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陸山会判決「推論による有罪」批判に思う

陸山会事件判決の評判が悪い。例えば江川紹子氏は、裁判所が多くの被告人調書を証拠採用しなかったにもかかわらず、他の証拠から「大胆な推論」で有罪認定したと批判している。

しかし、この批判はバランスを欠くと思う。江川氏は、自白に依らなければ、推論に頼るしかない、との反論にどう答えるのだろうか。

特に、「密室の犯罪」や「被害者のいない犯罪」を、自白なしで立証するには、推論による有罪認定以外の方法がない場合が多い。政治資金規正法違反はもちろん、贈収賄罪、多くの経済犯罪は、「密室」かつ「被害者のいない犯罪」だし、強姦や強制わいせつ等(痴漢も含む)、共謀共同正犯は、「密室の犯罪」に分類されよう。これら一定の犯罪について、自白に頼らないことは、他の証拠から有罪を推論することと同義である。しかも、自白に頼らない分、今までより「大胆な推論」が必要だ。それもダメだというなら、無罪で良いと割り切るか、故意や謀議を不要と法改正するところまで認めなければ、一貫しない。

無罪で良いと割り切るのは一つの見識だが、政治資金の透明化という立法目的が損なわれるリスクがある。だから無罪で良いという人は、政治資金の透明化は不要というのでなければ、どう手当てするのか考える責任がある。

政治資金規正法違反を過失犯に法改正すれば、「単なる記載ミス」との弁解は通用せず、「ミスで結構。有罪」となる。もちろんこの場合、刑を故意犯なみに重くしないと、立法目的は達成できない。その代わり、本当のうっかりミスも重く罰せられてしまうし、ひいては、故意犯処罰という刑法の原則を大きく崩し、結果処罰に近づける可能性がある。

誤解を恐れず言うと、自白重視は、えん罪を防止する一つの方法だった。「犯罪者でなければ、身代わり等よほどの事情が無い限り、罪を認めるはずがない」という「常識」が存在したからだ。だが、この「常識」は、これを逆手に取り、無理矢理自白させる捜査手法を生み、えん罪につながった。ここに、脱(自白)調書裁判の根拠がある。

だが、脱(自白)調書裁判は、「大胆な推論による有罪認定」を帰結するから、「一貫して否認する無実の被告人」を有罪に陥れるリスクを増やす。あってはならないことだが、裁判官も人間だ。人間は、必ずミスを犯すし、どんな制度にも、絶対安全はない。われわれは、それを半年前に学んだばかりだ。

私は、石川議員らが無実か否かを知らないし、判決文すら読まずに、推論過程の是非を論評する意図もない(大胆な推論が許されるとしても、どんな飛躍も許されるわけではない)。私が言いたいのは、制度というものは、常に長所と短所を抱えているものであり、しかも、多種多様な要素が複雑に絡み合い、かろうじてバランスを保っているものだから、一つの要素を理想に近づければ、必ず全体がうまくいく、というものではないし、逆効果の場合もある、ということである。

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