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銀行は東芝を助けるのか? - 塚崎公義

 東芝の粉飾決算と巨額赤字が話題となっている中、平成29年1月19日の全国銀行協会の会長記者会見の席上、三井住友銀行頭取でもある國部毅会長は、同行頭取の立場として「基本的なスタンスとしては、我々メインバンクとして可能な限りサポートをしていくつもりだ」と発言しています。債務超過に陥るかもしれないと言われている企業を、銀行は本当にサポートするのでしょうか? 今回は、銀行が困難に陥った取引先を支援するインセンティブについて考えてみましょう。

銀行自身の直接の損得として救済するインセンティブあり

 借り手が債務超過に陥った時には、借り手を倒産させて清算するのが一般的でしょう。資産をすべて売却して代金を債権者間で平等に分配するのです。そうしないと、一部の債権者が独自に債権回収を進め、他の債権者との間で不公平が生じかねないからです。しかし、何事にも例外があります。

 債務超過であっても、銀行が「銀行は借り手に返済は求めない」と宣言すれば、他の債権者も落ち着いて通常の取引を続けることができ、結果として銀行の回収額が借り手を清算した場合よりも多くなる場合があるからです。

 借り手が一時的な苦境から立ち直って再び黒字を回復する可能性が高い場合は理解できるとして、黒字を回復する見込みが乏しい場合であっても、場合によっては支援した方が得な場合もあるのです。

 借り手が清算されると、借り手の所有する設備機械がスクラップ業者に二束三文で買い叩かれることになります。それならば、借り手を「生かさず殺さず存続させて、少しでも多く返済させる」方が銀行として合理的だ、というわけです。借り手は、赤字でも減価償却前黒字の分だけ返済可能なはずだからです。

 経済初心者向けに解説しておきます。資産が90億円、負債が100億円という会社があったとします。しかも、当社は毎年の決算が1億円の赤字だとします。資産は毎年9億円ずつ10年間にわたり減価償却されていくとします。債務超過で赤字の会社ですが、この会社を生かしておくと、銀行は80億円の回収が可能です。

 9億円の減価償却を行なった後で1億円の赤字ということは、減価償却前には(減価償却をしなければ)8億円の黒字だと言うことです。減価償却は、損益には関係しますが、キャッシュフローには関係しないので、キャッシュフロー的には毎年8億円の返済が可能なのです。

 言い換えると、材料等のコストより8億円高い値段で製品が売れたけれども、決算時には減価償却(機械設備が古くなってすり減った分を費用と考える、というイメージ)をする必要があるので、赤字決算となる、というわけです。決算が赤字だといっても、コストより高く売れた分の8億円は借り手の手元に残りますから、その分は銀行に返済することができるわけです。

 設備機械をスクラップ業者に売っても80億円にならないと判断すれば、銀行としては回収を急がず、減価償却前黒字の金額だけ毎期回収していくことになります。

 銀行としては、借り手を清算せず、債権の一部を放棄した上で、借り手に身売りしてもらう(同業他社などに買収してもらう)という選択肢もあるでしょう。これは、銀行にとっても日本経済にとっても、会社が清算されてしまうより、遥かにマシです。設備がスクラップされないことに加えて、会社が持っていたノウハウや顧客リストといった、決算書に表れない資産が散逸せずに残るからです。

銀行のレピュテーション・リスクも影響

 銀行としては、借り手を支えることが損となる場合であっても、なおかつ借り手を支えるインセンティブを持つ場合があります。それは、「あの銀行は冷たい」という悪評を恐れる場合です。そうした悪評が立つと、他の借り手が取引銀行を替えてしまう(ライバル銀行から借りるようになる)かも知れないからです。

 特に、メインバンクにはそうした傾向があります。メインバンクは、借り手が苦境に陥った時に、応分の支援をする、という暗黙の了解があります。法的な義務は何もありませんが、メインバンクというのはそういうものだ、と皆が(日本中の銀行も借り手企業もマスコミも)そう思っているわけです。

