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なぜ今でも50年近く前の漫画「ベルサイユのばら」が人気なのか? - 朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)

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◾️あまり評判のよくない新刊「オスカル編」


今年になって発刊された13巻は、脇役のエピソードが描かれたこれまでの11,12巻と異なり、本編の主人公であったオスカルに焦点をあてた物語となっています。

ファン待望の主人公登場であるにもかかわらず、13巻の評判はあまり芳しくありません。オンライン書店アマゾンの読者からの評点では、5点満点で11巻が3.5点、12巻が3.9点であったのに、13巻は3.0点でしかありません(2017年2月1日時点)。

不評である最大の理由は、内容のほとんどが、本編と重複していることです。オスカル編のうち、約6割が本編の焼き直しであり、新たに加わったエピソードは半分以下です。

なぜ、作者は今になって重複した物語を書いたのでしょうか?

◾️新刊に登場する「もう一人のオスカル」


オスカル編では、叶わぬフェルゼンへの思いに悩む姿や、父親を問い詰めるシーンが再び描かれています。一方、新たに加えられた部分には、オスカルの分身が登場します。本編エピソードの節目に登場する分身は、ドレスをまとい、結婚式をあげ、子供を抱き、フェルゼン伯爵と舞踏会で踊っています。

訝しく思い、問い詰めるオスカルに、分身は「私はお前が諦めたもののすべてだ」と告げるのです。つまり、オスカルが女性として当たり前の人生を送っていた場合には、結婚し子供を産んでいた可能性を示しています。それを知ったオスカルは大きなショックを受けます。

分身の登場で、オスカルの「当たり前ではない人生」に対する苦悩が、より明らかになりました。しかし、作者がいま、「もう一つの人生」を描くさらに深い理由があるように思えます。

それは「私はこれからも軍神マルスの子として生きていく」と父親に宣言した後のオスカルのセリフに表れています。実は昔、書かれた本編では、父親とのやり取りはここで終わるのですが、新刊ではこの後に以下のセリフが追加されています。

「決して何かを諦めた結果ではない。自ら選び取った道でございます」

オスカルが男性としての人生を送ったのは、跡取りの男子がいない家のためであり、父親が強いたからです。しかし、彼女はここで、自分が男性として生きることを選択したと宣言しています。他人の強いられた人生が、ここで初めてオスカル自らの選択の人生に転換したのです。

■「今の自分」を選択したことへの応援メッセージ


当時、ベルばらに夢中になった世代は、いま50代~60代になっています。子供がいれば、子育てもひと段落している年代でしょう。仕事を続けていれば、そろそろ現役引退の時期が近づきセカンドキャリアを考える時期です。これまでの来し方を振り返り、自分が選ばなかったもうひとつの人生の可能性を考えるタイミングでもあります。

特に、男性社会の中で奮闘してきた女性の中には、かつて「女性ならあたりまえ」とされた結婚や出産を諦めた人が少なくありません。2005年度に内閣府男女共同参画局が行った調査によると、1986年~1991年に総合職として採用され、調査当時に就業中の女性は、既婚者が50.5%、未婚者が41.8%です。また子供がいないものが70.3%を占めています。母数は91名と少ないことは考慮する必要がありますが、対象層はベルばら世代とも年齢的に重なります。

昨今の女性活躍推進の流れでは、理想的な女性の働く姿は、会社で活躍するだけでなく、家庭を持ち子供を育てるものとして描かれています。家庭や子供を諦めてきた彼女たちのがんばりは、ややもすると「ロールモデルになりえない」として否定的なものに見られる傾向もあります。筆者の元には「せっかくがんばってきたのに、後輩から『ああはなりたくない』と見られるのは理不尽に思える」と、相談される方もいらっしゃいます。

しかし、そんな時代を非難したところで、いまさら過去を書き換えることはできません。男性社会の中で働き続けるために、自らの女性性をどこかで放棄しなければならない時代をベルばら世代は歩んでこざるをえませんでした。だとしたら、せめて自分の歩んできた道は、自分の選択の結果なのだと肯定的に捉えてほしい…新刊のオスカル像には、そんなメッセージが込められているように感じます。

そして、読む返すごとに、その時の年齢に応じて何か得られるものがある…それが「ベルサイユのばら」の人気が、今でも続く理由であるように思うのです。

朝生容子(キャリアコンサルタント・産業カウンセラー)

【参考記事】
■ドラマ「逃げ恥」の主人公がキュレーションサイトのライターになったなら
http://sharescafe.net/50210088-20161213.html
■営業部長 吉良奈津子」はなぜスタートダッシュに失敗したか?
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■英国首相選ではなぜ「子供を持つ母親」が不戦敗したのか?
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■「女性活躍推進法」は女性を追いつめる両刃の剣?
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■SMAP騒動の裏に見える「中年の危機」
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