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就業者数はなぜ増加に転じたのか

前回のエントリー(「アベノミクスと雇用について」)で、アベノミクスと雇用については支持者が主張するほど明確な関係が見て取れるわけではない点について書いたが、頂いたコメント等をみるに、一番肝心のポイントが伝わっていないようなので、今回は補足として、「なぜ就業者数が2012年後半から増加に転じたのがアベノミクスの明らかな成果とは必ずしも言えないのか」に絞って簡潔に論じてみたい。

当たり前であるが就業者数が増加するのは、「非就業者から就業者となった人数」が「就業者から非就業者へとなった人数」より多い時である。通常、リーマンショックのような事が起こった直後は前者が後者よりも少なくなるため就業者数は減少するが、景気が回復するとその関係はどこかの時点で逆転して就業者数は増加に転じる。この両者の関係が逆転する時点は象徴的な意味では転換点と言えるが、景気回復の途上のどこかで起こるマイルストーンというだけでこの時点で急激に雇用の質が変わるなんてこともないし、何かきっかけがなければこのマイルストーンを超えられないというわけでもない。

残念ながら「就業者から非就業者へとなった人数」や「非就業者から就業者となった人数」にぴったりの統計データは見当たらなかったが、それらと連動していると考えられる指標として、労働力調査の結果から「(完全失業者数のうち、過去1年間に離職した人の数)+(非労働力人口のうち、過去1年間に離職した人の数)」と「新規就業者数( 就業者のうち過去1年間に新たに仕事に就いた者)」とプロットすると以下の通りとなる。

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データは地震の影響から2011年1Q-3Qが抜けているが、トレンドとして「過去1年間に離職した人」の数はショック直後の約400万人から直近の250万人まで順調に、かつ大きく減少している一方、新規就業者数はいくつかの波が見られるものの2012年後半以降は概ね350万人±20万人程度のレベルで推移していることが解る。 

これらのデータは求めているもの(「就業者から非就業者へとなる人数」と「非就業者から就業者となる人数」)と若干ずれているため、前者から後者を引いてそのまま就業者数の増減となるわけではないが、「就業者から非就業者へとなる人数」が順調に減少する一方、「非就業者から就業者となる人数」はある程度のレベルで推移し、前者が後者を下回った時点から就業者数が減少から増加に転じるという過程をこれらのデータから推定するのはそれほど不自然な事ではないだろう。 

前回も書いた通り細かく見れば新規就業者数等にはアベノミクスの成果が出ているように見える部分もあるが、いずれにしろ上記の過程を経て就業者数が減少から増加に転じたこと自体をその過程の後半にやっと始まったアベノミクスの成果だ、とやってしまうのはさすがに無理があるだろう。よって再度前回のエントリーの結論をまとめると、「就業者数が減少から増加に転じたタイミングがアベノミクス以降(2013年以降)という見方も怪しい上に、そもそも増加に転じたのは、「就業者から非就業者へとなる人数」がリーマンショック後順調に減少しつづけた結果、「非就業者から就業者となる人数」を下回ったからにすぎず、増加に転じたタイミングで何かが起こったわけでもないし、そのタイミング前後で雇用の質が劇的に変わったということもない」ということになる。

[追記]  以前にも書いたが念のためにもう一度書いておくと、上記はあくまでも「就業者数が2012年後半から増加に転じたのがなぜアベノミクスの明らかな成果とは必ずしも言えないのか」という話であり、「トレンドに表れるような明らかな変化はなくても、アベノミクスが開始していなければトレンドは維持されなかったはずだから雇用が良くなったのはやはりアベノミクスの成果だ」的な話については否定も肯定もしていない。

また、文中にも書いた通り、アベノミクス開始以降の2013年や2016年は新規就業者数のピークがある事から、一時的には効果があった可能性も別に否定しないが、トレンドとして就業者数が減少から増加へと転換したことについてはデータを見る限り「就業者から非就業者へとなる人数」がショック直後の400万人レベルから直近の250万人レベルへと大きく減少した事が支配的な影響を与えていると考える方が自然であろう。

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