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目指すのは「中道の経済政策」~国際政治学者・三浦瑠麗氏に聞くトランプ大統領誕生後の世界

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就任早々、7か国の人々の入国を一時的に禁止する大統領令に署名するなど、アメリカに大きな混乱をもたらしているトランプ大統領。選挙戦を通じて、その過激な発言が注目を集めたトランプ大統領は、どのような政策を主張し、どのような世界を目指すのだろうか。昨年のBLOGOS AWARD2016銅賞の国際政治学者・三浦瑠麗氏に聞いた。

保守的で平易なトランプのレトリック

撮影:弘田充

―トランプ大統領が就任し、現在も様々な報道がされていますが、暴言や差別的言質など極端な部分ばかりが注目をされ、基本的な政策の中身があまり語られていないように思います。三浦さんはトランプの政策の特徴を、どのようにご覧になっていますか。

まず、トランプの政策のレトリックは、保守的かつ極めて平易で小・中学生が理解できる範囲内に収まっています。ただ、そうした平易なレトリックを用いて、大衆を煽りながらも、やりたい政策は、「中道の経済政策」というところが特徴だと思います。

中道というのは、「分配と成長を両立させる」ということです。これは「成長」だけを重視してきた、かつての共和党にはなかった発想です。一方、昨今の民主党は、「分配」に偏り過ぎていました。選挙戦中は、両方の候補が嘘をついたり、論点を誤誘導するものです。そうしたなかで、ヒラリーが成長について正面から語らず、分配についてばかり語ったのが結果的には致命傷となりました。これは民主党にとって非常に不幸なことでしたが、結果的にトランプが中道を語ったことは良いことだったと思います。

「成長と分配を両立させる」というのは、非常にスタンダードな理念で、本来あるべき姿です。しかし、そのための方法が、従来の経済理論に反するようなものが多い。それこそ「法人税を15%にする」などということは、「出来たら嬉しいけど、逆立ちしたって無理だろう」と思う人がほとんどでしょう。だからこそ、これまで経済誌はきちんと報道してこなかったのです。

政策的に冒険主義的なものに対しては、「そもそも分析するのが不道徳」というような空気があったと思います。日本のエコノミストも、私が目にする限り、選挙戦中はトランプの税制、政策をほとんど分析していませんでした。

ただFT(フィナンシャル・タイムズ)は、昨年の早い段階で、トランプの「所得税制を一新する」という経済政策について、プラスに評価していました。また、法人減税についても、「できないと思われていたが、実施すれば非常に効果的である」ということは指摘していました。

―通商政策については「保護主義的な政策をとる」と言われています。

トランプは、「俺は相当エクストリームだから気を付けろよ。何するかわからないぞ」という論法を使っています。これはオバマが、NAFTAを見直そうとしていながら出来なかったのと対照的に「俺は暴走するから」という前提を背景に、交渉能力を高めている部分がある。その上で、これから世界の経済、貿易については3つ方向性があると考えています。

1つ目は、国家社会主義の国々が、ブロック経済を形成していくパターン。これはサンダースが大統領になっていたとしても起こりえたことですが、このパターンで行くと”持たざる国”が出現するので、第二次大戦前の“いつか来た道”という印象があります。

2つ目は、これまでリベラルな国際関係の専門家が「素晴らしい」と言い続けていたEU的なるものの拡大です。究極的には、世界政府的な何かでしょう。

しかし現在、イギリスがEUから、人の移動を理由に離脱してしまいましたし、日本を始めとする東アジア諸国はEUのような枠組みを備えていません。もし、リベラルが好きな、こうした経済貿易体制を本当に導入するのであれば、日本人がこだわっている”聖域”と言われる部分もすべて捨てなければならないでしょう。「そんな覚悟あったんでしたっけ?」というのが正直なところです。

3つ目の道は、トランプが主張しているような二国間協定の集積としての自由貿易体制で、かつ、国民国家がナショナリティを前提に、国民に属人課税をする世界です。属人課税の見返りはそこそこの社会保障という、今のアメリカの基準では欠けているものになると思います。この形をとると、東アジアや東南アジアのように発展具合が異なる国に対して、段階的に共通の仕組みや制度を導入していくことができます。

その過程では、自国産業の保護の論理が顔を出し、グローバル企業を見せしめにするような副作用が生じますし、犠牲者も続出するでしょう。ただ国民国家と主権国家、多国籍企業の競争の中では、非常に狭い道ではあるものの、これしか方法がないとも思います。

トランプがすくいあげた「紛争介入していいことがあったのか」という思い

撮影:弘田充

―三浦さんは、ご著書の中で「トランプ大統領の誕生」を「冷戦の終了」のような大きなパラダイムシフトの流れの中で捉えるべきだと指摘しています。

冷戦が終わったときに、アメリカは「今後どうするべきか」ということがよくわかっていなかったと思います。結果として、冷戦の終了による最大の効果は、ヒラリー・クリントンの夫であるビル・クリントンという、若い政治家が大統領になったことでした。