 それにもかかわらず、メインバンクが借り手の苦境時に何もせずに借り手を見放したら、悪評が立ちかねません。そうなれば、借り手に対してライバル銀行から攻勢がかかります。「あの銀行は冷たいから、御社が苦境に陥っても助けてくれないでしょう。そんな銀行をメインバンクにしておくより、弊行をメインバンクになさいませんか?」というわけです。

 そうならないためなら、多少の損失を覚悟してでも借り手を支えるインセンティブをメインバンクは持つわけです。

メイン寄せが始まると、倒産リスクが増大

 メインでない銀行も、「あの銀行に足を引っ張られて潰された」という悪評が立つのは困りますから、融資の引き揚げには慎重にならざるを得ません。そこで用いられるのが「メイン寄せ」という戦略です。

 非メイン行が融資の一部を引き揚げると、借り手はメイン行に泣きつきに行きます。「非メイン行から少額の返済を迫られて困っている。追加融資を御願いしたい」というわけです。メイン行としては、少額の追加融資をすることで借り手が助かるなら応じたいですし、少額の追加融資を断ったことで借り手が倒産するようなことになれば、それこそ悪評が立ちかねません。

 しかし、そこで少額の追加融資を実行してしまうと、非メイン行から借り手に対して次々と少額の返済を要請してくるでしょう。そのたびにメインバンクが少額の追加融資をしていると、結局合計では巨額の追加融資をすることにもなりかねません。

 こうなると、メインバンクと非メイン行の神経戦です。双方に様々な戦略があるようで、「江戸の敵を長崎で討つ」ようなケースもあるようですが、詳述は控えておきます。

 重要なことは、メイン寄せが始まると、メインバンクの負担が急激に膨らみかねず、借り手を支えきれなくなることも多いと言われていることです。今後の推移が注目される所です。

支えるか否かを決める要素は多様

 銀行が取引先を支えるか否かを決める要素は多様です。一般に、大企業は支えるが中小企業は支えない、と言われていますが、それには理由があります。苦境に陥った企業を支えるには、手間がかかります。支えた方が少し得だと思っても、そのための手間を考えるとやめておこう、という判断も当然あり得ます。融資金額が1000倍になったからといって、支える手間が1000倍になるわけではないので、当然に大企業の方を支えるということになりがちです。中小企業の場合、見放しても悪評が立ちにくい、という事情もあるでしょう。

 大企業でも、必ず支えるとは限りません。たとえば減価償却前損益がマイナスであれば、支えている間に銀行の損失が膨らんでしまいますから、早めに「損切り」せざるを得ないでしょう。
それから、「悪評が立って、取引先が他行に逃げる」か否か、という判断も重要です。たとえば銀行を騙すために粉飾決算を行なっていた借り手に対しては、銀行として心情的に支援したくないでしょうし、その気持ちはマスコミも世間も理解してくれるでしょうから、見放してもあまり悪評は立たないでしょう。

 それから、他行の姿勢も問題になるはずです。バブル崩壊前は、各行とも借り手の支援に熱心でしたが、バブル崩壊後の金融危機時に各行ともに余裕が乏しくなり、「自分が生き残るのに精一杯で、背に腹は代えられないから借り手の支援は限定的なものに留める」こととしたようです。

 当時は、各行が一斉に基準を変更したので、苦境に陥った借り手を見放しても、他行から「弊行なら、もっと暖かく借り手を支えますよ」という誘いが一般の借り手に来ることはなく、借り手が逃げなかった、とも言われています。

 そうだとすると、今の邦銀他行の支援姿勢が金融危機時に近い(かなり無理をしても支える)のか、金融危機前に近い(あまり無理をせず、場合によっては見放す)のかを見極める必要もあるでしょう。

 こうした事を総合的に考察した上で、各銀行が、とりわけメインバンクが、どのような決断をするのか、要注目です。

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