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狙われたPPAP、「商標ビジネス」は許されるのか? - 河本秀介

 昨年、ピコ太郎さんの楽曲、「ペンパイナッポーアッポーペン」略して「PPAP」が動画配信サイトをきっかけに大きくブレイクしました。キャッチーなサウンドやインパクトのある衣装、馬鹿馬鹿しくもなぜかひきつけられる不思議な魅力があり、ついつい真似して歌った人も多いのではないでしょうか。もちろん、私もその一人です。

 さて先日、「PPAP」や、「ペンパイナッポーアッポーペン」などの文字を、ピコ太郎さんや契約会社のエイベックス社とは全く無関係な会社が商標出願しているということが分かり、話題となりました。

 この会社は、マスコミの取材に対して、「エイベックス社に対して、ライセンス許諾を受けた上で事業展開するよう警告書を発している」と発言しているようです。

 ピコ太郎さんやエイベックス社は、今後「PPAP」を歌えなくなったり、CDやグッズを販売できなくなったりしてしまうのでしょうか。

「ブランドを守る」ための商標制度

 最初に、商標制度について、簡単に説明します。

「商標」とは「商品やサービスを示すものとして使われる文字や図形など」のことです。商品・サービスあるいは会社やお店の名前やロゴマークといったものが「商標」に含まれます。

 ある種類の商品やサービスについて、ある商標を使っている人は、その商標を自分の権利として特許庁に登録することによって、指定された種類の商品やサービスに関しては「自分だけが使うことができる」(専有する)権利が生まれます。

 例えばあるメーカーが、果物のキャラクターをつかった文房具に、「パイナポーペン」という商品名をつけて販売して大ヒットしたとします(ピコ太郎さんが「PPAP」をヒットさせなかった世界の話と考えてください)。

 その場合、メーカーが「文房具類」を示す商標として「パイナポーペン」という文字を登録した場合、ライバル社が「文房具類」に関して「パイナポーペン」やそれに似た言葉を使うことはできなくなります。

 また、ライバル社が「パイナポーペン」と似たような言葉を使った商品を販売した場合、商標権を持ったメーカーは、ライバル社に対して「類似した商標を文房具の名前に使ってはならない」(商標の使用差し止め)と求めることができます。

 では、なぜこのような制度が存在するのでしょうか。

 ある企業が自社製品にある商品名やロゴなどを自社の商標として使っている場合に、ライバル企業がそっくりの商品名やロゴを使って同じようなビジネスを始めたとすると、自社と他社の製品が区別できなくなってしまいます。

 そのような混同が生じることで自社製品の信用が損なわれたり、あるいは消費者が混乱したりすることは、産業全体にとっても好ましくありません。そこで商標法は、自分の商品やサービスの名前やロゴなどを「商標」として登録した場合に、「他人に使わせない」という権利を与えて保護することにしたものです。

 ざっくりと言ってしまえば「ブランドを守る」ことで「産業全体の発展を促す」ことが商標制度の目的だといえます。

商標登録が認められる条件は?

 さて、例の会社は特許庁に対して、「PPAP」「PEN・PINEAPPLE・APPLE・PEN」「ペンパイナッポーアッポーペン」などの単語を、幅広い商品やサービスを示す商標として出願しているようです。ただし、現時点ではまだ出願の段階で商標登録はされていません。

 一方で、現時点で例の会社は、特に「PPAP」などの単語を使った商品やサービスを展開しているわけではなく、はっきりとした予定もなさそうです。

 さらに、商標を出願したのは「PPAP」の動画が発表された後のことのようです。このように一見して無関係な会社が、他人のヒット曲のタイトルやフレーズについて商標出願した場合、それが認められて商標として登録されるということは考えられるのでしょうか。

 実は、商標出願がされた場合であっても、商標法に定める一定の要件を満たさない場合には商標として登録されません。

 一例として、普通名称やありふれた名称を普通に使われる方法で使うような場合、それらを商標として出願したとしても、商標登録を受けることはできないとされています。「果物」の商標として「アップル」や「パイナップル」という単語を出願したとしても、それらは普通名称を普通に使っているに過ぎないので、商標登録を受けることはできないでしょう。

