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早期停戦を望むトランプ政権と米メディアの論争

注)本コラムは筆者の個人的見解を示すものであり、JICAの公式見解を反映しているものではありません。

トランプ政権と米メディアの葛藤が激しくなっている。

選挙期間中から「メディはウソばかり書く」とメディアへの嫌悪感を露骨にしていたトランプ大統領は、当選後も“ウソ”を書くメディアへの対抗策として、自説の発信はほとんどツイッターで行っていた。1月11日に約半年ぶりに記者会見の場に姿を見せたトランプ大統領だったが、露情報機関が大統領のスキャンダルを握った可能性を報じた記者の質問を遮り、「FAKE NEWS」、「君の会社は最低だ」などと罵声を浴びせている。

この記者会見の模様は日本のテレビでも再三報じられたので私も見たが、超大国の大統領としては、いささか大人気ない対応だ。これまで世界各地で各種の記者会見に出席したが、平時で答弁者が記者をここまで罵った会見には、出会ったことがない。よほど腹に据えかねていたのだろう。

新たなホワイトハウスのスタッフも、メディア不信の大統領が選んだ人たちだけに、メディア敵視の姿勢は一貫している。ホワイトハウスで影響力を高めているバノン上級顧問・首席戦略官は、1月26日のニューヨーク・タイムズとの電話インタビューで、「(大統領選の予測を誤ったメディアは)恥じてしばらく黙っていろ」と挑発した。日常的にメディアに接するスパイサー報道官も、1月23日の初の定例会見で、大統領就任式の人出に関する記事を巡ってCNNの記者らと火花を散らしている。

トランプ政権のマスコミ対応は、トランプ氏に批判的な大手メディアを敵視、改革の名のもとに従来、ワシントンでは存在感が薄かった新興メディアや外国報道機関を優遇するのが基本のようだ。地方メディアも重視しており、2月1日の報道官定例会見では、初めてスカイプを導入、ワシントンに常駐していない地方テレビ局の記者の質問を優先させていた。既存の大手メディアの記者を遠ざける狙いからか、副大統領など政府中枢が入るホワイトハウス西館にあった会見室や記者の作業室を、隣のビルに移転する計画も検討されたが、これはメディアの反対で中止されている。

政権スタート前からのメディアとの不協和音に、オバマ前大統領は、最後の記者会見(1月18日)で、「アメリカは権力に批判的な目を向けるあなたたち(記者)を必要としている」と述べ、新政権を牽制した。もっとも、オバマ前大統領も正式に大統領に選出された直後の記者会見(2009年1月9日)で、事前に質問者を決め、その記者を捜して手元の名簿を読み上げたことで、他のメディアから厳しく批判されている。また、SNSによる発信に重点を置き、オバマ政権時代の記者会見開催数は大きく減った。そのため、「最もアクセスの難しい大統領」とさえ言われていたのだ。通信技術の急速な発展という時代の変化もあるが、オバマ氏にとっても、記者はあまり接触したくない存在だったのだろう。

ホワイトハウスには、1914年に発足した「White House Correspondents Association (WHCA)」という記者会がある。会員は大統領府が発行する取材パスを有する者に限られるが、記者会見出席や隣の作業スペースを使用する権利が与えられる。一見、ホワイトハウスの記者サービスにも見えるが、誕生のきっかけは、1913年に初めて記者会見を行ったウィルソン大統領がオフレコ発言を勝手に書いた記者に激怒、慌てた記者側が取材ルールを自主管理するために結成したものだ。トランプ大統領になってから、急に政府と記者の対立が激しくなったように見えるが、大統領と記者の鬩ぎあいは、ウィルソン大統領の時代から続いていたのだ。

トランプ政権と米メディアの争いはいつ収まるのか。もともとアメリカの新聞、テレビは、一部を除いて左翼リベラル色の強く、民主党を支持する論調が多い。一方で共和党には批判的な記事を書きたてる。トランプ政権誕生後、連続して出された大統領令には、驚くようなものが多いこともあり、アメリカだけでなく世界のメディアの論調は、今のところ、トランプ批判が優勢だ。だが、米メディアにも反省の余地は多々ある。大統領選当初、泡沫候補に近かったトランプ氏を、視聴率が上がるからという理由だけで再三取り上げ、有力候補に仕立てたのは自分たちだ。現在、これだけ厳しい批判をするのなら、なぜ、もっと早くからトランプ氏の脆弱性を指摘しなかったのか。米メディアの対応が違っていたら、トランプ大統領は誕生しなかった可能性も高い。

一部メディアの自分たちの主義・主張だけが正しいという唯我独尊ぶりも気に懸かる。大統領就任式の人出論争、中東・アフリカ7か国国民の入国制限など現状は政府の失点が目立つが、今後も自分たちの主張だけが、「唯一の事実(One and Only Fact)」と過信して拳を振り続けると、アメリカ分断の亀裂は益々大きくなる。メディアは過信してはならない。

トランプ大統領が「いやだ」とごねても、アメリカは今も世界の民主主義のリーダーであり、模範だ。アメリカの政府とメディアが子どものようなケンカをしていると、民主化を熱望する途上国の有為の人々を失望させるだろう。

世界の多くのジャーナリストが尊敬するアメリカのジャーナリスト、ジェームス・レストン氏(1909-1995年)は、「政府と記者が最高の仕事をしている時は、互いに味方同士であり、両者は思慮ある少数派の声に耳を傾け、連携して国家の難事にあたるべきだ」と言っている。今のアメリカの政府、記者の双方にこの言葉を贈りたい。

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