- 2017年01月25日 16:18
トランプ氏、さっそく戦闘モードに ~敵を作ることに熱心な新大統領、果たして得策か~
――筆者のジェラルド・F・サイブはWSJワシントン支局長
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古代中国の軍略家だった孫子は慎重に戦いを選ぶようリーダーに助言した。「戦わずして勝つことが最大の勝利だ」と孫子は説いた。
ドナルド・トランプ米大統領と発足したばかりの政権の姿勢は、この格言に当てはまるようには見えない。トランプ氏はすでにワシントンの全てのエスタブリッシュメント(既成勢力)とメディア、連邦議会の野党・民主党のトップと戦うことを選んだ。しかも大統領就任後の週明けを待たずして。
「トランプ大統領は古い戦いをいまも続けているのに、中断することなく新たな戦いを始めようとしているのかは分からない」。共和党の政治コンサルタントで世論調査を担当するアレックス・カステラノス氏はそう話す。「彼はハネムーンを楽しんではいない。そもそも『結婚』がなかったのだから。選挙期間中にトランプ氏はワシントンのエスタブリッシュメントに対して宣戦布告した。ワシントンがいまも驚いているのは、トランプ大統領が本気でそう言っていたことだ」
問題はこうしたボクシングのようなやり方が新大統領とそのチームに実際に利益をもたらすのかどうかだ。例えば、トランプ氏は就任式に集まった人数に関する報道に食ってかかったが、この取るに足らない、本旨から外れたような争いをなぜ続けることを選んだのか。この一件のおかげで、就任式に集まった人数がさらに注目されたのは確かだ。就任式の日にワシントンのナショナルモールに集まった人の数がバラク・オバマ前大統領のときを上回っていなかったのは入手可能な証拠が示していたのだから、トランプ氏のこの選択はとりわけ奇妙だ。
ホワイトハウスのショーン・スパイサー新報道官が冷静かつ秩序立った――強気ではあったが対立的ではなかった――ブリーフィングを記者団に行った23日までには状況は落ち着いていた。とはいえ新政権の序章は、政権が推進する具体的な構想と同じくらい、それが引き起こす戦いによって特徴づけられることを示唆するものとなった。
トランプ氏の仲間で側近のニュート・ギングリッチ元下院議長はこの点において、トランプ氏を英国のマーガレット・サッチャー元首相に例える。サッチャー氏は在任中、社会主義と左派の対立勢力と際限のない戦いを繰り広げたことで知られている。
「サッチャーは体制の代替案としての社会主義を打倒するだけでなく、道徳的に破壊することを自身の目標としていた」。ギングリッチ氏はインタビューでそう語った。サッチャー氏が選んだ敵は、英政府の石炭庁と対立していた炭鉱労働組合で、同労組のリーダーであったアーサー・スカーギル氏を「内なる敵」と呼んだ。
サッチャー氏は何年もかけて大きな対立に備えており、それは1984年と85年の炭鉱ストライキという形で表れた。そして1年間、大混乱が続いた後でストは終わった。
トランプ氏にはサッチャー氏のようなイデオロギー上の明確な羅針盤が欠けている。だが敵と思われる相手を特定し、それを捕らえる直感力は共通している。ギングリッチ氏は「彼は保守派ではないが、われわれの時代で最も有能な反左派の政治家かもしれない」とし、「彼は左派が否応なしに戦わざるを得ない対立を選ぶだろう」と述べた。
だが、トランプ氏が絶え間なく戦いを行うための政治的強さを根底に持っているかどうかは不明だ。大統領選で勝利したとはいえ、得票数では約290万票負けていた。しかも自分の党の一部幹部から中途半端な支持しか得ていない。
一方、トランプ氏のポピュリスト的な政策案は、部分的に共和党と同じくらいの支持を民主党から得られる可能性がある。だからこそ、民主党のチャック・シューマー上院院内総務を早々と敵に選んだのは謎だ。
トランプ氏は以前、シューマー氏と良好な関係にあった。同じニューヨーク出身のシューマー氏に数千ドルを寄付し、選挙活動を支援したこともあった。大統領選で勝利した直後には、シューマー氏について好意的な発言もしていた。
だが民主党が医療保険制度改革法(オバマケア)を守るための取り組みを始めると、トランプ氏はシューマー氏のことを上院の「ピエロの頭」と呼んだ。他にもトランプ氏の政権チームは、シューマー氏と上院民主党が多くの閣僚の承認プロセスを遅らせているとして立腹している。
同様に、シューマー氏は間もなく示されるトランプ氏の次の大きな政策に関しても、敵になるように見える。大幅な減税策だ。だが、貿易協定の見直しや国内インフラ整備への大型投資といった2つの政策案については、シューマー氏は仲間になれる。実際、共和党の一部よりも頼れる仲間になるだろう。
シューマー氏の政治顧問は、トランプ氏の批判は「問題ではない」と話す。「トランプ氏は最初にこびへつらっておいて、次に攻撃した。どちらも問題ではない。われわれは中身と価値観によって先導されるのであって、攻撃やこびへつらいによってではない」。とはいえ、シューマー氏の手助けが後に価値を持つことが分かっていて、同氏を今侮辱するのは賢明なのか。
今のところ目の前の現象が示唆しているものは、自分への軽視は見過ごされるべきではなく、敵は明確に特定されるべきだというトランプ氏の見方はこれからも変わらないということだ。「私の予測では」と前置きし、ギングリッチ氏は次にこう言った。「今後の4年間もしくは8年間は、信じられないほど混乱をきたすものになる」
By GERALD F. SEIB
- ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)
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