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「子ども子育て新システム」の現状

「子ども子育て新システム」の現状  

第1 今の保育制度が根こそぎ破壊される



今、政府内で法案化が進められている「子ども・子育て新システム」をご存じでしょうか。去年6月25日に概要が示され(わずか10頁)、現在もワーキンググループで議論が進んでおり、ワーキングチームの「中間報告」がこの7月に出されました。そこでは、12年中に法律を作り、13年に実行に移すという拙速なスケジュールが示されました。

 この制度は「待機児童をなくすため」というのが表向きの理由ですが、この「新システム」の本質は、行政の保育責任の放棄です。この法案が通れば、待機児童解消どころか、「保育制度」そのものが破壊されてしまいます。

第2 現在の児童福祉法上のシステムと、新システムの対比



 1 現行制度
 現在の児童福祉法上のシステムは、行政が地域の子どもの保育に責任を負っています。親が共働きであるなどの場合には、行政は子どもを保育する責任があります。

 そこで、①公立保育園が原則となりますが、民間に委託する形で、「認可」保育園が認められています。名古屋市などは社会福祉法人にのみ認可を与えており、企業の参入は今のところ認めていません。
 
 ②市町村が「保育の欠ける」子どもを保育する責任を追っており、保護者は子どもを保育園に入れたい場合には、市町村に申請に行きます。

 ③行政が公立はもちろん、認可保育園に助成し、経済的に支える責任があります。

 ④保育料は、親の収入に応じて決まる形となっており、これを応能負担、といいます。 親の収入の多寡により、保育が受けれなかったり、保育の質が異なるというような不平等を生じないようにしています。

 2 新システムでは?
 これに対し、新システムの本質は、行政の子どもに対する直接の保育責任を放棄する、という点にあります。

 まず、①公立保育園は一部を残して廃園にしていきます。「認可」という制度もやめ、一定の基準をクリアすれば「指定」がなされ、企業立保育園なども積極的に「指定」をしていき、保育園の市場化を進めることになります。

 また、②保護者と保育園との直接契約になり、行政は親の保育時間の認定をするだけで、子どもを保育園に入れる責任を放棄します。この結果、理論上行政に「待機児童解消」の責任自体がなくなります。
 
 ③ 行政は保育園に直接財政の支出をしません。保護者への一定の金銭給付がなされますが(金額も割合も決まっていません)、その給付も含めた保護者からの保育料だけで、保育園は園の経営を成り立たせなければならなくなります。
 このため、保育園の経営は不安定になり、しっかり保育をしようとしてきた保育園の多くは廃園を余儀なくされると心配されています。

  ④保育料については、親の収入に関係なく、保育時間に応じて一律に決める応益負担に変えます。これは子どもの貧困が問題となっているさなか、さらに追い打ちをかけることになります。長時間預ければ、当然費用は高くなります。その結果、子どもを預けることが出来ない親が増えてしまいかねません。もともと、共働きをせざるを得ない貧困家庭が増えている中で、「応益負担」に変えること自体、「待機児童をなくす」という目的に反しています。

3 さらなる問題
  ① 新システムでは、3歳未満と3歳以上とで制度分けます。自分で食べたりすることもできない0歳児1歳児などの保育を責任もって行うためには、人手がどうしても必要です。現在、0歳児についてはおおむね3人に保育士1人、というように「最低基準」が定められてます(この最低基準の問題も別にありますが、ここでは述べません)。

 本来は、3歳児未満が待機児童が多いのですから、ここを手厚く、という方向に進むべきですが、新システムでは、そういう方向に進みません。

 3歳未満については、園での保育ではなく、マンションの一室などでの「保育ママ」制度を積極的に導入しようとしています。
 この「保育ママ」は、保育士の資格はいりません。介護保険同様、一定の研修を受ければ資格が取得できることになります。
 これは、保育を、素人による「託児」化、「パート」化していくことを意味します。

 小さい子どもを預けなくてはいけない親は、プロの保育士さんがちゃんと子どもを見てくれる、保育園で子どもらしい生活が保障されている、と思うから安心して預けることが出来るのです。ただ預かってさえくれればいい、というわけではありません。
 新システムは一番手厚く支援しなければならないところを切り捨て、保育の質を保証しない。保育事故が増加することが強く懸念されます。

 ② さらに、企業参入促進のため、使途制限を撤廃します。
 現在は、企業参入を認めている自治体でも、保育料で得たお金は保育に使用するように制限がかかっています。これを、新制度では取っ払います。

 例えば、レストランチェーンが保育に参入し、保育で稼いだお金を、本体のレストランの利益に回すことも可能になります。厚労省はこれを売りにして、企業に参入を促しています。

しかし、もともと保育は「儲かる」「業界」ではあり得ません。
 それを「儲ける」のためには、人件費などを減らし、利益に回していくかが重要な関心事になってしまいます。「コスト削減」として人件費が削減され、職場は非正規職員ばかりにせざるを得ません。保育の質が低下していくことが目に見えています。

