループを化学的に定義する説明があるのですが、私の知識では歯が立たないので、興味のある方は下記の資料をぜひご覧ください。

こうした包括規制については、専門家の間では早くから検討されてきたといいます。米国の連邦アナログ令FEDERAL ANALOG ACT OF 1986は、スケジュールⅠ及びⅡ物質のアナログ(類似構造を持つ物質)に対する規制を定めたものですが、アナログの定義に関して論点が多く、実際に適用しにくいといわれています。
それに比べて、ACMDが示した6つの基本骨格によるグループ分けは明快で、実用的に思えますが、今後どのような問題が出てくるかは今のところわかりません。

英国(UK)では、2009年にこのような包括的な規制を導入した結果、現時点では、既知の合成カンナビノイドを使った製品はすべて法規制の対象ということになりました。2010年の報告では、英国に本拠を置く販売元や小売業者は大幅に減少したようです。ただし、EU内での流通が盛んななかで、外国から持ち込まれ、配達される製品を完全に排除するのは困難なようですが。

[参考文献]
薬物乱用諮問委員会編『主要なカンナビノイド・アゴニストの検討』(2009)
ACMD‘Consideration of the major cannabinoid agonists’(2009)
http://www.namsdl.org/documents/ACMDMajorCannabinoidReport.pdf

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