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JASRAC音楽教室から著作権徴収に関する論点整理

JASRACが音楽教室から著作権を徴収するというニュースが出て、ネット上で話題になっている。 

音楽教室から著作権料徴収へ JASRAC方針、反発も 

 アーティストやクリエイターから反対の声も上がっている。

●宇多田ヒカルがJASRACの方針に反対「私の曲は無料で授業に使って」 
●音楽教室から著作権料を徴収する方針に『残酷な天使のテーゼ』の作詞家が反発「音楽を不自由なものにしてはいけない」

 作詞家作曲家や音楽出版社からJASRACに管理が信託されている楽曲については、アーティストの個別の希望を反映することは制度的にできないけれど、アーティストやクリエイターの発言には影響力がある。

 一方で、JASRAC関係者からも発言もあったようだ。

●JASRACの外部理事を務める東大・玉井克哉教授(知的財産法)による大手音楽教室から著作権料徴収についてのまとめ

 いつものことながら著作権のことになると誤解や思い込みによる言説も多いので、僕なりにポイント整理したい。JASRACはネット界隈でパブリックイメージが悪すぎて、正当に評価されていない部分もあり、擁護したい部分もある。

 僕なりにまとめた論点は以下だ。

1)少人数、しばしば1対1の音楽教室で「演奏権」を適用するのが適切か?
 狭く捉えれば、この件のポイントはここになる。ただ法律論になると思うので、弁護士などの専門家の見解を待ちたい。個人的には、無理筋な印象を持っている。

2)音楽教室の音楽ビジネス生態系の効用を認識しているのか?
 当たり前のことだけれど、音楽はファンがいてはじめて成り立つビジネスだ。楽器の演奏を習っているユーザーは、音楽好きが多いだろう。その世界に制約を課すことが音楽ビジネス生態系を俯瞰して見た時に本当にプラスなのか?

 また、例えば音楽教室の先生がJASRAC管理外楽曲を選んで指導することになった場合のJASRAC会員へのマイナスなどへの想像力はあるのか?

 このまま強行すると、クラシックなどの著作権切れの楽曲と、JASRACに預けてない楽曲を選んで音楽教室が行われることもあり得る。縛りすぎると、使われなくなるという構造は理解しておくべきだろう。

3)演奏権の徴収分配がJASRAC独占で、高い手数料が放置されている。
 実業者としては、これを一番強調したい。カラオケとコンサートをセットにしてか信託できず、JASRACが独占状態で高い手数料(23%)が据え置かれているのは大問題だ。JASRACの論理は、田舎のレーザーディスクカラオケの事業社からまで徴収しようとしてコストが掛かっているみたいな話なんだけれど、それなら、通信カラオケ事業社(もう第一興商とエクシングの2社しか無い)の案件の徴収だけに絞るとか、コンサートは自己管理するとかいう「メニュー」を用意するべきだ。

 昨年合併してできたNexToneがまもなく演奏権も取り扱い始めるだろうから、そうすれば解決する方向にいくだろう。JASRACが今の著作権使用料規定を続けるなら、まともな音楽事務所は、演奏権をJASRACの管理から外すことを選ぶはずだ。

 演奏権に関しては、それほど多額になるとは思えない「音楽教室に手を付ける前にやることあるよね?」というのが、一般的な音楽業界人の感覚だろう。

4)JASRACは21世紀のビジョンがあるのか?
 音楽著作権は、既に国際競争が始まっている。音楽視聴がAppleやSpotify、グーグル、アマゾンなどのグローバルプラットフォーマーが中心になっていて、おれまでの国ごとの著作権徴収分配という仕組みが、時代遅れになり始めている。有料ストリーミングサービス、ネットラジオ、YouTubeなどサービスの形態ごとに、著作権と著作隣接権(レコード会社やアーティストの権利)の料率が違うこともあって、パワーゲームでの戦いが実は既に始まっている。そんな中で、日本人の音楽をきちんとビジネスするために、海外でも稼げるためにやるべき課題は大きい。シュリンクする国内市場で「新商品」を無理くり作ろうとするJASRACの姿勢は、「経営的な」視野の狭さを感じて残念だ。

5)著作権信託とは「信じて託されている」という意味
 前述の外部理事の方も、発言自体は正しいけれど、全体的なトンマナに大きな欠如を感じる。それは、JASRACは著作権を「信託」されているという事実だ。信託とは、「信じて託する」という意味で、JASRACに預ければ、正しく徴収し、分配するという信頼があったから、これまで多くの音楽家は楽曲管理を託し、事業社は使用料を支払ってきた。3年に一度しか変更できないけれど、JASRACから管理を外すことはできる。音楽家と音楽ファンから信頼を得ないと、作詞作曲から信じて託されることがなくなる(管理楽曲が減る)ことを知るべきだろう。今回の騒動は、現在のJASRACの方針にそういうリスクがあることを示したと思う。

 そもそもJASRACの理事会は、2/3が作詞家作曲家が務める(1/3は音楽出版社)高齢作家の方が多く、意思決定が保守的になりがちな構造を持っている。1939年設立だから、インタネットなど関係ない時代に作られたルールが積み重ねられている。著作権徴収分配を「取れるところからできるだけ沢山とって、アンフェアにならない程度に大体で分ける」というカルチャーを持つようになった理由は理解できるが、もう時代が許さない。全曲報告で完全透明な分配ができないなら徴収しないくらいの姿勢(合併前のJRCは実際そういう方針だった。)がないと、今の時代は支持をされないだろう。JASRACのネットユーザーの不信の根っこには、分配が完全透明でないことに起因している。

 JASRACには歴史的に大きな功績があるし、力が弱くなることは日本の音楽家、音楽ファン、音楽ビジネスに携わる者にみんなにとってマイナスだ。時代にアップデートした戦略的視点を持たないと自らが衰退するという危機感をJASRAC関係者は持ってほしい。

●ニューミドルマンラボ
 最後は告知。次世代の音楽ビジネスの活性化と人材育成のために、僕が継続して取り組んでいるいるのがニューミドルマンラボだ。4月1日には、ジェイコウガミ(音楽ブロガー / All Digital Music)、柴那典(音楽ライター / 「ヒットの崩壊」著者)、梶望(ユニバーサルミュージック / 宇多田ヒカル、AI、GLIM SPANKYなどの宣伝プロデューサー)の3氏を迎えた座談会を予定しているので、興味のある人は足を運んで欲しい。間もなく情報公開予定なので、このサイトでチェックしてください!

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