- 2017年02月09日 06:00
高齢ドライバー事故、免許証返納ではない解決策 「後付け」の安全装置も出現。自動ブレーキ義務化も視野に - 中西 享,伊藤 悟
1/2「母が軽度の認知症と診断され、運転免許証を返納させるか否か、家族で揉めています」
榊原史子さん(仮名、東京都中央区在住)はそう悩みを打ち明ける。76歳になる母親は埼玉県草加市に住んでいるが、最寄駅から車で15分のところに住んでおり、自動車は生活に欠かせないという。
「交通事故の恐ろしいところは、運転している本人だけでなく、何の罪もない周りの人も巻き込むことです。私としては何とか返納させたいと考えているのですが……」
高齢化した親に免許証を返納させるべきか否か─。もしくは自分自身、免許証を返納すべきか否か─。こんな悩みを抱えている方も多いのではなかろうか。
実態とは異なる
報道から受けるイメージ
2016年は交通事故死者の54.8%が65歳以上と、統計が残る以降、最も高い割合を示した。テレビをつければ、連日のように高齢運転者による悲惨な事故が報道されている。「高齢者は運転すべきでない。強制的に免許証を返納させろ」。こんな意見も目立つ。
だが、事故の詳細をみていくと、日々の報道から受ける印象とは異なる実態が浮かび上がってくる。警察庁の資料によると、05年に6165件あった交通の死亡事故が、15年には3585件へと減少している。これは高齢者を含む全事故の件数で、ここ10年ほどで4割以上も減っている。
認知症に罹患しやすくなる75歳以上の高齢運転者が起こした死亡事故件数のみ抽出してみると、05年は457件、15年は458件とほぼ横ばいだ。つまり、死亡事故全体の件数は減っているが、75歳以上の高齢運転者による事故は横ばいなので、割合が高まっている(05年7.4%→15年12.8%)ということになる。
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3月に道交法改正
強化される認知症対策
75歳以上の高齢運転者による死亡事故の割合が12.8%とはいえ、認知症に罹患しやすい高齢者の多くがハンドルを握る現状を憂う意見には耳を傾ける必要がある。
今年の3月12日から認知症の高齢運転者への対策を強化した改正道路交通法が施行される。免許更新時に認知機能検査で認知症の疑いがある75歳以上のドライバーは、逆走や信号無視などの交通違反がなくても医師の診察が必要になる。逆に交通違反があると、臨時の認知機能検査が課され、認知症が疑われると医師の診察が必要になる。いずれも認知症ドライバーによる重大な事故を未然に防ぐのが狙いだ。
免許更新を受ける高齢ドライバーの数から考えると、これまでは認知症と診断されて免許取り消しになるケースは少なかった。
老年精神医学が専門の慶應義塾大学医学部の三村將教授は「この改正法の施行により、医師による臨時適性検査の対象が大幅に拡大されるので、診察を行う認知症の専門医をどう確保するかなどの問題はあるが、一定の成果はあるのではないか」とみている。
高齢者の免許証の返納についてみると、警察庁の統計では75歳以上の免許所有者のうち自主返納したのは15年では2.8%しかなく、返納者数は増えているが低い水準にとどまっている。
特に地方の過疎地域の場合、地方自治体の財政難からバスなどの公共交通機関が縮小、廃止されてきており、買い物、病院通いなどの移動手段がマイカーしかないところが多い。
このため、高齢者になっても生活の足として運転せざるを得ない状況にあり、地方では一律的な返納は反発を招きかねない状況になっている。
高齢者に対して無理に免許を返納させようとするとトラブルが起きかねない。昨年12月には岡山市で事故を起こした母親(79歳)と免許返納を求める息子とで口論になり殺人未遂事件まで起きている。
仮に75歳以上の高齢者すべてに免許証を返納させたとしても、前出の通り、12.8%の死亡事故はなくなるが、90%弱の死亡事故は残る。
果たして交通事故を限りなくゼロに近付け、しかも地域の足を確保する解決策はあるのだろうか。
期待すべきはテクノロジー
広がる「自動ブレーキ」
その解の一つはテクノロジーである。昨今注目されている自動運転は、そもそも人にぶつからない可能性が高いが、すべての自動車が自動運転車になるにはまだまだ時間がかかる。現実的には、「自動ブレーキ機能」に大きな期待が寄せられる。
画像を見るシリコンバレーの一般道を試験走行するグーグルの自動運転車(MASATAKA NAMAZU)
08年にいち早く低価格で衝突防止装置を取り付けたのが、ステレオカメラで前方の障害物を検知する運転支援システム「アイサイト」を導入した富士重工業だった。10年以降、装着費用が10万円程度と割安だったことからユーザーの支持を受けて普及した。
トヨタ自動車は、車の前後に取り付けた超音波センサーが障害物の接近を表示とブザーで知らせ、ペダルの踏み間違いによる衝突防止に役立つ「インテリジェントクリアランスソナー(ICS)」を開発、12年以降9車種に搭載してきた。今後、装備できる車種を増やす方針だ。
ICSを装備した車と、していない車の駐車場で起きた事故データ約2500件を比較調査したところ、装着した車のペダル踏み間違い事故が約7割減少、後退時の事故は約4割減少したという結果を得られたという。
自動車の価格が高価であればあるだけ、自動ブレーキ機能を付加することによる価格上昇の割合が抑えられるため、受け入れられやすいが、低価格がウリの軽自動車にもこの機能は広がってきている。
ダイハツ工業は12年にレーザーレーダーで前方の障害物を検知する衝突回避支援システム「スマートアシスト」を軽自動車で初めて導入、5万円という低価格だったことから装着するドライバーが増え、昨年7月には「スマートアシスト」搭載車種が累計100万台を超えた。今や同社が販売する乗用車では、約8割のユーザーが「スマートアシスト」搭載の自動車を選んでいるという。
今後、自動ブレーキ機能を搭載した自動車はますます増えていくものと予想されるが、ここで問題となるのが中古車である。
日本では新車約500万台に対し、中古車約370万台が売れる(15年)など、中古車市場の存在感は大きい。自動ブレーキ機能が搭載された新車が数多く世に出れば、いずれ中古車市場にも出回ることになるが、それにはまだ時間がかかる。自動ブレーキ機能の後付けが安価でできれば、事故は少なくなるが、一筋縄ではいかないようだ。
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