 もっとも、今回の場合、「ペンパイナッポーアッポーペン」や「PPAP」は少なくとも普通名称やありふれた名前だとは言えなさそうです。

 しかし、その場合であっても他人のブランドを横取りするような形での商標登録は認められていません。なぜなら商標法の目的は「ブランドを守る」というところにあるからです。

 まず、商標登録は「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする」場合に認められますので、全く自社で提供していない、あるいはその予定もない商品やサービスに関する出願は却下される可能性があります。

 また、出願した商標を何らかの商品やサービスに使っている場合であったとしても、他人が自分の商品やサービスを示すものとして国内外で既に使っている(あるいは類似する)商標を、不正な目的で使うために出願するような場合には、やはり商標登録の要件を満たさず、登録されません。

「PPAP」は横取りされるのか?

 例の会社を見ますと、少なくとも現時点で「PPAP」などを使った商品やサービスを展開している様子はありません。よって「自己の業務に係る商品又は役務について使用をするものではない」と判断され、出願が却下される可能性はありそうです。

 また仮に、後から何らかの商品やサービスについて「PPAP」などを使い始めたとしても、同社が出願した時点で、ピコ太郎さんの動画が既に流行していたのであれば「PPAP」などの単語は「ピコ太郎さんやエイベックス社の商標として広く認識されていた」といえそうです。

 例の会社はエイベックス社などに対して、商標登録を受ける前に「ライセンス許諾を受けるように」などと警告書を発したとされていますが、もし、「商標を買取らせよう」「ライセンス料を取ろう」などの目的だけのために商標出願しているのだとすると、それは商標法の「ブランドを守る」という趣旨・目的にそぐわないものです。他人のブランドを利用して利益を得ようとするためだけに商標出願しているのであれば、「不正の目的あり」といえそうです。

 不正な目的の出願だとされた場合も商標出願が却下され、登録されないということになります。

万が一、商標登録されたとしても

 万が一、例の会社による出願が認められ「PPAP」などが商標として登録された場合はどうでしょうか。

 まず、ピコ太郎さん側は先に述べた登録要件を満たさないとして「商標登録は無効だ」と主張することが考えられます。

 さらに、無効を主張しないとしても、ピコ太郎さん側が、第三者が登録した商標について出願前から同一または類似の商標を使っており、かつ、出願時点で商標がピコ太郎さんのものとして世の中に広く知れ渡っていたといえるような場合、ピコ太郎さん側には引き続きその商標を使用し続ける権利(先使用権)があるとされています。

 もし、第三者による出願時点でピコ太郎さんの動画が爆発的に再生されて既に大流行していたのであれば、「出願時点で広く知れ渡っていた」として、先使用権が認められる可能性があります。

 以上、あくまで報道されている範囲からの分析ではありますが、例の会社の商標出願が認められる可能性は低いと思われます。

 また、仮に商標登録がされたとしても、登録が無効だと主張したり、先使用権を主張することにより、「PPAP」を使い続けることができる可能性もあります。

 結論としては、今後、ピコ太郎さんが「PPAP」を自由に歌えなくなるということにはならないのではないか、と推測しています。

「商標ビジネス」は許されるべきでない

 実は、例の会社は、今回の他にも、自社が提供する商品やサービスとは無関係と思われる商標出願を大量に行っており、以前から問題視されていました。

 残念ながら、商標出願そのものを止めることは難しく、一旦出願されてしまった以上、特許庁としても登録の可否を審査しなければなりません。たとえ一見するとおかしな出願であっても、制度上は「出願があった」ということを公表する必要があります。

 特許庁としても、一部の出願者が自己に無関係と思われる商標を大量に出願している状況には困惑しており、ウェブサイトを通じて、仮に自社の商標について無関係な業者からの出願があったとしても、「商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください」と呼びかけています。

 商標制度は、本来は「自己のブランドを守る」ことで「産業を発展させる」ためにあります。

 本来、その商標を使ったビジネスをしていない(またその予定もない)者が、商標登録したうえで、本来その商標を使ったビジネスをしている会社などから利益を引き出そうとする行為は、商標制度の趣旨・目的から外れたものといえます。

 そのような「商標ビジネス」は、産業全体に混乱をもたらすものでしかなく、許されるべきではないでしょう。

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