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「町おこしではなく、町のこし」3月31日の避難指示解除は浪江町に希望をもたらすか

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「3月31日の避難指示解除」提案後、初の住民懇談会

住民懇談会終了後、報道陣の取材に応じる馬場有町長

「震災前は『町おこし』をしていたわけですよ。それが私どもは『町おこし』じゃなくて、いったん町がなくなった状況ですからね。ですから、町を残していく。その感覚が強い。まず、町を残して、帰ってこられる方は帰ってきていただいて……」

2017年1月26日。いまも全町避難が続く福島県双葉郡浪江町で、避難指示解除に向けた住民懇談会が開かれた。その懇談会終了後、報道陣に囲まれた馬場有(たもつ)町長はときおり天を仰ぎ、言葉を詰まらせながら町の将来へ向けた思いを語った。

「以前の生活には戻れませんけれども、一歩でも二歩でも、昔の町に戻す。町を残したい、ということですね……」

この懇談会に先立つ1月18日。国は浪江町に対して正式に「今年3月31日での避難指示解除」を提案した。解除の対象となるのは居住制限区域と避難指示解除準備区域。面積の上では町の約2割だが、区域内の住民は計5842世帯1万5356人で町の人口の約8割を占める。今回の解除に帰還困難区域は含まれていないものの、かりに解除されれば最大規模の解除となる。

浪江町は東日本大震災発災時、双葉郡8か町村で一番人口が多い自治体だった。当時の人口は約2万1千人。浪江町は原発立地自治体ではないが、町民のうち2500人〜3000人が原子力発電所関連の会社で働いていたという。

しかし、原発事故が起きた時、浪江町には国や県、東京電力からの連絡は一切なかった。放射性物質の飛散状況も知らされなかった。そのため町民は放射線量が高いことを知らずに同町北西部の津島地区に避難することとなった。

2014年2月、筆者が『週刊通販生活』で馬場町長にインタビューした際、町長は震災直後の混乱を次のように語っていた。

「3月12日の朝5時44分頃、私が役場の災害対策本部でテレビを見ていると、首相官邸の記者会見で『福島第一原発から10キロ圏内の方は避難して下さい』という発表があったんです。これを私が見たのは全くの偶然でした。テレビを見て、初めて町が避難エリアであることを知りました」

「国、県、東京電力から町へは一切連絡がありませんでした。福島第一原発から10キロ圏内には約1万6千人の町民が生活していました。あわてて消防車や広報車を出して、苅野小学校、大堀小学校、やすらぎ荘といった10キロ圏外の公共施設へ避難していただいたんです。前日には『一夜明ければ津波の被害に遭った人も助けられるかもしれない』と思っていましたから、後ろ髪引かれる思いで10キロ圏外への避難を呼びかけました。ところが12日午後3時36分に福島第一原発1号機が水素爆発したんです。『これじゃあダメだ』と思いました」

「浪江町の西側、山間部の津島地区には役場の津島支所があります。原発から27キロ離れているため、ここに避難すれば事故から逃れられるだろうと避難しました。ところがこれは後からわかったことですが、爆発した原発からの放射能が、私どもの避難経路を追いかけるように降っていたんです。そのため津島に避難していた1万1千人ほどの浪江町民は、軽度ではありますが被ばくをする結果になりました」

※いずれも『週刊通販生活』での馬場有町長インタビューより
https://www.cataloghouse.co.jp/yomimono/genpatsu/hatakeyama/03/

そんな過酷事故から5年10か月。1月26日の住民懇談会は、国が避難指示解除の具体的な日程を提案してから初めて開かれたものだ。

住民懇談会はこの日から2月10日までの間、町民が避難生活を送る地域を中心に県内外10か所で開かれる。その最初の会場に設定されたのは、浪江町内にある浪江町地域スポーツセンターだった。

住民懇談会会場となった浪江町地域スポーツセンター

昨年11月からは浪江町内で「ふるさとへの帰還に向けた準備のための宿泊」(準備宿泊)が実施されている。また、地域スポーツセンターは日中の自由な出入りが可能な避難指示解除準備区域に位置している。すでに浪江町内で生活している町民もいるため、第一回目の会場に選んだのだと馬場町長は説明した。

もともと同施設は東日本大震災の年(2011年)の夏に完成する予定で工事が進められていたものだ。しかし、原発事故による全町避難で工事は中断。長らく手付かずだったが、2015年7月からは「帰還後の住民交流の場」を目指して工事が再開され、2016年3月に完成した。

「いやあ、初めて入ったけど、ずいぶん立派だなあ」。住民懇談会が始まる前、会場に集まった町民からはそんな明るい声が聞こえてきた。新しい施設で懐かしい顔と再会した町民が、お互いの無事を喜ぶ。まだ正式な帰還は果たせていないが、まさに住民交流の場となっていた。

