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病院の震災対応 (その1/2)

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この記事は日本評論社の経済セミナー増刊『復興と希望の経済学』に掲載された記事を転載したものです。

亀田総合病院 副院長 
小松秀樹

2011年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災での医療・介護に対する救援活動については、実際の活動に携わりながら、さまざまな文章を書いてきた(文献1,2,3,4,5)。医療介護救援活動の全体像については、『緊急提言集 東日本大震災 今後の日本社会の向かうべき道』(全労済協会)にまとめた。本稿では、病院が大災害にどのように対応すべきなのか考えたい。

○1. 規範より実情が重要
東日本大震災は想定を超えた大規模なものだった。病院のみならず、大半の自治体で、災害時のマニュアルは役立たなかった。行政の危機対応は遅く、拙劣だった(文献2,6)。
亀田総合病院は、被災地から、透析患者、人工呼吸器装着患者を受け入れ、老人健康保健施設、知的障害者施設の千葉県鴨川市への疎開作戦を立案・遂行した。
亀田総合病院の小野沢滋医師は、鴨川市を含む安房地域に要介護者を受け入れるために、石巻の避難所で活動した。石巻の医療・介護需要を明らかにするために全戸調査を実施した。これには、亀田総合病院から多数の職員がボランティアとして参加した。
いずれも、想定していなかった災害に対する、誰もが実施したことのない救援活動だった。新しい取り組みだったこともあり、様々な局面で、行政と齟齬が生じた。行政の、法令と前例に縛られた硬直性、事実を捻じ曲げる知的誠実性の欠如、被災者救済より自らの責任回避を優先する倫理的退廃には、何度も驚かされた。自らの権力を高めるだけのためとしか思えない情報の非開示や小出しは、日常的に行われているように思えた。
行政は、法令が、災害の実情に合わなくても、規範として扱う。法令に無理があることを反省せずに、しばしば、「法令を遵守していなかったではないか」と現場を非難する。法令は、現場を蹴落として、その反作用で自分を高めて責任を回避するための行政の道具に見えてしまう。

○2. 「病院における災害対応の原則」義解
病院における災害対応の原則をA4紙1枚にまとめた(表1)。東日本大震災を見聞・体験した上での筆者の個人的メモである。以下、意図を簡単に解説する。

(1)法令より常識と想像力 臨時組織より既存組織 完璧は危うい
大災害時には、対応を単純にしないと動けない。ところが、官僚にとっての最重要課題は、論理的整合性である。責任回避を可能にするからである。論理的整合性にこだわると、複雑になり、実行不可能になるが、問題が生じても現場の責任にできる。官庁のお仕着せのマニュアルは、そのままでは、いざという時に役立たない。常識と想像力で、それぞれの病院にあった簡潔なマニュアルを作成する必要がある。
消防法の改正で2009年6月1日より、施設の建物の階数や面積が一定の条件を超えると、自衛消防組織の設置・届出が義務付けられることになった。東京消防庁の「自衛消防隊の組織編成基準」の冒頭に、自衛消防とは、「火災、地震その他の災害等による人的又は物的な被害を最小限に止めるため、事業所で行う必要な措置の総称」と定義されている。これに続いて、自衛消防隊、自衛消防活動、防災センター、防災センター要員、自衛消防活動中核要員、自衛消防組織、統括管理者、自衛消防要員、告示班長、自衛消防業務講習修了者等の定義が並ぶ。通報連絡班、初期消火班、避難誘導班、応急救護班などを設置し、それぞれを告示班長が統括することになっている。これらを、通常の機能している組織内部に置くという。複雑怪奇としか言いようがない。

