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米中衝突のリスクを知るための3つの「T」 - 岡崎研究所

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのギデオン・ラックマンが、1月16日付同紙にて、3つのT(台湾、ティラーソン、貿易)に注目すればトランプの米国は中国との衝突に向かっていることが示唆されると警告、そのような米中衝突を引き起こしてはならないと主張しています。要旨、次の通り。

 トランプの対ロシア関係は毒々しく明白である。しかし、もっと重要で危険なことに注目すべきだ。それはトランプ政権が中国との衝突(軍事衝突も排除できない)に向かっているとの兆候が高まっていることだ。

 ティラーソン国務長官候補の議会承認公聴会での証言によれば、南シナ海で中国が建設している人工島に対する米国の立場が一層強硬になっている。同氏は人工島建設をロシアによる違法なクリミア併合に例えて、トランプ政権は「これらの島への(中国の)アクセスを認めない」とのシグナルを送ろうとしていると発言した。

 それは中国が軍事基地化している島の海上封鎖を示唆しているように聞こえた。中国は確実に海と空から封鎖を突破しようとするだろう。それはキューバ・ミサイル危機の現代版になる。環球時報は「大規模な戦争」になると警告、中国日報は「破壊的な対立」と呼んだ。
従来、米国の唯一の懸念は航行の自由であり島の帰属については立場を取ることはしないとしてきたが、この米の公式的立場とも矛盾する。しかし、ティラーソンは発言を撤回、補足説明することはしなかった。

 米中正常化の79年以後、米国は「一つの中国」政策を尊重してきた。何十年と米大統領は台湾総統と話すことはしなかったが、トランプは蔡英文総統の電話をとった。トランプは、中国が貿易で妥協しない限り「一つの中国」政策を転換すると述べた。中国は台湾の独立よりは戦争をすると言って来たので、これは極めて高リスクの政策だ。

 トランプの最重要関心事は貿易であろう。選挙戦で、トランプは中国との間にある5000億ドルの貿易赤字を許すわけにはいかないと言ってきた。反中国の保護貿易主義者が、国家貿易委員会を主宰することになった。既に中国からの輸入品に対する関税引き上げや輸入税の話が出ている。

 これら3つのT、すなわち、台湾、ティラーソン、貿易をみれば、トランプの米は中国との衝突に向かっていることに疑いはない。習近平の中国は格段にナショナリスティックになっている。中国は、アジアにおける米国の同盟国に軍事、外交、経済圧力を加えている。中国はミサイル防衛システムの配備決定を撤回させるために韓国の企業を差別している。シンガポールは長年台湾で軍隊の訓練を行ってきたが、中国は台湾との関係を止めさせようと圧力を強めている。中国は香港を通過するシンガポールの装甲車を差し押さえてしまった。

 最近、中国は空母を台湾海峡に派遣し、飛来する中国軍機に対し日韓がスクランブルをかけたりした。トランプと習近平は、それぞれの立場に固執しようとしている。

 米中対決はアジアにおける米国の同盟国等に難しい選択を強いるだろう。これらの国が、米中衝突を押し進めようとする、不規則で、予測が不可能、保護主義的なトランプ政権と協力するかどうかは明確でない。これでは、トランプ政権の米国と中国が衝突することになっても国際社会の同情を得られると当然視することは出来ない。

出典:Gideon Rachman,‘Pacific conflict looms between America and China’(Financial Times, January 16, 2017)
https://www.ft.com/content/a396bbf8-dbcf-11e6-9d7c-be108f1c1dce

 幅広い視野に立った興味深い分析です。ラックマンは、ティラーソンの議会証言、台湾、貿易の3つ(3つのTと呼ぶ)に着目し、トランプの下で米中は衝突に向かっていると警告します。確かにリスクを過小評価してはなりませんが、クリントン政権、オバマ政権が失敗したように、政権の初めに過度にソフトな信号を中国に送ることは避けるべきであり、適切な強い信号を送っておくことは悪いことではありません。トランプ政権が無原則なディール外交に陥る危険があると考えれば尚更でしょう。

 ラックマンは、南シナ海で海上封鎖も辞さないような強い立場を示したとティラーソン証言を強く懸念しています。しかし、議会証言でのティラーソンの中国観には、むしろ安堵できます。問題は、ティラーソン流の考えが今後トランプとの上下関係の中で如何に勝ち残って行くかではないでしょうか。何時までもトランプ(側近を含む)と閣僚の考えが相違したままにしたツー・トラック政治で行くことはできません。

人工島へのアクセスを認めない

 人工島へのアクセスを認めないとのティラーソンの発言をラックマンは懸念しますが、アクセスを黙認することもできません。南シナ海の軍事化は政策としても支持できませんし、また習近平の公的宣言にも違背するものです。望むべきは中国が早く国際社会での生き方を学ぶべきことではないでしょうか。

 ラックマンの第二の懸念は、台湾政策の転換です。これについてはトランプ側に少し慎重な取り扱いが必要であるようにも思われます。台湾問題は、台湾と中国が平和的に解決すべき問題であり、解決策が見えなければ、辛抱強く現状を維持する他ありません。

 ラックマンの第三の懸念は貿易です。米中貿易の規模などを見れば、米国にとって対中貿易問題は避けて通れない問題ですが、トランプの考えは出口がない乱暴な議論です。そもそも二国間で均衡を取ろうというのがおかしいのです。WTOを離脱すれば関係なくなりますが、新規課税については、セーフガードなどのために許される範囲を超えて取ることはWTO違反です。また、中国からの輸入品が高くなれば米国の消費者が被害を受けることになります。

 トランプを支持してきた人々が一番被害を受けるかもしれません。また、共和党の支持基盤の産業界の利益も損なわれるでしょう。短期的にはともかく、中長期的にはそのような措置は米国の利益に反し、多くのものを失うでしょう。トランプ政権が早く実態を理解し、ルールに従って現実的に米の利益を最大化する方途を見出すことを望みたいものです。一方的、個別戦術的、圧力経済外交が解決策ではありません。

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