彼は内政重視で、「It's the economy, stupid」(経済こそ重要なのだ、おバカさん!) と主張して選挙に勝った。つまり、内向きから始まった政権だったのです。にもかかわらず、対外政策においてはズルズルと紛争介入を繰り返しました。それは国連のブトロス・ガリ(第6代国連事務総長)が「アジェンダ・フォー・ピース」を提唱し、先進国を説得して紛争に対応するという概念を生み出した時期でもありました。こうした状況の中で、2001年にブッシュ政権下で同時多発テロが起こり、「冷戦後」ではなく「テロ後」という定義づけがされるようになりました。

ただ、「冷戦後」の定義が不十分だったからこそ、「テロ後」にすぐ置き変わってしまったのだと思います。テロそのものは、それ以前から存在していましたし、特異なことではなかったはずです。しかし、同時多発テロにより介入に「対テロ戦争」という目的が与えられてしまいました。

「対テロ戦争」は、イラクで無残に失敗し、さらにオバマがアフガニスタン戦争を拡大して、これもまた無残に失敗しました。なぜ失敗したかというと、「目的を定められなかったから」であると私は考えています。軍隊を導入して国家を建設して、アフガニスタンをデンマークのような国にすることは、どだい不可能です。結局オバマのアフガニスタン戦争における成功の定義というのは、「俺はオサマ・ビン・ラディンを殺した」ということに過ぎません。

しかし、それだけが成果なのであれば、「特殊部隊の投入」でよかったじゃないかという話になるので、そうした大衆の気持ちをトランプがすくい上げたのです。つまり、「紛争介入して何かいい事あったのか」「他人の国家を平和で豊かにする一極主義に意味はあるのか」という思いです。

これは他の共和党候補から出て来なかった発想で、本当にゼロベースで考えたからこそ、こうした転換ができた。そこで初めて、「冷戦後」という中途半端な時代が終わって、「アメリカがこれからどうしていくのか」という国益の定義が始まるわけです。現実的には宇宙とサイバー空間に投資することで、別の段階における一極主義の模索が行われるのだろうと、私は予測しています。

―トランプ大統領誕生により日米同盟も見直される可能性があり、防衛費が現在の5兆円から倍増する可能性すらあるといわれています。しかし、安保法制の議論を思い出すと、国会やメディア上で、安全保障について建設的な議論がすぐに成立するのは難しいようにも思います。

私個人は望みを捨てていないのですが、難しいと思います。現に安全保障リアリスト派の中の一部に、核武装論が出てきています。私自身も『SAPIO』で「韓国が核武装したら日本もするだろう」と述べました。

ただ多くの人たちが、安全保障問題に対して甘く見込んでいる部分がある。逆に言えば、「アメリカがどれだけ強引な国か」を理解していないのではないでしょうか。おそらく日本が中途半端な形で、「交渉力として、自分たちも核を持つかも…」と言い出せば、アメリカは強硬に反対するでしょうし、おそらく様々な関係性をてこに脅されるでしょう。

そうなったときに、再び我々は、自分たちで決定できなかったツケを「じゃあ何をすればいいですか?」と非常に愚かしい質問をアメリカにすることで払うことになってしまうのです。

結局、日本は憲法改正、具体的には9条2項で自衛隊を憲法上不自然な存在に位置づけている状態を解消することを、自分たちで決断するべきなんです。それが出来なければ、アメリカへの従属度合いを深めてしまうことになるでしょう。トランプという、これまでの経緯論を理解してくれない人物の登場によって、交渉が日本に分の悪い形で妥結してしまう可能性が高まっているとも言えます。

―日本のアカデミズムは左派が強いイメージがあり、三浦さんのような主張をする方は珍しいと思いますが。

少数派ですね。学界の中でも特に人文系や法学、政治の分野にはもともとリアリストが少なかったように思います。

多くの日本人は抽象思考が苦手だというのもまた問題です。思考訓練をしても、すべて現実の問題として捉えてしまう。また、自分で比較考量をして決断するのではなくて、常に状況の”被害者”であると認識しがちです。これは戦前からの傾向で、「自分達は日露戦争に協力したのに、ちゃんとした賠償金が出ない被害者」だと主張して、日比谷公園を焼き討ちました。しかし、こうした被害者意識は当事者感覚を生みません。実は自分たちが政府を戦争に追いやっているかもしれないにも関わらず、そのことに自覚的ではない。

おそらく、いい意味でも、悪い意味でも、日本は民がしっかりと自分たちの権利意識をもっているのでしょう。他方で、「自由」というものの価値を、本当には理解していない。だから、日本のエリート社会は圧力に弱いし、トレンドに弱い。結局、日本のエリート社会や知識人社会だけに期待していても、全体主義から国を守れないんです。そこで、経済人が頑張らないといけません。

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