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トランプの核戦力強化宣言 - 岡崎研究所

 トランプの「米国の核戦力を強化すべし」とのツイートに対し、12月23日付ワシントン・ポスト紙社説が、思慮に欠けた発言であると非難し、核兵器がテロリストの手に渡らないようにするなど核兵器の危険を軽減することに焦点を当てるべきである、と言っています。要旨、次の通り。

 核兵器の責任ある管理、指揮命令系統の頂点としての注意深い任務は、大統領の厳粛な義務である。それゆえ、トランプの核兵器についての12月23日の向こう見ずなツイートは災厄である。

 大統領候補として、トランプの核兵器についての発言は、様々な異なった考えが混在していた。一方で、日韓からの米国の核の傘引き上げを示唆し、他方では、「唯一最大の脅威」である核兵器への懸念を示しつつ、自らが予測不可能であることを誇った。大統領たるもの、このセンシティブな問題では言葉を注意深く選ぶべきであるが、トランプはそうしているようには見えない。12月22日、トランプは、「世界が核について正しく認識する時が来るまで、米国は核の能力を大いに強化、拡大しなければならない」と述べ、「軍拡競争は放っておけばよい。我々はあらゆるやり方で優位に立ち、勝ち抜くであろう」とも言った。

 核抑止も核兵器もすぐに無くなることはないだろう。しかし、米国とロシア(世界中の核爆弾の93%を保有)は、30年近く着実に核兵器を減らしてきた。米露間の新START条約は、こうした低い保有数を義務付ける条約である。他の軍備管理協定(特に1987年のINF条約)は歪んできてはいるが有効である。冷戦時代から引き継いだ大量の核弾頭を減らすには、長年にわたる努力が必要であった。トランプの新しい提案は、このコースを逆転させることになるのか。他国を制止することになるのか、それとも、刺激することになるのか。

 トランプのツイートは、プーチンがロシアの核戦力強化についていささか威勢のいい発表をした後になされた。ロシアと米国は、核兵器と運搬手段(爆撃機、潜水艦、ミサイル)の近代化について、それぞれのやり方をしている。近代化は米国の抑止力の信頼を維持するための重要な要素ではあるが、費用はどうするのか。12隻の弾道ミサイル潜水艦を建造するという海軍の計画は、他の艦船や潜水艦の計画により圧迫されている。トランプはどういう任務のために核をさらに拡大させたいのか。トランプは就任後、緊急時に用いるべき核戦争計画などを示されるだろう。これらは、最高司令官にとって考え込まざるを得ない事柄である。核兵器が現実のものである限り、トランプは、核兵器がテロリストの手に渡ることを阻止するなど、核兵器がもたらす危険を如何に軽減するかに焦点を当てるべきである。それ以上のことは、必ずしも我々を安全にはしない。

出典:‘Trump’s distressing chest-thumping on nuclear weapons’(Washington Post, December 23, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-distressing-chest-thumping-on-nuclear-weapons/2016/12/23/6a528540-c88b-11e6-bf4b-2c064d32a4bf_story.html

 トランプの他の発言同様、「米国の核戦力を強化すべし」の発言の真意は明らかではありません。トランプがしっかりした核戦略を持っているとは考えられません。しかし、核についての最近のプーチンの動きを考えると、「米国の核戦力を強化すべし」とのトランプの発言は的外れとは言えません。

核戦力を強化するプーチン

 すなわち、プーチンは、近年核戦力の強化に努めています。まず1987年に米ソ間で締結された中距離核戦力全廃条約(いわゆるINF条約)に違反して、地上発射型の中距離巡航ミサイルを実験し、すでにエストニア国境付近のルガに配備されたとも言われています。さらに注目されるのが、一発でフランスやテキサス州に匹敵する領域を焦土と化せる超大型ミサイル「RS-28サルマト」の発射実験に成功したと報じられたことです。このミサイルは米国が開発を進めている弾道ミサイル防衛で迎撃が困難と言われ、ロシアによる米国に対する核攻撃が可能になるといいます。

 そのうえプーチンは近年核の脅しを繰り返し、核の使用をほのめかしています。プーチンは2015年3月、クリミア危機の時に核の使用の準備をしていたことを公に認めたといいます。また、2014年から15年にかけて、ウクライナへの侵攻時に合わせるように、核の使用も想定した演習を何回か実施しています。いざとなれば核の使用も辞さないことを明らかにすることで、核の脅しの効果を高めようとしているのでしょう。

 これらのプーチンの動きは、核の基本的意義は抑止で、核を軍備管理の対象とするというこれまで米ロ間の了解に挑戦するものです。特に核の脅しを繰り返し、核の使用をほのめかしていることは、核の使用についての従来の敷居を下げる危険な兆候です。

 欧米は、プーチンのこのような危険な核戦略を座視できません。何らかの対抗措置を講じるべきであり、「米国の核戦力を強化すべし」とのトランプの発言はこの文脈で考えると意味を持ってきます。

 社説は、「核兵器がテロリストの手に渡ることを阻止するなど、核兵器がもたらす危険を如何に軽減するかに焦点を当てるべきである」と言っていますが、これは核兵器を従来の米ロ間の了解の延長線上でとらえているもので、最近のプーチンの核戦略に照らして考えれば、適切な提言とは思われません。

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