- 2017年02月10日 10:05
社会保障改革と言ったって経済成長を望めない中で、弱者救済や富の再分配は難しいと言わざるをえない―「賢人論。」第31回(後編)安田洋祐氏
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結果的に生まれてしまう敗者やセーフティネットが必要な人たちに対して、保護をあらかじめ用意しておくというのは非常に重要
安田 マクロ全体で見たときに、椅子取りゲームをイメージしてもらうとわかりやすいんですが、どれだけ個々のプレーヤーが頑張っても最終的な椅子の数が決まっているのだとしたら、そこからこぼれる人は出てくるわけです。全体のパイが限られているから、持つものと持たざるものが必然的に出てきてしまう。こぼれてしまった人たちを救うのは、さきほどお話しした再分配や、セーフティネットになってきます。
介護の問題もそうですよね。誰が高齢になるまで元気でいられるか、どこで体に無理がきかなくなるか、認知症になってしまうか、それは事前にはわからないわけじゃないですか。運や偶然で決まってくる面が多分にあるので、個人の努力だけではどうしようもない。
みんなの介護 個人の力ではどうにもならない事態になったときに社会全体で当事者を支えよう、というのが社会保障制度ですからね。
安田 幸運にもまだまだ自分で活躍できるという方は、もちろん介護の世話にならないかもしれませんが、不幸にもそうじゃなくなってしまった人は、気軽に介護サービスを使えるような環境にしていかないといけません。若い世代にとってみても、こうした仕組みがきちんと成り立っていることは重要ですよね。
みんなの介護 今の若い人たちが歳をとって介護が必要になったときに、介護保険がないというのは不安ですからね…。
安田 「介護費も高い、医療費も高い、となった場合に備えて自助努力でなんとかするためには、ものすごく蓄財しておかないと危ない」と感じて、若い世代が老後に備えようとすると、当然そのお金は消費に回らなくなります。すると結果的に、現在の景気にも悪い影響を及ぼしてしまう。医療や介護の制度設計が、実はマクロの景気も左右するんですね。セーフティネットをきちんと用意しておくことは、すでに存在する弱者を救うだけでなく、将来の不確実性を減らすことを通じて、経済成長にもプラスの効果をもたらすのです。
このように、結果的に生まれてしまう敗者や、セーフティネットが必要な人たちに対して、保護をあらかじめ用意しておくというのは非常に重要です。そこの部分は、今まで過小評価されすぎていたような気がします。競争に任せていると、全体のパイは大きくなる傾向がありますが、では大きくなったパイをどうやって分配するのか、どれだけセーフティネットに投資しておくべきか、という議論はどちらかと言うと置いてきぼりにされてきた印象です。他にも、人口成長や経済成長が当たり前の時代に作られた制度が、もはや現実の状況に合わなくなっているのに、なかなか制度変更が進んでいないという現状も問題ですね。
だから、中編「世代間格差の議論が進まないように見えるのも、それぞれが自分の損得に基づいて投票してしまっているから」でお話したような議論を通じて、なかなか変わってこなかった制度設計の仕方を将来志向に変えていくべきなのです。それこそ、シニア世代に、知識と経験に基づいた助言を仰いだり、誰も損をしないようなアイデアを出してもらったりしていってほしいですね。彼らが賢人として活躍できるような世の中になれば、日本の未来はまだまだ明るいように感じます。



