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『東電帝国 その失敗の本質』を読んだ。

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東電帝国―その失敗の本質 (文春新書)
志村 嘉一郎
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献本頂きました。ありがとうございます。

本書の著者である志村嘉一郎氏は、第一次石油危機の直前に朝日新聞経済部電力担当記者だったという経歴の持ち主。退社後も電力中央研究所顧問などを歴任するなど、電力業界の人脈が深く、東京電力の事情に知悉した人物だ。

その彼が、『経済団体連合会三十年史』など約三十冊の書籍や電力業界誌『電力新報』(現『月刊エネルギーフォーラム』)のバックナンバーなどより生ネタを扱い、1951年に九電力体制になった経緯から東日本大震災で福島第一原発の事故が起こるまでの変遷を描いたものだ。本書を読むと、今回の福島原発の事故は、戦後に構築されたシステムの制度疲労と、その延命を試みてきた結果が「失敗の本質」にあると理解できる。

特に、東電が政界への工作ための献金の話や、経産省の官僚の人事にも影響力を得るために、自社や電力業界団体への天下りを受け入れてきた構造、そして、マスメディアを味方につけ原子力の安全性をアピールしていくまでの手管など、60〜70年代には既に強固な基盤が出来ていたことが明らかにされるのは圧巻だ。

第二章「朝日が原発賛成に転向した日」には、当時の木川田一隆東電社長が電力事業連合会の広報担当理事をマスコミから引き抜き、原発一基分にあたる3000億円ものPR関係費を原発建設費の一部として認め、まず朝日新聞に記事広告を掲載、その後他紙もその流れになびいていくまでの様子が活写されている。

3.11時、勝俣恒久東電会長は中国を訪問中だった。本書によるとこのグループは毎年中国に行っており、2009年10月の訪問者の中には、電力関係者だけでなく、労働組合OBや新聞社・出版社の主筆・編集長クラス、大学教授などが名を連ねている。著者は「旅費がどうなっているのか、(参考にした)印刷物には書いていない」とあるが、その代わりに、自身が勉強会に名を連ねている時に、海外旅行に行く話になり、東電副社長から「旅費なら出してあげますよ」と言われたエピソードを加えている。

また、コストカットにより原発が耐用年数を過ぎても稼動させられるに至った経緯や、各部署間の行き来の少ない風通しの悪い組織、そして都合の悪い情報を潰してきたからくりなど、GNPの1%近くになる5兆円企業が砂上の楼閣であることを次々と明らかにされている。

震災による福島原発の事故は、東電の体質が原因により今も実態が詳らかになったとはいえないし、大手マスメディアの報道が切れ味に欠けるのもこうしたPR広告費をたっぷりと浴びていたことの影響が少なからずあるだろう。政治家や官僚でも電力会社の代弁者に事欠かず、もしかして今も我々の知らないところでロビー活動を繰り広げているのかもしれない。

繰り返しになるが、これは何も東電一社の問題ではなく、戦後から60年以上続くシステムの制度疲労が真に問題とされるべきことだろう。そういった、「戦後の呪縛」から逃れない限りにおいては、「復興」の掛け声もむなしく響くだけなのではないか。
 
いまのところ、そのような広い視座で国のグランドデザインを変えようという機運は見えず、政局に汲々としている有様を見ると暗澹たる気分になってしまうけれど、もしこの状況を乗り越えようとするならば、避けて通れない問題のはずだ。
そう本書を読んで、確信するに至った次第です。

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