記事

中年化するパラサイト・シングルと高齢化するその親達

一橋大学・経済研究所のディスカッション・ペーパーに「10年後のパラサイト・シングルとその家族」という論文を書いた。

http://www.geocities.jp/kqsmr859/teigen/dp10-10-25.pdf

「10年後」とは、以前私が勤めていた東京学芸大学の同僚であり、「パラサイト・シングル」という言葉の生みの親である山田昌弘教授(現在、中央大学文学部教授)が、パラサイト・シングルを議論しはじめて、10年以上の月日が経ち、その状況もだいぶ変わったという意味である。

家族状況が良くわかる大規模な個票データを用いて、現在のパラサイト・シングルの状況・現状を、グラフや簡単な表だけで議論している。元々、一般向けの本の一章にする為に、経済学の数式展開や凝った推計を全く行わずにやさしく書いたので、論文自体も読みやすいと思われるが、主な内容と感想をまとめておきたい。

1990年代の羨むべきパラサイト・シングル像



「パラサイト・シングル」とは、学卒後も親と同居して基礎的生活条件を依存し、余裕のある生活を楽しむ未婚者を指す造語である。ベストセラーになった山田教授の「パラサイト・シングルの時代」(ちくま新書、1999年)等によって、一躍、当時の流行語になったことは、まだ記憶に新しい。

山田教授によるパラサイト・シングル論は、パラサイト・シングルの消費行動、結婚問題、労働問題、経済的影響、階層化、国際比較等、多岐にわたっており、それぞれに興味深いが、一言で言うと「パラサイト・シングルを否定的に捉えている」ことが特徴であろう。

例えば、日本社会の晩婚化、未婚化、少子化という問題は、結婚すると豊かさを失うことを恐れるパラサイト・シングルが引き起こした面があると言う。また、労働市場において進む若者の非正規化、失業増にも、いやな仕事をしないでも済むパラサイト・シングルの労働観(労働の趣味化)がもたらした面があるとされる。

さらに、パラサイト・シングルが世帯を独立しないことにより、日本全体として住宅投資や基礎的消費が抑制され、不況の一因になっているとも主張する 。また、親の経済的利用可能性が子の経済格差を生じさせ、格差を固定することは大きな問題だとしていた。

そして、このような問題を解決するために、パラサイト・シングルを親から引き離し、一人暮らしや結婚に踏み出させることの必要性を説く。具体的には、「親同居税」の創設や、成人子の所得控除廃止、独立した若者に対する住宅補助や給付金制度の創設、若者を就労自立しやすくするための労働市場改革等を提言していた。

あまり羨ましくない現在のパラサイト・シングル



しかしながら、今回、データを分析をしてみて改めて思った感想は、「学卒後も親と同居して基礎的生活条件を依存し、余裕のある生活を楽しむ未婚者」としてのリッチなパラサイト・シングル像は、この10年ほどの間に見る影もなく、大きく変容したと言うことである。論文の主な結論は、次の3点である。

 第一に、パラサイト・シングルの中年化が進み、30歳代後半、40歳代のパラサイト・シングルも広範に確認される。20歳から49歳までのパラサイト・シングルの総数は約1,030万人(男性約550万人、女性約480万人)と推計されるが、そのうち35歳から49歳の中年パラサイト・シングルは180 万人ほど存在するとみられる。

 第二に、若いパラサイト・シングルほど、学卒時の非正規化が進み、年収が低い。また、中年パラサイト・シングルも、高齢化した両親へ経済的援助を行っている割合が高まっており、もはやパラサイト・シングルの暮らし向きが、それ以外の人々に比べて特に高いとは言えない。

 女性の中年パラサイト・シングルの中には、結婚をあきらめ、高齢化する親との同居生活が今後も続き、老後の備えの貯蓄や個人年金等を行っている人々も多い。

 第三に、パラサイト・シングルの両親の高齢化も進んでいる。パラサイト・シングルの父親の就労率は高く、特に60歳代前半の高齢就労率が70.3%と非常に高い。これはパラサイト・シングルの生活を支えるために、親が就業期間を延ばしているものと考えられる。

 パラサイト・シングルの両親を合わせた年収額は、パラサイト・シングルを持たない親よりも高いが、貯蓄額はパラサイト・シングルの親の方が総じて低く、 60歳代になってようやくパラサイト・シングルを持たない親に追いつき、やや追い越す程度である。このため、パラサイト・シングルの親の暮らし向きも、決してそれ以外の親よりも余裕があるわけではない。

 むしろ、年齢の高いパラサイト・シングルの親は暮らし向きが苦しく、生活水準が悪化していると答える割合が高い。パラサイト・シングルとの同居理由についても、中年パラサイト・シングルになると、「親の収入が少ない」、「親の介護が必要」といった親側の理由を挙げる割合が増加する。

パラサイトから共生へ



 この10年間に起きた景気低迷や学卒者の就職難、非正規雇用率の上昇といった社会環境の変化を考えると、自らすすんでというよりは、やむを得ずパラサイト・シングルとなったり、パラサイト・シングルを続けざるを得なくなった人々も多い。したがって、山田教授がこの問題を否定的に議論した当時とは異なり、現在はむしろこのパラサイト・シングル化の動きを、家族内の「リスク・シェアリング」として積極的に見て良い面もあるように思われる。

 しかも、そのリスク・シェアリングは、子どものリスクを親が支えるだけではなく、高齢化する親のリスクを子どもが支える側面も観察されており、決して一方的な関係ではない。また、親の経済的利用可能性が階層化を進めるというよりは、むしろ、経済的にまだ余裕のある親が生活の苦しいパラサイト・シングルを支えて、双方の経済力が平準化する(中和する)という所得再分配の機能も存在しているようである。

 つまり、現在のパラサイト・シングルは、パラサイト(寄生)というよりは、クマノミとイソギンチャクのような「共生関係」にあるのではないか。景気低迷、就職難という子のリスクや、高齢化、要介護化という親のリスクに対して、家族が寄り添いあって対応している(してきた)結果としてのパラサイト世帯も、1000万世帯の中には相当含まれていると思われる。

 もっともこの共生家族は、その一代限りで完結して終わり、次世代には続かないという問題がある。最大の問題は、その過渡期である。結婚も出産もしなかったパラサイト・シングルが親を失った後に、親の老後を支えていた分だけ貧困化すれば、結局、誰かが彼らを支えなければならなくなる。しかし、誰の親でもないパラサイト・シングルを、まったく彼らと無関係な他人の子どもたちが、ただでさえ高負担にあえぐ中で、「助け合い」として支えてくれるのかどうか、大きな課題である。

トピックス

ランキング

  1. 1

    アビガン承認煽る声に医師が苦言

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    賭け麻雀苦言の労連トップが朝日

    和田政宗

  3. 3

    外国人選手が逮捕 試合なく薬物

    阿曽山大噴火

  4. 4

    安倍首相の言葉と行動大きく乖離

    畠山和也

  5. 5

    羽田で4人感染 ブラジルから到着

    ABEMA TIMES

  6. 6

    布マスクは金の無駄 飛沫防げず

    諌山裕

  7. 7

    森法相の国会答弁ねじ曲げに呆れ

    大串博志

  8. 8

    誹謗中傷の規制急ぐ政治家を危惧

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  9. 9

    処分軽い黒川氏 裏に記者クラブ

    田中龍作

  10. 10

    アベノマスクが唯一果たした役割

    田嶋要

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。