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西アフリカ・ガンビアの「独裁者」はなぜ退陣したか:周辺国による介入の条件

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ガンビアへの介入が実現した三つの要因

アフリカには、90歳を超えてなお今年の大統領選挙で7選を目指すジンバブエのムガベ大統領や、「人道に対する罪」で国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を発行しているスーダンのバシール大統領、北朝鮮より報道の自由度が低いといわれるエリトリアのイサイアス大統領、選挙管理委員会がない状態で「出来レース」以外の選挙が行われていないカメルーンのビヤ大統領など、「独裁者」が多くいます。しかし、選挙に不正があった、あるいは選挙が行われないことをもって、近隣諸国が軍事介入をも辞さない姿勢をみせることは、ほとんどありません

ガンビア危機の場合、主に三つの要因が、周辺国による政権移譲を実現させたといえます。

第一に、ガンビアがアフリカのなかでも小国であることです。同国の国土面積は1万1300平方キロメートルで岐阜県とほぼ同じサイズ、人口は199万人に過ぎません。さらに、ナッツ類の輸出と観光業以外に目立った産業もなく、世界銀行の統計によると一人当たり国民総所得(GNI)は460ドル。例えば、植民地時代から白人入植者のもとで資本主義経済が発達していたジンバブエの830ドル、産油国スーダンの1840ドルと比較しても、貧困国の多いアフリカでも極貧国に近い水準の小国であることは、ガンビアに対する周辺国による介入を実際に可能にした条件といえます。

第二に、ガンビアの政情不安が周辺国にとっても悪影響を及ぼし始めていたことです。ジャメ氏が「居座り」を始めた昨年12月以来、ガンビアでは支持派と反対派の対立が激化。混乱を恐れて、多くの人々が国外への脱出を試みるようになりました。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、2017年1月の最初の10日間だけで数千人がセネガルとの国境に押し寄せたと報告しています

一般的にアフリカ諸国は、植民地支配の歴史的経験から、「内政不干渉」の原則を重視する傾向が強く、基本的に隣国の内政に口を出すことは滅多にありません。ジンバブエのムガベ大統領やスーダンのバシール大統領に対して、米国や英国が国連安保理で経済制裁を主張した際、内政不干渉の原則に基づき、これらを常任理事国である中ロとともに擁護したのは、非常任理事国のアフリカ諸国でした

とはいえ、周辺国への悪影響が大きくなった場合は、その限りではありません。特に、ガンビアのような小国であれば、なおさらです。先進国よりはるかに多くの難民を受け入れ、しかも彼らを支援する資金に乏しい開発途上国では、先進国以上に難民受け入れが政治問題化しがちです。そのため、平素は「隣近所に寛容な」アフリカ諸国が、「混乱を輸出する」ジャメ氏に好意的でなくなったとしても、不思議ではありません。この点で、反対派を抑え込みながらも、周辺国に大きな「迷惑」をかけていないカメルーンのビヤ大統領が、中ロやアフリカだけでなく、欧米諸国とも大きな摩擦を抱えていないことは示唆的です。

介入の「事前承認」

第三に、そして最後に、非常時における周辺国の介入が、西アフリカ諸国の間でお互いに承認されていることです。これは、アフリカの他の地域ではみられない特徴です。

冷戦終結後の1990年代、アフリカでは内戦が相次いで発生しましたが、とりわけ西アフリカではリベリア、シエラレオネ、コートジボワールなどで全面的な内戦が相次ぎました。折しも欧米諸国がアフリカから手を引き始めていたこともあり、西アフリカ諸国は「自前の解決」に向かわざるを得ませんでした。その結果、例えばシエラレオネ内戦では、ナイジェリア軍を主体とするECOWASの部隊がシエラレオネ政府を支援し、内戦終結に道筋をつけたのです。

しかし、これはECOWASの規定に明文化されていない活動で、西アフリカ最大の地域大国ナイジェリアのイニシアチブで進められたものでした。西アフリカではナイジェリアやガーナなどの英語圏と、セネガルやコートジボワールなどの仏語圏の間にライバル関係があります。ナイジェリア主導で進められる紛争解決に仏語圏から批判が高まり、他方で英語圏からは仏語圏の不参加に対する不満が噴出するなかで、1999年に制度改革が行われ、メンバー国内で発生した人道危機に介入する権限がECOWASに与えられました。つまり、例え国内問題であったとしても、無視できない状況になった場合、ECOWASに介入する権限を認めることに、各メンバー国が同意したのです

ヒト、モノ、カネの移動が国際化した現代では、一国内の出来事が国外に影響をもたらすことが少なくありません。しかし、近代以降の国際秩序の基本原則である「内政不干渉」は、今も国家間の関係の柱であり続けています。このギャップは、例えば難民が多数発生するシリアに対して、国際的に一致した介入ができない根本的な原因でもあります。非常時において介入されることがあると、メンバー国が事前にお互いに承認することは、国連でも実現できていないことです。アフリカといえば課題しかないように思われがちですが、ECOWASのシステムは、混迷する世界で他に類のない、先進的な内容を含んでいるといえるでしょう。

ただし、それはあくまでECOWAS加盟の西アフリカ諸国に限定されたもので、同じアフリカでも、他の地域はその限りではありません。先述のように、アフリカ諸国は基本的に国家主権を重視する傾向が顕著です。南部アフリカ諸国が加盟する南部アフリカ開発共同体(SADC)、東部アフリカ諸国が加盟する政府間開発機構(IGAD)などでは、そういった権限は認められておらず、ECOWASのそれはメンバー国で内戦が相次いだ1990年代の経験から生み出された、例外的なものなのです。

今回の場合、ガンビアは英語圏ですが、地理的に隣接し、歴史的に深い関係がある仏語圏のセネガルと、英語圏で共通するナイジェリアが揃って介入の意思を示した点も、これまでにない特徴です。

ともあれ、こうしてみたとき、ガンビア危機の顛末には同国および西アフリカに特有の事情が大きく作用していたのであり、単純に「民主主義の勝利」とはいえないでしょう。

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