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Vol.295 現場からの医療改革推進協議会第六回シンポジウム 抄録から(2) - 谷本哲也

谷口プロジェクト(原発作業員のためにできること)
2011年10月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

事務局としてのサポート活動


福島第一原発作業員のための自己造血幹細胞の事前採取・保存を提案した谷口修一氏を中心とし、ボランティアサポートチームを3月に結成した(谷口プロジェクト)。その直後、「(1)作業員にさらなる精神的、身体的負担をかける、(2)国際機関での合意がない、(3)十分な国民の理解が得られていない(4月 3日付産経新聞記事より)」との理由で、原子力安全委員会からの否定的見解が報道された。また、日本学術会議からは「不要かつ不適切」(4月25日)との見解も出され、舛添要一議員からの質問に対し、菅直人前首相(4月25日)や野田佳彦首相(9月16日)からは否定的な答弁が行われた。

これに対する事務局側の活動として、ホームページ(http://www.savefukushima50.org/)、ツイッター、フェイスブック、メールマガジンや種々の勉強会・講演会等の開催により情報発信を継続的に行った。また、医学専門誌ランセット(Lancet 2011;377:1489-90, Lancet 2011;378:484-5)での提言・議論を行い、各種国内メディア等のみならず、タイムやサイエンス等多くの海外メディア、国際的専門家会議でも度々取り上げられた。さらに、福島県内での診療も開始し、被災者や原発作業員の方々の健康管理にも取り組んでいる。

これまでに知る限り、国内では我々提案者側と反対者側の専門家や東京電力等関係者の間で、公開での議論は未だなされていない。福島第一原発事故全体からすれば九牛の一毛に過ぎないとしても、人命に直接かかわる問題だ。現代日本社会は何に優先順位を置くのだろうか。本件に一律の解答はなく、原発作業員一人一人の作業内容・期間、年齢、既往歴、価値観等に応じ個別化した対応が必要だと考える。

本セッションでは3人の演者から、1)谷口プロジェクトの概要、2)社会における意志決定、3)原発作業の実際、についてご講演頂く。


原発作業員に対する自己造血幹細胞事前採取・保存の提言


谷口 修一(虎の門病院血液内科部長)

2011年3月11日14時46分、病院の8Fにいた。信じられないほどの揺れを感じる。何とか収まり、ただごとではないと当科の患者さんがいる3Fから 13Fまで歩き、100人以上の入院患者さんの安全を確認し、13階詰所でスタッフの報告を待つ。聞こえてくるのは、患者さんの部屋のTVで見たらしく、「津波で車がぷかぷか浮いていました」「台場方面が燃えています」・・。例にもれず、帰宅難民となり、やっと帰れた翌日のニュースではじめて福島第一原子力発電所事故を知る。画像では水素爆発や自衛隊や消防隊による必死の冷却作業を伝える。妙な激しい胸騒ぎを覚える。思い出すのは1999年に起こった東海村JCO臨界事故。東大の先生方の懸命な治療にも関わらず、救命できなかった。今回、原子炉周辺の詳細な状況は報道されなかったが、近くで働く医師として、万が一の急性被曝者が出たときに備えるのは当然のことであった。

急性被曝者が出た場合、造血組織は、他の臓器に比べて、より少ない線量で、またより短時間で破壊される。白血球がない状態ではいずれにしても救命できないため、血液内科を中心に全身管理が行われる。G-CSF(白血球を増やす薬剤)を投与しながら必要に応じて輸血、抗生物質投与、他臓器の障害に対する治療が行われる。被曝量が多い時は、血球回復は見込めず造血幹細胞移植が考慮される。この場合、HLA(白血球型と略称される)が一致したドナーの存在が不可欠で、まず兄弟の検索が行われ(兄弟で1/4の確率で一致)、次に臍帯血やHLA不適合移植が考慮される。当院では年間100例近くの臍帯血移植を実施しており、実際には臍帯血を選択することになると考える。しかし、皮膚や腸管に障害があると臍帯血をはじめ非自己の細胞では救命できないのではと考え始める。

移植後2〜3ヶ月は少なくとも免疫反応(GVHD)を抑える免疫抑制治療が行われ、GVHDでは放射線障害と同じ皮膚、腸管、肺が攻撃される。この状況での救命治療はかなり困難を伴う。この時点から、GVHDは起こさない自分の幹細胞があればと考え始めた...


