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地下アイドルの「月給700円」は法的に許されるのか? - 榊 裕葵(社会保険労務士)

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■アイドル活動のため事務所に借金をするのはおかしい

第2は、プロダクションに雇用されるアイドル本人が活動のため金銭的負担をすることは無いということである。

窪田さんは、以前所属していたプロダクションに120万円の借金を背負わされ、現在も返済を続けているということである。

この点、アイドルが労働者であるならば、労働に付随して費用を負担させたり、借金を背負わせたりすることは違法である。

窪田さんの借金の名目は、登録費用、プロフィール作成費、レッスン代ということであるが、いずれも窪田さんが負担すべき金銭ではない。

まず、登録費用に関しては、新入社員が入社する際に会社にお金を納めるなどということは当然考えられない。

次に、プロフィール作成費であるが、おそらく、PRのための書類やポスターを作ったり、アイドル活動に必要な備品などを用意したということであろう。しかし、これも一般の会社員に置き舞えて見れば名刺の作成代や仕事で使うパソコンなどは当然会社の費用で用意するものであり、労働者である本人が負担するものではないと考えられる。

最後に、レッスン代であるが、レッスンがアイドル活動に密接不可分なものであるということならば、本人が負担する必要は無い。通常の会社でも、必要な業務知識を身に付けるための研修や、仕事に必要な資格の取得は会社の費用負担で行われている。

たとえば、ホテルや航空会社に就職した新入社員がマナーやコミュニケーション能力を身に付けるための研修費用、不動産会社に就職した社員が会社の指示で宅地建物取引士を受験する場合の受験料などは会社が負担しているが、同様に、事務所に所属するアイドルが、商品である歌やダンスを磨くためのレッスンは事務所が負担すべきものであろう。アイドルの活動による利益は事務所に帰属するのであるから、費用は本人に負担させ、利益は事務所が取るというのは、信義則上も公平ではない。

■アイドルには辞める自由がある

第3は、アイドルには辞める自由があるということである。

窪田さんが仮面女子の運営元であるアリスプロジェクトとどのような契約を結んでいるかは分からないが、アイドルが契約期間の満了前に脱退を希望する場合、高額な違約金を請求されるケースがあるようである。

この点、一般企業であっても退職を撤回させるために脅しを使うことはあり、私も労働者の方から、『退職をしようとしたら、会社から「君を採用するために会社は50万円使ったのだから、今すぐ辞めるというならば損害賠償をしてもらうよ」と言われたが、どうすれば良いのか』という相談を受けたことがある。

この点、確かに法律上、有期の労働契約を結んだ場合、やむを得ない事情がなければ労働者は契約期間の途中で契約を解除できない。しかしながら、労働契約の不履行に対し、あらかじめ違約金を定めることは違法であり、アイドルも法的に労働者であるとしたら、アイドル活動の辞退に対して違約金を定めることもできないのである。

ただし、契約期間の途中でやむを得ない事由が生じていないのに労働者都合で退職をした場合は、それにより損害が生じた場合には実損分を賠償しなければならないことには注意が必要である。

アイドルの場合は、たとえばコンサートで会場の準備もしているのに前日に突然辞めてしまった、とかであれば損害賠償を受けても仕方がないであろう。しかし、何も実損が生じていないのに、単にアイドルを辞めるからという理由だけで違約金や損害賠償を受けるということは、法的には無いということである。

■アイドルも長時間労働は禁止されるべき

第4は、「長時間労働」に対する保護である。

インターネット上の記事で仮面女子のあるメンバーの1日が紹介されていたが、そのスケジュールには驚いた。

前日の仕事から未明の1時30分に帰宅し、入浴やわずかな仮眠をとった後、明け方5時半には家を出てイベント出演やグラビア撮影に臨む。午後はライブの準備やライブ出演で、21時30分にライブが終わった後は24時まで劇場の掃除や練習という、ブラック企業もビックリのハードスケジュールである。

アイドルが労働者であるとするならば、完全に過労死基準を超えた長時間労働である。電通で起こった悲劇のように、過労自殺などのリスクをプロダクション側は考えないのであろうか。

近年はアイドル活動にとってブログやツイッターなどの更新も重要や要素なので、すき間時間もスマホやノートパソコンに向き合っているのであろう。

1日の労働時間は1日8時間、1週間で40時間までである。それ以上の活動時間が必要ならば、芸能プロダクションも所属アイドルに関する36協定書を労働基準監督署に提出すべきではないだろうか。

AKB48グループでもたびたびメンバーの体調不良が報道されていたが、通常の労働者と同様、アイドルに対しても雇用主であるプロダクションは安全配慮義務、健康管理義務を負わなければならない。

また、アイドルは労働者であることが認められれば、万一のときには労災保険の適用による保護も考えられるであろう。

■アイドルに限らず多様な働き方の対する保護を

今回は、アイドルに焦点を当てて労働基準法の観点から説明を加えてきたが、アイドルに限らず、現在、我が国では働き方が多様化し、労働者とフリーランスの中間的な働き方をする人が増えてきている。

働き方の多様化自体は素晴らしいことだと思うが、たとえばクラウドワーカーのように、労働者に近い存在でありながら、現実に労働基準法の保護を受けられず、グレーゾーンのまま厳しい労働条件で働かざるを得ない層に対して、何らかの法的手当をしていくことが必要であろう。

《参考記事》
■AKB48紅白選抜 矢吹奈子さんと田中美久さんの年齢制限は本当に必要だったのか 榊 裕葵
http://sharescafe.net/50334442-20161230.html
■AKB48選抜総選挙のスピーチからビジネスマンが学ぶべき言葉 榊 裕葵
http://sharescafe.net/45082578-20150608.html
■独立するなら学びたい、AKB48のキャリアウーマン岩佐美咲の仕事術 榊 裕葵
http://sharescafe.net/47686063-20160201.html
■日テレ内定取り消しの笹崎さんに必要なのは「指原力」だ。 榊 裕葵
http://sharescafe.net/41885958-20141114.html
■高橋みなみさんが社長になったら三菱自動車が立ち直るかもしれないと思った理由 榊 裕葵
http://sharescafe.net/49044734-20160711.html

榊裕葵 ポライト社会保険労務士法人 マネージング・パートナー
特定社会保険労務士・CFP

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