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MYUTA事件とiCloud

MYUTAとは、au WIN端末向けストレージサービスである。ユーザーは、MYUTAからダウンロードしたソフトウェアを使って、手持ちのCDの音楽データを携帯電話用ファイルに変換し、パソコンに取り込んだ上、MYUTAの管理運営するサーバーにアップロードする。そして、携帯電話からサーバーにアクセスして、音楽をダウンロードする。

このサービス提供会社が、①音楽著作権者の有する複製権(著作権法21条)を侵害するか否か、②送信可能化権(23条1項)を侵害するか否かが、争われた。

平成19年(2007年)5月25日、東京地方裁判所は次のとおり判断した。第一に、サーバー上で携帯電話用音楽ファイルの「複製」を行うのは、ユーザーではなく、サービス会社である。第二に、音楽ファイルを「公衆送信可能化」するのも、ユーザーではなく、サービス会社である。だから、サービス会社は、著作権侵害の主体になる。

こうして、この裁判は、JASRAC側の全面勝訴で終わった。

著作権法30条1項は、私的使用目的の場合、「使用する者が複製」することを認めているから、ユーザーが独力でPCを駆使して音楽ファイルを複製することは適法だ。だが、本件サービスは、ファイル変換からサーバー保管までの複雑高度な過程を、当該サービス提供会社が作成し提供したソフトウェアにやらせているため、「使用する者が複製」した場合にあたらない、という判断である。確かにPCを操作しCDを挿入しアップロードのエンターキーを押すのはユーザーだが、「複製」の核心的な部分はサービス提供会社側にあるとの判断は、その通りだと思う。

本件サービスでは、PC内でのファイル変換から、サーバーへのアップロードまでが一連のものとして実行されるから、「複製」の主体がサービス提供会社であるとすると、「送信可能化」の主体も同社であることは、自然の流れであろう。そこで問題は、その「送信可能化」が「公衆送信」にあたるのか、という点になる。なぜなら、本件サービスは、アップロードした本人のみがダウンロードすることを想定しているため、このユーザーが「公衆」にあたらない、とも解しうるからだ。

この点について東京地裁は、1個のファイルとの関係では、ダウンロードできるユーザーは一人であるとしても、本件サービスの利用を希望する者は、金さえ払えば誰でもこのサービスを受けられるのだから、サービス提供会社にとって不特定の者であり、著作権法に定める「公衆」にあたると判断した。この判断は、後の最高裁の「まねきTV」事件や、「ロクラク」事件の判断に受け継がれていくことになる。

ご承知の通り、この判決には批判も強い。森義之知財高裁判事は、「一人のユーザーがアクセスすることができるサーバー上の領域は当該ユーザーのみであるという、1対1の関係が維持されていることを理由として、本判決に反対する見解も主張されている」という(著作権判例百選(第4版))。

夏井高人教授は、「MYUTA事件東京地裁判決やロクラクⅡ最高裁判決が正しいとすれば、日本では全てのストレージサービスが違法であるかもしれない」「(MYUTA事件)判決理由の論旨は完全に狂っていると思うし、無効な判決だと理解している」「これらの判決のせいで、日本のIT産業は終焉を迎えてしまっているかもしれない」「これらの判決を書いた裁判官らは、『歩く非関税防疫(貿易?)障害』とでもいうべき存在」とまあ、口を極めて罵っている。

確かに、iPhone4Sが発売されたのに、その中核的なストレージサービスであるiCloudが、日本ではJASRACとの協議未了のため、実現されていない。報道によれば、直接的な原因は著作権料のようだが、上記判決により、JASRAC側に交渉の主導権のあることも一因であろう。

だが、これらの判決によって、ストレージサービスが全て違法になるとは、私には思われない。せいぜい、音楽と映画の専用サービスに、一定の萎縮効果がもたらされる程度だろう。また、著作権法の世界では、「違法になる」からといって、「できない」わけではない。要は、著作権者に相応の金を払えば「できる」のだ。その額が高すぎるとか、JASRACが暴利をむさぼっているとかは、著作権法の解釈とは別問題だ。

これら一連の判決で示された裁判所の政治判断は、「(音楽)ストレージサービスはおよそ禁止すべき」ではなくて、「(音楽)ストレージサービスをするなら、著作権者に金を払いなさい」というものである。それはそれで、一つの判断だと思うし、立法趣旨にも反していないと思う。

少なくとも、大学教授に亡国の輩呼ばわりされるほど狂った判決ではないと思うのだが。

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