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アジアで進む危険な軍拡競争 - 岡崎研究所

 フィナンシャル・タイムズ紙の12月29日付社説が、アジアの将来はトランプが平和と安定の保証者としての米国の役割を維持するかどうかにかかっており、まずはフィリピンと巧くやる必要があると指摘しています。要旨、次の通り。

 アジアで危険な軍拡競争が進行している。米国の次期大統領がアジアの同盟国とどう付き合うかが軍拡競争の帰趨を決する。フィリピンは周辺における緊張の高まりに対応して武器調達を進めているが、最も明瞭な脅威は南シナ海に広大な領有権を主張する中国であり、軍備が劣るために、フィリピンは中国との妥協に走り、果ては中国から武器を購入することを約束するに至っている。こういう状況をトランプ次期政権は警戒して然るべきである。

 アジアにおける米国のプレゼンスは安定のための力として機能して来たが、フィリピンの如き堅固な同盟国が米国に最早頼ることが出来ないと感じていることは、いかに米国の威信と力がむしばまれて来たかを示している。トランプ次期大統領は海外における米国の義務を削減することを明言し、更には韓国と日本に対する核の傘を取り除くことすら示唆した。しかし、アジアが今後も平和と安定を享受し続けるためには、米国は伝統的な同盟国を当然視しているわけでなく、また米国は地域のバランス・オブ・パワーの維持にコミットしていることをトランプが明確にせねばならない。トランプ政権が対処すべき最初の「ぐらつくドミノ」はフィリピンである。

 この点では若干の楽観論が可能である。大統領選挙以降、ドゥテルテ大統領はその米国批判を抑制し、トランプと巧くやりたい意向を示している。トランプの方は麻薬犯の超法規的殺害に対するオバマ政権の懸念を脇に置く様子である。ドゥテルテからすると、人権侵害批判が対米関係の最大の摩擦要因である。トランプはドゥテルテのやり口を承認する必要はないが、上手く付き合う方法を見つけねばならない。

 オバマの「リバランス」政策は、同盟国を安心させ、米国の相対的後退を押しとどめ、中国の台頭の速度を弱めるという目標を達成出来なかった。フィリピンの軍備強化とドゥテルテの中国とロシアへの接近はその証左である。

 トランプにはアジアでの米国のプレゼンスを強化し、安定と平和の保証者としての役割を確認する真のチャンスがある。しかし、彼にはその逆をやり、取り引き本能からバランスをひっくり返す可能性がある。その結果として、アジアは大火災に陥りかねない遥かに危険な地域となる。

出典:‘A perilous moment for Asia’s peace and stability’(Financial Times, December 29, 2016)
https://www.ft.com/content/8f2cf6ae-c86b-11e6-9043-7e34c07b46ef

 この社説が末段で結論的に言っていることは正しいと思います。トランプにはアジアにおける米国の役割を強化するチャンスがありますが、逆に、平和と安定を犠牲にした取り引きに走る危険もあります。

ぐらつくドミノ

 フィリピンが「ぐらつくドミノ」であり、トランプはフィリピンと巧くやることが重要というのも、その通りです。但し、フィリピンが中国やロシアとの関係をもてあそぶ状況、あるいは韓国やインドネシアから戦闘機や艦船を調達し始めた状況をもって、米国に最早頼ることが出来ないと感じ始めている証拠だというのは、言い過ぎだと思います。

 一方、アジアで危険な軍拡競争が進行しているという認識は間違っていると思われます。オバマ政権の「リバランス」政策は何もかも不成功というわけではありません。米国がアジアに安定のための力としてとどまることを明確にし、ベトナム、フィリピン、インドなどとの関係に安全保障上の展開が見られたことは事実です。現在進行していることは、「リバランス」政策を支えとして、中国の挑発的な行動を前にして、アジア諸国が安全保障上の関心を高め、安全保障を強化するささやかで健全な努力を行っていると見るべきものです。

 トランプ政権の出方いかんにかかわらず、この努力は継続されなければなりません。トランプ政権は恐らくはアジア諸国の自助努力の強化を求めることになるのでしょう。トランプがアジアにおける米軍のプレゼンスを強化するとしても、そのことが前提となるでしょう。

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