 保育を産業にすることで、子どもたちの命が犠牲になりかねません。
 

第3 新システムの制度はどこから来たのか。



 この新システムの議論はどこから出てきたのでしょうか。

 これはもともと、「経済成長戦略」の中で出てきた議論です。保育、幼児教育の分野が既存の幼稚園、保育園に「独占」されているととらえ、その規制緩和を図ることで、新たな市場が生まれ、雇用が生まれる、という発想から出発しています。
 ですから、この制度の狙いは、もともと企業の「新規参入」を容易にすることにあります。

 したがって、もともとこの制度の出発点は、待機児童解消の目的でもなければ、子どものためでも、働く親のためでもないところから始まっているのです。

 さらに、厚労省側の要求として、「介護保険」や「障がい者自立支援法」と同様、「行政は直接市民と関わらず、現場を民間任せにする」という制度に一体化したいという要求があります。同時に、財務省の「財政支出の抑制を容易にしたい」という要求も加わります。

 介護保険制度はどうなったか見てみましょう。介護保険制度は、2005年に財政抑制を目的とした「適正化運動」が展開され、家事援助が大幅に削減されました。その結果、家事援助事業を展開していた事業者がつぶれ、多くの高齢者が、生活の支えを奪われる結果が生じました。
 保育の分野でも、「社会保障支出の抑制」によって、保育への支出を常に削られる不安定な状況が作り出されてしまいます。

第4 保育園はつぶれていく



1 新システムでは保育園はどうなっていくでしょうか。
 これまで見てきたように、新システムによって保育の質は低下していくでしょう。

 また、保育料が応能負担から応益負担に変わるために、保育園(こども園)に預けることが出来ない親が増えてしまいかねません。

 また、基本的に保育園(こども園)は親からの保育料だけで経営をしなければならなくなり不安定な経営を余儀なくされます。現在も行政から親に出される手当がどのくらい出されるかも全く決まっていません。今後金額は決められるでしょうが、明確な基準がないため、国は一端決めた金額も、いつでも減らすことが可能となります。
 支給する金額が少なくなってしまえば、当然親の負担は増加しますし、園は常に不安定な経営を余儀なくされます。
 残るのは、高い保育料が必要な「ブランド園」と、非正規雇用ばかり雇っている企業園、そして、マンションの一室で行う「保育ママ」チェーンということになりかねません。

2 この7月の中間報告
 特に、この7月の中間報告で、既存の幼稚園制度も残し、3歳児未満の受け入れ義務を入れないことになりました。
 もともと、このシステムの必要性の建前として、待機児童の解消と幼保一体化の必要性がいわれていました。
 しかし、中間報告では既存の幼稚園を残す選択肢も残したため、結局幼保一体の建前自体がどこかに行ってしまいました。
 もともと、幼稚園と保育園が別々だから不便だ、などという親からの不満はありません。
 この議論の建前の1つである幼保一体化の必要性は全くなかったのです。
 制度としても幼保一体化をしないのであれば、新システムの建前の一つが崩れています。

 さらに待機児童の点ですが、確かに、待機児童問題が緊急であることは言うまでもありません。
 しかし、中間報告では、待機児童が問題となる3歳未満の子どもの受け入れ義務を導入しないとしました。最も対児童が多いのは3歳未満児です。ここの拡大をしようとしないのでは、待機児童の解消にはなりません。

 「新システム」の建前はすでに崩壊しています。

 本当に待機児童を解消しようと思えば、「新システム」などという制度破壊をしている暇はないはずです。今の制度で十分対応出来るし、すべきなのです。
 

第5 最後に



 子どもは、0歳でも個性ある存在です。この制度は、子ども達を個性ある存在としてとらえず、「サービスの対象物」として扱うに等しいものです。
 この制度に関するワーキングチームの議事録を見ても、子どもに軸をおいた議論がされていません。

 「子ども・子育て新システム」の下では、保育事故が増え、子どもの貧困が固定化し、少子化に拍車がかかりかねません。個人の尊厳を柱とする日本国憲法の理念と相反する機械的な「保育」が広がるでしょう。
 こんな法案を通してしまっては絶対になりません。

 すでに千葉県弁護士会などでは、この制度の導入に反対する弁護士会会長声明が出されています。
 本当に待機児童を解消するには、、行政の保育責任を放棄し、制度の根幹を解体する「新システム」などでなく、現行の保育制度を前提に、スピード感を持って幅広い育児支援の量と質の拡大をしていくことこそ求められています。

 子どものことを、将来の日本のことを考えて、保育、幼児教育のあり方について、一端議論を白紙にして議論をし直すことが必要です。
 来年の法案提出を何としても阻止していくことが大事です。そのため、署名などを積極的に取り組んでいきたいと思います。ご協力よろしくお願いいたします。

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