しかし、しばらくして本題の住民懇談会が始まると、それまでの和やかな空気は一変し、会場は緊迫した空気に包まれた。

住民の意向は本当に反映されているのか

1月26日の住民懇談会には約130人が参加した(撮影:畠山理仁)

この日の住民懇談会では、国側が除染や帰還に向けての取り組みなどを説明。その後に町が第二次復興計画の概要を報告し、最後に会場の住民から意見を聞く流れになっていた。

各担当者からの説明に先立ち、馬場町長、続いて国側の出席者である原子力災害現地対策本部の後藤収副本部長が会場の参加者に向けて挨拶をした。

「避難指示解除はゴールではなくスタートです。避難指示解除がないと、できないことがある」

後藤副本部長は冒頭の挨拶で、避難指示解除の意義をそう強調した。たしかにこれは一理ある。避難指示が出ていることで宅配業者が配達に来ないなど、町に戻った住民が不利益を被ることもある。避難指示が解除されることで日々の暮らしの不便さが解消され、復興が進みやすくなる側面もある。

しかし、この日の会場となった地域スポーツセンターは、避難指示が解除される前に工事が再開されて無事に完成している。また、町内での宿泊を希望する人は準備宿泊の制度を利用して町内に泊まることもできる。急いで避難指示を解除しなくても、できることがあるのもまた事実だ。

2人の挨拶に続いて、環境省福島環境再生事務所からは「浪江町における除染及び廃棄物処理」についての説明がなされた。環境省によると、平成28年度内には町内の避難指示解除準備区域、居住制限区域の除染を完了する計画で、除染によって地域全体の空間線量率(地上1m)が平均64%低減したという。

原子力被災者生活支援チームの松井拓郎支援調整官
続いてマイクを受け取った内閣府原子力被災者生活支援チームの松井拓郎支援調整官は、避難指示解除に関する国の考え方を改めて説明した。

「避難指示解除は『帰還の強制』ではありません。避難指示解除によって国による支援策が終了するわけではありません」

この言葉も間違ってはいない。しかし、解除に反対する人々の中には、「支援策の早期打ち切りへの思惑があるのではないか」と訝る人もいる。国がいくら否定しようとも、国への不信は消えない。震災の傷は、それほど深い。

こうした国からの説明は、浪江町に先んじて避難指示が解除された他の自治体でも繰り返されてきた。国は住民からの意見を聞く場も設ける。しかし、解除の時期が多少後ろにずれることはあっても、国の基本方針が大きく揺らぐことはない。「状況が概ね整った」という国の捉え方と、住民が望む「概ね整った」が明らかに一致していないように見えても、だ。

一つの例を挙げよう。こうした説明会では、住民から解除に対して懐疑的な意見が出されることが多い。一方、解除に賛成する意見が出されることは珍しい。

これは早期の解除を望む傾向にある高齢者が、体力的な理由などから説明会に出席できないことも関係しているだろう。そのため説明会や懇談会を見る限り、国と住民の意見には大きなズレが生じる。しかし、そのような状況にあっても、国の方針が大きく修正されることはない。

国側の論理はこうだ。「公の場で発言するのは大変勇気のいることだ。誰でも発言できるわけではない。私たちは個別に意見の聞き取りも行なっている。公の場では発言しなくても、個別では解除してもらいたいという声を私たちは聞いている。『帰りたい』というサイレントマジョリティの声も大事にしなければならない」

しかし、実際に「住民の何割が解除に賛成しているのか」という明確な数字は示されない。住民の意向が正確に反映されているかどうかはわからないままだ。

この日の説明会では、特例宿泊、準備宿泊の期間中、浪江町に滞在している町民に携帯してもらった個人線量計「Dシャトル」によって集められた236件の線量データも紹介された。結果は年間外部被曝線量(町内滞在時抽出)の中央値が1.54、最小値は0.79、最大値は5.87というものだ(単位はいずれもミリシーベルト/年)。資料とともにこれらの数値を発表した後、松井支援調整官はこう言った。

「長期目標としている『年間1ミリシーベルト』に近づいている。5.87の方は線量が高かったということで、除染もやらせてもらうなどの対策を打った。また、インフラの面では、ご自宅から目的地(町内および南相馬市内の医療機関、商業施設等)まで送迎可能なデマンドタクシーを4月から運行すべく準備を進めています」

住民はそうした国側からの説明を静かに聞く。しかし、表情は一様に硬い。

国側の説明が終わると、町からは第二次復興計画の中間取りまとめについての説明がなされた。
http://www.town.namie.fukushima.jp/uploaded/attachment/6555.pdf

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