政策決定における専門家の連携不全について


葉山 雅(University College London公共政策修士コース)

一般に、専門家の知見は関連分野の政策決定において重要な役割を担うが、一つの政策決定に対して専門家同士の意見が大きく割れコンセンサスの形成がなされない場合には、政策上の対応が遅れることになる。そのため、重大なリスクへの対策について迅速な判断が求められる局面においては特に、専門家集団の円滑な連携が重要である。福島原発事故への対応がそのような速やかな政策決定を要していることは論を待たないが、「谷口プロジェクト」の経緯は専門家間の連携が困難であるために政策決定が遅延しうることを如実に表している。

科学技術や医療の専門家の間では谷口プロジェクトについて十分な討論がなされないままに半年が経過しているが、その政治的コンテクスト形成には、政府およびその関連組織、医療機関、メディア等が関与している。特に、政府やその関連組織からはプロジェクトに対して否定的な見解しか出されておらず、この政府側の反対が、様々な政治的背景を持つ研究者の間で活発な意見交換の妨げの一因となっているものと推測される。また、政府には原発作業員のリスクについて国内外に過大な印象を与えることを避けたがる傾向があると言われており、そのような政府側の態度が専門家らのリスクアセスメントそのものに影響を及ぼす可能性も指摘されている。

このような専門家間の膠着状態を改善し状況を前に進めるためには、谷口プロジェクトについて政策上の合意形成を求める世論が高まることが肝要であろう。また同時に、メディアも真に人々の耳目を集めるべき話題を提示するという意味で重要な役割を担う。原発作業員の健康・安全を確保するためには、また我が国のリスクマネジメント全般について健全な政策判断が行われていくためには、国民とメディアもまた、自らの果たし得る役割について自覚的であることが求められている。


自身が原発作業員になってみて初めてわかった作業上の盲点


鈴木 智彦(フリーライター)

東日本大震災直後、東京電力福島第一原発が津波によって冷却機関を喪失し、メルトダウンという最悪の事態が訪れた。ここで原因を論議することは避けるが、その後、一号機と三号機が立て続けに水素爆発を起こし、近隣一帯はもちろん、広範囲に放射性物質をまき散らしたのは周知の事実である。

水素爆発のあと、私は三つの暴力団ルートを使い作業員募集の求人に応じた。それはいまに至るまでずっと待機が続いている。あきらめきれない私は、縁故や友人に片っ端から電話をかけ、現地の職安などにもでかけ、ある求人を見つけた。それは炉心周りを得意とする原発の協力企業の中でも中核となるべき専門職で、その会社に就職した後、一ヶ月の準備期間をおき、その間、マスコミ報道で知った谷口プロジェクトに賛同、我が身のため、原発作業員として初めて、造血幹細胞採取を行ったのである。
谷口プロジェクトを不要と断じる東電、厚労省の思惑の背景には、予算という現実的な問題があっただろう。もしすべての作業員から造血幹細胞を採取し、保存すると仮定すると、施術や液体窒素で保存しておく費用を単純計算すれば、かなりの費用となるだろう。もっともその金額は払って当然のものであり、東電の事故解決費用、保証の金額からすれば微々たるものである。

もっとも不思議だったのは、医学関係者から構成される学会が、谷口プロジェクトに反対したことだ。彼らのプレスリリースは、医学では門外漢の私も首を横にひねらずにおけない矛盾点が多い。たとえば、長い臨床例があり、広く普及した白血病患者治療の定番であるにもかかわらず、造血幹細胞採取が白血病を引き起こす可能性がある、という馬鹿げた見解すらあった。そのことに関しては専門家に解説をお任せするが、私は自身の経験により、造血幹細胞の採取が経済的、肉体的にどの程度の負担になるか身をもって体験している。

それを踏まえ、原発作業員に対し、本当に必要なバックアップ体制はなにか? 自身の経験談からいくつかの問題点を提起したい。

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