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なぜ、私の決断はブレないか?一瞬に「よい」「悪い」がわかる方法 - 鈴木敏文

セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問 鈴木敏文=文

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「判断の尺度」を「お客様」に合わせる

わたしが長く仕事人生を続けることができた3つ目の理由として、「判断の尺度」がブレることがなかったという面もあるでしょう。

人間は、「イエス」と「ノー」、あるいは、「よい」と「悪い」という判断の間に、「まあまあ」とか「そこそこ」といった中間の基準が入りがちで、特に日本人にはその傾向が強くあります。そこには必ず、妥協やなれ合いが入り込みます。

これに対し、わたしは自分の判断から、「まあまあ」や「そこそこ」のような妥協はいっさい排除し、「イエス」か「ノー」か、「よい」か「悪い」か、どちらかで判断してきました。

その理由は簡単です。わたしたちが商品を提供するお客様の判断は「買う」か「買わない」か、いずれか一方だからです。

食べものであれば、「おいしい」か「おいしくない」かの直感的な判断です。「まあまあ」や「そこそこ」では、最初は知らずに買っても、以降、繰り返し買おうとは思わないでしょう。

また、会社のトップとして、ある商品の発売のゴーサインを出すか出さないかの判断においても、会社の開発陣がどんなに労力や時間を費やしたとしても、わたしはそれをもって、「イエス」と判断することもありませんでした。

お客様は「開発者が一生懸命つくった商品だから」と買ってくれるわけではないからです。

判断の尺度を「会社」に置くのではなく、「お客様」に合わせると、「イエス」か「ノー」か、「よい」か「悪い」かの判断を迷わず一瞬で行うことができる。

結果、お客様から支持され、会社にも利益がもたらされます。

わたしはヨーカ堂に転職してからも、人事に、販促に、広報にと、財務経理以外の管理業務をすべて兼務しました。それでも特に苦にならなかったのは、「判断の尺度」がブレず、判断に時間を要することがなく、短時間で多くの仕事をこなすことができたからです。

いまは「自分で考える力」が重要

未来を起点にして、跳ぶ発想で仮説を立て、いままでにない新しいものをつくり出す発想力。迷わず一瞬で決断するための「判断の尺度」の持ち方。これらを一言でいえば、何かに頼るのではなく、「自分で考える力」です。

いまの時代は、「自分で考える力」こそが求められるようになっています。

戦後の日本社会は、第一フェーズの「メーカーによる合理化の時代」から始まり、第二フェーズの「流通による合理化の時代」を経て、いまは第三フェーズの「消費者による生活の合理化の時代」に入っています。

第一フェーズや第二フェーズのころは、どのメーカーも他社と同じような商品を大量生産し、どの流通も過去の延長線上で、他チェーンと同じ商品を大量販売すれば成り立ちました。そのため、他社の事例を勉強する力や、過去の事例をよく覚えている記憶力に優れた人間が重宝されました。

しかし、いまは消費者自身が自分たちの生活にとって、もっとも合理的なあり方を考え、それに合わせてモノや流通のあり方を選ぶようになっています。明日のお客様は何を求めるかを考え、新しいものを生み出していく発想力や、「判断の尺度」を「お客様」に合わせ、迷わず判断していく力、まさに、「自分で考える力」を持ち、新しい価値を生み出すことのできる人材こそが評価され、重要なポストに起用されていくでしょう。

実際、いま、元気のある企業は、アパレル業界においても、インテリア(家具)小売業界においても、「製造小売業」の業態をとりながら、新しい発想で新しいものを次々と生み出している会社です。

セブン&アイ・ホールディングスが推進するネットとリアルを融合した「オムニチャネル」(サイト名は「オムニ7」)も、既存のEコマースやネット通販の専門企業と決定的に異なるのは、グループが商品開発能力を持つことにあります。これから先、オムニ7でしか買えない、オリジナルな新しい商品をどれだけ開発し、提供できるかが問われるでしょう。

「失敗」を失敗に終わらせない

わたしはこれまで、過去の延長線上で考える人々からどんなに反対されても、新しいものを生み出し続けてきました。「みんなに反対されることはたいてい成功し、賛成されることはたいてい失敗する」などと、逆説的な言葉も発してきました。

わたしの仕事人生を支えてきた発想する力や判断する力について、それはどのような考え方やものごとのとらえ方をすれば、身につき、鍛えられるのかを、わたしの後に続く人々に伝授する。それが、いまの自分にとっての大きな役割だと思っています。

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『わがセブン秘録 』鈴木 敏文 (著) プレジデント社

仕事には失敗もつきもので、わたしの仕事人生もすべてが順調に進んだわけではありません。そのときは最良の選択と思っても、結果として失敗にいたったことも数々ありました。ヨーカ堂への転職も、セブン-イレブン創業も、失敗から始まりました。

ただ、失敗を失敗に終わらせなかったことで、そこから新しいものを生み出すことができた。本書は、そんなわたし自身の「失敗との向き合い方」も、あますところなく記しました。

年齢に関係なく、組織内での職位にも関係なく、仕事に対する向き合い方が変わらない人は、常に力を発揮できる。逆にその都度、仕事の仕方が変わる人は、いつか信頼を失うでしょう。

未来に向かって敷かれたレールはない。

本書は若い世代、ミドル層、そして、経営層にいたるまで、すべての世代、すべての層に、いつまでも前に踏み出してもらうため、新しい生き方に踏み出したわたしがいま、贈りうる最大限のアドバイス集です。

もし発想が行き詰まったとき、もし判断に迷ったとき、必ず力になるはずです。

※本連載は書籍『わがセブン秘録』(鈴木敏文著 取材・構成=勝見明)からの抜粋です。

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『わがセブン秘録 』(プレジデント社)
日本最大の流通グループを率いた「コンビニの父」が後進に伝えたかったこと。未来に向かって敷かれたレールはない。道は自分でつくるものである。
著者
鈴木 敏文
著者プロフィール
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