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  • ヒロ
  • 2017年01月29日 10:00

今夜の夕食も「出来合い」ですか?

日本のエンゲル係数(家計の消費支出に対する飲食費の割合)が29年ぶりに高水準になっているそうです。エンゲル係数という言葉自体、今時のメディアではお目見えすることはめったにありません。かつて「おまえんち、エンゲル係数高いんだって」という少年時代の差別会話があったことはたぶん、団塊の世代ぐらいの方なら「そうそう」と思い出すかもしれません。

しかし、今回のこのエンゲル係数は貧乏だから高くなったわけではなさそうです。

私がかつて勤めていたゼネコンは香港に200人近く技術系駐在員を送り込み、一時は香港の三大建設会社の一角とまで言われたことがあります。そんな香港に視察に行った際、ある完成間近のマンションの建築現場にお邪魔しました。香港ならではの狭いユニットをいかに効率的に作るか、という観点からキッチンはほとんどお湯を沸かす程度の機能しか持たせない極小サイズでありました。

当然ながら私の質問は「これでは料理、出来ないですよね。こんな間取りで売れるのですか?」と聞けば説明役の方がしたり顔で「香港の人は家で料理なんてしません」と断言されました。ご承知の通り、中華料理はいろいろな食材を使い、煮る、蒸す、焼くなどあらゆる調理方法を駆使します。当然ながらそんなこと、自分の家ではできませんし、コストがかかるのです。それ故、香港人は基本が外食なのだと説明を受けました。今はどうか知りませんが、当時は思わず納得してしまいました。

日本で一人住まいといえば高齢者を思い浮かべると思いますが、それ以上に若者の一人住まいも増えています。私が東京で経営するシェアハウスには結構立派なキッチンがついているのですが、料理する人は極めて少ないのが現状です。せいぜい、ご飯を炊くぐらいでしょう。これでは料理とは言えません。何故かといえば野菜や魚、肉を買っても全部使い切る前に腐らせるのが関の山。そうなると悪臭漂う腐った食材を捨てなくてはいけないという手間も生じます。同じことは当然ながら高齢者の一人住まいでも言えることです。

ならば、出来合いの食材を買った方が理にかなうのは誰でも行きつく結論です。

私はエンゲル係数が高くなった理由がもう一つあると思います。それは食品会社のマーケティングの成果であります。例えばコーヒー。かつてはインスタントコーヒーを飲んでいたと思います。そこに手軽な家庭用エスプレッソマシーンが普及しはじめました。ただ、その使い勝手が悪いエスプレッソマシーンを克服したのがネスプレッソでした。最近では家庭用自動焙煎機なるものまで飛び出し、自宅でプロフェッショナルな味を復元する手段が大きく膨らんできました。

メーカー側はいかに高付加価値のものを売るか、必死に考えます。例えばセブンイレブンの「金の」シリーズは売れに売れています。食品長者番付の王様、カップヌードルは見栄えこそ大して変わらなくてもその中身が極端に進化し続けており、時代に見合ったクオリティを提供し続けるたゆまぬ努力が生み出した地位でありましょう。

口コミや宣伝に乗せられて一度でも口にすれば「うまい」と思い、今まで価格に拘ってきたものから卒業しやすくなるでしょう。これは「一度覚えた効用は忘れられず、そこに戻れない」という経済学的な発想に基づきます。(それまで金持ちだった人が突然、職を失っても以前の生活習慣を変えられないのと同じ理屈です。)

では、この食品会社のマーケティングや開発努力は何処から来たのか、といえば日本の長く続くデフレがそうさせたのでありましょう。ご承知の通り、庶民は日々の消費の無駄をなくすため、あらゆる努力を重ねてきましたが、そのひとつが外食を減らす、であります。しかし、家でうまいものを作るのは骨が折れます。そこで惣菜屋が発達し、食品メーカーはそれ以上の品質のものを開発してきたという背景が見て取れます。

つまり、日本のエンゲル係数の上昇は食品の質へのこだわりが数字となって明白に出てきたとも言えそうです。これはいまだにデフレに悩む日本にとってかすかながらもうれしい兆候といえるのではないでしょうか?せめて旨いものぐらい食いたいよな、これぞささやかながらの贅沢というものでしょう。

そういえば飲食店も負けていません。おひとり様をウェルカムしてくれる店がどんどん増えてきています。一人鍋とか一人焼肉が増えた理由はテレビ東京の「孤独のグルメ」のヒットがあったと個人的には信じています。あの番組は入りたい、だけど一人じゃ入れないという悶々とした気持ちを拭い去り、「一人でこんなに食えるのか」とあっぱれなほど気持ちよく完食するすっきり感が今の世の中にぴったりフィットしたと思います。

その延長にかつてブックオフを創業した坂本社長プロデュースの「俺のシリーズ」もあると思います。あるいは小池百合子氏も食して話題になった「いきなりステーキ」もステーキを立ち食いさせるという発想と共に一人で入りやすい店づくりをしたことが大正解だったのだろうと思います。

今日のオチです。こんなにおひとり様生活が楽しければ結婚なんてしなくていいよね、と個人生活にいそしむ若者がもっと増えそうな気がします。

では今日はこのぐらいで。

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