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米国を警戒させる中国『宇宙強国』計画の軍事的側面 - 福島康仁 (防衛省防衛研究所 政策研究部 グローバル安全保障研究室研究員)

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 2016年は、中国が宇宙事業開始60周年と位置付けた年であった。この1年間の中国による宇宙活動の進展は目覚ましい。

 10、11月に行われた有人宇宙船「神舟11号」と宇宙実験室「天宮2号」のドッキングおよび宇宙飛行士2人の実験室滞在は、中国版宇宙ステーションの運用開始に向けて計画が着実に進んでいる印象を世界に与えた。

 同じ11月の新型ロケット「長征5号」の打上げ成功は、現状における米国最大のロケット「デルタⅣヘビー」に近い打上げ能力の獲得を意味する(低軌道への打上げ可能重量は前者が約25トン、後者が約28・4トン)。

 1956年の国防部第5研究院(当時)の設立から始まったとされる中国の宇宙事業は、部分的には既に米ロに匹敵する水準に達している。人工衛星の軌道投入を目的とするロケット打上げ回数は15年にロシア(26回)と米国(20回)につぐ19回を記録し、16年には20回超を計画した。

 衛星の運用数もロシア(140基)をぬき、米国(576基)につぐ規模(181基)となっている(16年6月末時点、UCS Satellite Database)。

 20年頃には中国版の全地球測位システム(GPS)である「北斗」が全世界で利用可能となる。22年頃には中国版宇宙ステーションが完成し、10年を超える運用が始まる。さらに30年頃には、米国のアポロ計画で使用された史上最大のロケット「サターンV」に近い打上げ能力を有する「長征9号」を実用化し(低軌道への打上げ可能重量は前者が約118トン、後者が約100トン)、有人月探査などを行う計画である。こうした事業が順調に進めば、30年に米国と並ぶ「宇宙強国」になるという目標も現実味を帯びる。

加速する軍事利用、妨害や攻撃能力も向上

 宇宙活動能力の全般的向上は、中国の軍事力強化につながる。15年公表の国防白書「中国の軍事戦略」は軍民融合の推進を掲げており、その具体的領域の1つとして宇宙を挙げている。

 同時に中国軍は宇宙を作戦に活用する取り組みを進めている。15年12月新設の戦略支援部隊は、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍(同月、第二砲兵から軍種に昇格)という4軍種につぐ地位を与えられており、初代司令官には第二砲兵出身の高津中将が任命された。

 同部隊の任務は、サイバー・電子戦に加えて宇宙から各軍種の作戦や統合作戦を支援することにあるといわれる。同部隊設立の背景には、中国軍が現代戦を「情報化局地戦争」ととらえており、情報を制する者が戦争を制するとの考えを有していることがある。中でも宇宙空間は情報の収集・経由・配布の起点として現代戦に勝利するうえで鍵を握る領域と位置付けられている。

 中国は宇宙の軍事利用の実態をほとんど公表していないが、軍用あるいは軍民両用の通信衛星(中星)、測位衛星(北斗)、地球観測衛星(遥感ほか)をそれぞれ4基、22基、30基ほど運用しているとの指摘がある(16年6月末時点、UCS Satellite Database)。

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「宇宙強国」に向けた中国の計画 (出所:各種資料をもとに筆者作成) 写真を拡大

 このうち「北斗」については、民生用シグナルに加えて軍用シグナルの存在が公表されている。有事の際、米軍は敵対者によるGPS利用を防ぐために、当該地域でGPSの民生用シグナルに自ら電波妨害を行う方針を明らかにしている。このため中国にとっては独自の衛星測位システムを保有しておくことが軍事上不可欠である。

 宇宙からの作戦支援は、中国軍が作戦領域を拡大するにつれて重要性を増している。中国海軍は近海(東シナ海や南シナ海)のみならず、遠海(太平洋やインド洋)での活動を活発化させ始めている。09年からはソマリア沖・アデン湾における海賊対処活動も開始した。中国空軍もまた、海軍と軌を一にする形で西太平洋まで作戦領域を拡大中である。

 こうした中、大容量かつ確達性のある遠距離通信を可能とする衛星通信は、洋上の艦艇と陸上司令部間の通信や、滞空型無人航空機(翼竜ほか)の運用上、極めて重要である。

 また、慣性航法装置よりも高い精度での測位航法を可能とする測位衛星も、作戦中の艦艇や軍用機が自己の位置を把握したり、弾薬の精密誘導を行ったりするうえで極めて重要である。

 さらに海洋偵察衛星は、遠方の海域を航行する敵艦艇の位置把握に有用である。実際、冷戦期のソ連は信号情報収集衛星とレーダー偵察衛星の組み合わせで米機動部隊の位置特定を行う体制をとっていた。

 中国は「空母キラー」とも呼ばれる対艦弾道ミサイル(DF-21D)の運用にあたり、超水平線レーダーに加えて海洋偵察衛星による敵艦艇の位置把握を行うとみられている。

 中国は自らの部隊運用に宇宙を活用するのと同時に、「制天権」の獲得も目指しているといわれる。これは制海権や制空権に類するものであり、味方の宇宙利用を維持する一方で、必要に応じて敵対者による宇宙利用を妨げることを指す。前者については、宇宙システムに対するサイバー攻撃への備えや、「北斗」システムに対する電波干渉を防ぐ電磁シールドの開発に取り組んでいる。

 後者については、他者の宇宙利用を妨害する能力の整備を進めている。07年、中国は高度約860キロメートルの低軌道上で衛星破壊実験に成功した。衛星破壊能力を獲得したのは米ソについで3カ国目であり、冷戦後に同種の実験を実施したのは中国が初めてであった。

 衛星破壊に使用したのはDF-21準中距離弾道ミサイルを改造した対衛星(ASAT)兵器(米情報コミュニティはSC-19と呼称)であったといわれる。同実験は宇宙開発史上最多の宇宙ゴミを発生させたため、世界の宇宙関係者に衝撃を与えた。その後、中国は衛星破壊を伴わないSC-19ミサイルの発射試験を繰り返している。

 また13年には、新型ASAT兵器の発射試験を行ったとみられている。報道ではDN-2と呼ばれる同兵器は静止軌道(高度約3万5800キロメートル)まで射程におさめており、事実であれば各国が運用する衛星の大半が標的となり得る。

 さらに15年にはDN-3と呼ばれる新型ASAT兵器の発射試験を実施したとの報道もあるが、詳細は不明である。こうした衛星を物理的に破壊する手段に加えて、衛星に対するレーザー照射能力やGPSシグナルに対する電波妨害能力、宇宙システムに対するサイバー攻撃能力も有しているとみられている。

 中国はこれらの手段を状況によって使い分けていくものと考えられるが、中国自身が宇宙依存を深めていることを考えれば、宇宙ゴミの発生を伴わない妨害手段の重要性が中国にとって増していることは明らかである。

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中国による対衛星兵器の発射試験(出所・各種資料をもとに筆者作成) 写真を拡大

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