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福島県立医大の放射線医療拠点化構想を問う〜事業仕分け人の視点から〜

構想日本「自治体の事業仕分け」 仕分け人
医療法人鉄蕉会(亀田メディカルセンター)経営企画室 押元 朋子
2011年9月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

福島県の地元メディアは9月20日、福島県立医大の放射線医療拠点化構想を報じました。事業費約1千億円を想定し、福島県とともに政府の第3次補正予算に盛り込むことを要求するとの内容です。報道によると、同構想の概要は以下の通りです。

・5年以内に、5施設からなる放射線医療施設を新設
・5施設のために鉄筋コンクリート9階建て建物(延べ床面積約2万9千㎡)を建設
・具体的には、1)330床の「放射線医学健康管理センター」(仮称)、2)分子イメージング施設(2カ所)、がん治療を中心とする3)創薬・治験センター及び4)研究・実験施設、産学連携拠点となる5)「ふくしま医療産業振興拠点」(仮称)を整備
・主要な設備としては、PET、サイクロトロン、超高解像度のCTスキャン、ホールボディーカウンターなどを設置
・年内に被ばく医療に特化した医学講座を新設(合わせて、医学部の定員増を要望予定)

民主党政権の登場で有名になった「事業仕分け」ですが、実は、2002年から各地の自治体で地道に展開されてきたものです。生活に密接した行政の取り組みについて、外部の視点を入れながら、公開で、そもそも論から議論していくことで成果を上げ、近年は対象事業の選定や当日の議論・判定に住民が直接参加する取り組みとしても、発展しています。
本稿では、この壮大な構想について、事業仕分け人の視点から問題提起を試みます。

目的・目標は明確ですか



事業仕分けではまず、事業の目的と、その目的に沿った具体的な目標を問います。
各種報道によると、本構想の下で描く各事業には、大まかに分けて1)県民の健康管理、2)創薬・研究・実験、3)人材育成、4)産学連携・産業振興という目的が掲げられているようです。しかし、この目的に沿って目指すところ(目標)は漠然としている印象を受けます。例えば、増床する330床はどの程度の稼働率を目標とするのでしょうか。いつまでにいくつの新薬を開発するのでしょうか。いつまでに何名の医師を育てるのでしょうか。いつまでに何社を誘致するのでしょうか。

目標が漠然としていると、その達成手段の選択もあやふやになり、当初の目的を逸脱したり、費用対効果を悪化させる可能性が高まります。本構想に含まれる各事業について、具体的な目標設定は行われているのでしょうか。予算に関わる議論の前提として、公開すべきではないでしょうか。

「ハコモノ」は本当に必要ですか



続いて、掲げられた目的・目標に対する手段の妥当性を問います。
本構想では、上記の目的を実現する5施設を設置するために、9階建て建物を建設すると報じられています。しかし、この建物は本当に必要でしょうか。
9階建ての大部分は、330床の「健康管理センター」が占めるとみられます。福島県立医大附属病院は、778床の大病院です。病床の稼働率はどのような状況でしょうか。実は、想定される入院患者数を吸収できるだけのベッドが眠っているかもしれません。手段は一つではありません。既存施設の有効活用は、財源不足の昨今、常識となってきています。

また、「類似(もしくは重複)する事業はないか」という点の確認も必要です。復興予算の名の下、原発事故対策に関連付けた多くの事業案が出ていることが推察されます。どのような大義名分があっても、公的な予算から(増税も視野に)拠出する事業には違いありません。この事業が本当に必要なものか、より効果的で効率的な手段が無いか、既存の取り組みや他の事業案とも比較して議論することが重要です。

「事業費」は本当に1千億円ですか



ところで「事業費約1千億円を想定」と報道されていますが、これは本当でしょうか。
各地の事業仕分けでしばしば遭遇する課題が、ハコモノ事業に対するコスト感覚の欠如です。施設を新築すると、土地取得費用や建設費などの初期費用だけでなく、日々、施設をメンテナンスしていくコストがかかります。これには当然、メンテナンスに携わる人件費も含まれます。また、施設を持ち続ければ老朽化し、大規模修繕が必要となります。長期的な修繕計画を含むトータルコストを試算し、その費用をどのようにまかなっていくか、シミュレーションをしておくことが重要です。

さらに、施設そのものの収益で費用をまかなえない場合は、誰がどのように負担するのでしょうか。国から、あるいは福島県から補助金を出すのでしょうか。議論が必要です。
事業の成立性という観点からは、他にも気になる点があります。広島大・長崎大との提携で医師を確保するとのことですが、看護師や放射線技師など、他のスタッフを確保する見通しは立っているのでしょうか。また、質の高い医療の提供、人材育成、研究開発の実現には、優秀な人材が不可欠です。新規講座の教員や、国内最高水準の研究を実現する研究者を集める戦略も気になります。さらに、昨今の経済情勢を受け、全国的に企業誘致は困難な状況です。誘致できる見通しは立っているのでしょうか。費用だけではなく、具体的な事業の成立性・実現性の検証が必要です。

復興予算によって拠出する妥当性について



最後に、当院副院長の小松秀樹医師は、先日MRICで配信された「東北メディカル・メガバンク構想の倫理的欠陥」と題する記事で、復興予算による拠出を正当化するための4条件を提案していました。正当化するためには、以下の条件のいずれかを満たすことが必要だと述べています。

【小松医師による復興財源を正当化する4条件】
1.地元の被災者の生活の維持と再建に直結すること
2.被災者の雇用に直結すること
3.被災者を多数雇用する地元企業にお金が落ちること
4.被災地を後にした被災者の再就職と生活再建に直結すること

本構想は、復興予算による拠出に見合う事業でしょうか。負担する私たち一人一人に分かりやすいように、ご説明をお願い致します。

<参考資料>
・2011.9.20 福島民報「放射線医療5施設新設へ 福島医大に健康管理センター330床など」
http://www.minpo.jp/view.php?blockId=9889934&newsMode=article&pageId=4147
・福島県 復興ビジョン(福島県 公式HP)
http://wwwcms.pref.fukushima.jp/pcp_portal/PortalServlet?DISPLAY_ID=DIRECT&NEXT_DISPLAY_ID=U000004&CONTENTS_ID=24003
・事業仕分けとは?(1)(構想日本 事業仕分け 公式HP)
http://www.kosonippon.org/shiwake/about01/index.php
・2011.9.13小松秀樹「東北メディカル・メガバンク構想の倫理的欠陥」(MRIC by医療ガバナンス学会 vol.268)
http://medg.jp/mt/2011/09/vol268.html

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