そもそも、病院には何種類かの通報連絡設備があり、担当部署が運用と保守点検に当たっている。入院患者の避難誘導は看護師の主要任務の一つである。病棟では護送、担送すべき患者の数は常に把握されている。救急部は応急救護の専門家集団である。
災害対応のために普段と異なる職務の訓練を本格的に行うとすれば、本来の職務を阻害し、結果として病院の機能を低下させる。組織横断的な自衛消防隊を設置するとすれば、既存組織にない機能や既存組織の補助・支援に限定しないと矛盾が生じる。自衛消防隊の機能はできるだけ既存組織が担うようにすべきである。
なぜ複雑・怪奇になるのか。自衛消防では、各種講習の受講が義務付けられている。新規講習の受講料は1名当たり3万7000円。講習業務を、財団法人日本消防設備安全センターが担当し、講習事務を地方の公益法人が引き受けている。あらゆる業種を集めての講習なので、講習内容は少なくとも病院の実情とはかけ離れている。しかし、義務付けられているので、受講せざるをえない。毎年、莫大な受講料が天下り財団に流れる仕組みになっている。

(2)指揮官
迅速に集まれる病院幹部が集まって、当面の指揮官を決定し、災害本部を立ち上げる。病院幹部の定義は病院ごとに決めればよい。危機管理に不向きの管理者が、指揮官に選ばれないように工夫する必要がある。

病院の日常業務の多くは、指揮官がいなくても回っていく。通常の火災は、仕組みさえ作っておけば、自動的に対応できる。一方、大災害への対応は指揮官が必要である。病院の運命を決める重要な決定を下さなければならない場面が生じうる。このため、指揮官には、病院の最高責任者が就任すべきである。

災害本部の設置場所をあらかじめ決めておく。東京消防庁の「自衛消防隊の組織編成基準」は、防災センターを自衛消防隊本部拠点にするとしている。防災センターは、自動火災報知の受信、スプリンクラーの監視、消防ポンプの監視・遠隔操作、非常放送設備などの操作を行うことのできる総合操作盤を備えている。いずれも火災を想定したものである。1997年9月16日の総合消防防災システムガイドライン(消防予第148号)では、防災センターを「原則として1階(避難階)に設ける」としている。1階は津波に弱い。通常の火災と地震をひとまとめにしようとすることに無理がある。自衛消防組織については、欠点が多すぎる。早急に消防法を改正する必要がある。

指揮官は災害対策本部の設置を院内に周知する。病院がどのような状況にあるのか、現場で忙しく働いている職員には分からない。状況を把握して職員に説明し、行動の方向を決めるのが指揮官の役割である。病院から逃げ出す必要が生じたときに、指揮官が逃げると決めて号令しなければ、大混乱が生じる。指揮官は右往左往してはならないが、判断を固定化してもいけない。常に状況を観察しつつ、判断が正しいかどうか検証して、必要があれば、適宜修正しなければならない。

避難誘導は火災と津波を想定する。東京の一部では、テロを想定しないといけないかもしれない。地震で建物が倒壊すれば、病院職員による避難誘導だけでは対応できない。
通常の火災対応は総務畑の管理職が統括すればよい。火災時の避難は、防火扉設置場所を超えて、反対側に水平移動する。あるいは、非常階段から下方階に避難する。看護部主導とし、応援部隊を設定しておく。動きやすい計画に基づいて訓練をして、自主的に動けるようにしておく。

津波では上方階への避難が必要になる。地震のために、エレベーターは使用できない。何階まで避難させるかの決定は指揮官の仕事である。本当に避難が必要かどうか判断しにくいが、決定のタイミングが遅れると大きな被害が出る。集中治療室の患者にとって、移動すること自体、極めて危険である。手術中の対応はさらに難しい。

亀田総合病院は、東日本大震災で、透析患者の受入れ、老健疎開作戦を行った。透析患者や要介護者の多くは、自力でバスから降りることができなかった。高齢患者は簡単に骨折する。もっとも活躍したのは、体の扱いを熟知し、かつ、体力のある理学療法士や作業療法士といったリハビリテーション部門のスタッフだった。亀田総合病院では、約100名の理学療法士が働いている。上方階への避難は、理学療法士の知恵と力を借りるべきである。

指揮官の周囲に、情報係、施設係、装備係、遊撃隊などを置く。指揮官の仕事を減らして、指揮官が冷静に考えられるようにする。さらに、判断を支えるために、参謀、冷静に眺める観察者をおくとよい。観察者は、判断が大きくぶれたとき、組織上の阻害要因が目立ったとき、冷静に指摘することが任務となる。

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