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トランプ新政権発足と末期症状の安倍政権ー時局の変化を読み取れない、周回遅れの日本政治

 1月20日、第193回国会(常会)が開会した。時をほぼ同じくして、日本時間の21日未明、アメリカではドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。

 トランプ新大統領は就任演説において、 “America first”を改めて表明したが、それはアメリカという国家を第一という意味ではなく、アメリカ市民、アメリカの労働者、アメリカの家庭(家族)の利益を第一に考え、政策を企画・立案し、執行するということである。

 これまでワシントンのごく少数のグループ、いわゆるエスタブリッシュメントが、国民の税負担の上で利益を得てきたが、自らの大統領就任をそれを終わらせ、国民の手に力を取り戻す機会として位置付けた。つまり、 “America first”とは、まずは内政についてのものであると考えたほうがいいだろう。

 そしてそれに基づいて、通商政策、税(関税を含む。)制、移民政策、対外政策を決定していくとしている。それに関し、世界各国との友好関係を築いていくつもりではあるものの、自国の利益を最優先にするのは全ての国家にとって当然の権利であるということを前提にする、そしてアメリカはアメリカのやり方を押し付けることはせず、模範となるよう振る舞うと述べている。この点はほぼ日本では報道されていないようであるが、非常に重要な点である。

 これまでアメリカは自国の基準を他国に押し付け、それを受け容れなければ “unfair”のレッテルを貼るといったことに象徴される、自国優先、自国が信じる価値を至上のものとして位置付けその採用を迫る、強圧的な対外政策を推し進めてきた。彼らがこれまで掲げてきた自由や民主主義や人権や法の支配といったものは、強圧的な態度を覆い隠すためのカムフラージュとして使われてきたとともに、単一の価値によって多様性を破壊する大義名分として「活用」されてきた。

 就任演説のこの部分は、それを止めると言っているに等しい。そして、価値といった曖昧なものではなく、アメリカ国民の利益(仕事、所得等)の確保・増進という観点に立って、同じく国益を最優先する国々と交渉を通じて国益を実現していくといった対外政策に転換することを意味している。まさに国家間関係や交渉はトランプ大統領にとってはdealであり、商売で成功したトランプ大統領らしい、極めて現実的な発想であると言えよう。

 そうした現実的な観点から、アメリカ国民の利益にならないどころか利益を更に奪い、仕事も奪うことになるTPPからの離脱を改めて正式に宣言した。これは就任演説では明言していなかったものの、トランプ政権の通商政策の概要( “Trade Deals Working For All Americans” )としてホワイトハウスのホームページに掲載されている。また、以前からアメリカ国民の仕事を奪うものとして問題してきたNAFTAについては再交渉又は離脱が明言されている。(加えて、これまで通商交渉はワシントンの一部のエスタブリッシュメントにより、また彼らのために行われてきたとして、これについてもアメリカ国民のために行うよう改めるとしている。)

 “America first”にならないものは止める、非常に分かりやすい。

 一方で、トランプ政権の対外政策の中心には「力による平和」が置かれている。これは一見、内政重視の “America first”矛盾するように見えるが、これは過激なイスラム・テロ組織の撲滅を主眼においたものであり、直ちにアメリカの無秩序な拡張主義を意味するものではないと考えられる。それ以前に、内政を蔑ろにした対外政策、すなわち過剰な軍事介入や特定の国や勢力の支援といった政策の見直しを明言していることからも、それは明らかであろう。

 そして、もう一つの柱としてアメリカ軍の再編・強化が謳われているが、これについても純粋に国防のため、そして抑止力のためのアメリカ軍へその性格を改めようという趣旨のものであると思われる。

 現在のアメリカの国力を考えれば、これも極めて現実的な政策であると言えよう。

 このように、トランプ氏の大統領就任によりアメリカは大きく変わろうとしている。それは保護主義とかポピュリズム(西部邁先生のお言葉を拝借すれば、本来はポピュラリズム、人気主義。)といった言葉で一括りにされる性格のものではない。アメリカによる一極支配が単なる幻想であるばかりか、その実現に向けたこれまでの様々な行動がアメリカ国民やアメリカ経済を疲弊させてきたこと、そして、過剰なグローバル化の推進により、一握りのスーパーリッチ(トランプ大統領は就任演説の中ではワシントンのエスタブリッシュメントと呼んでいる。)に富が集中し、「99%」という表現に象徴される多くの自国民が振り回され、収奪されてきたこと、こうしたことをアメリカ国民の利益を最優先にして改めていこうという現実的な主張が多くのアメリカ国民に支持されただけであり、現実的でアメリカ国民にとって意味のある政策を精力的に進めていこうとしているだけである。

 同時に、トランプ大統領の目線の先には、多極化した世界と勢力均衡による国家間関係があると考えるのが正しいだろう。だからこその “America first”の視点、メルクマールに立った内政、そして対外政策なのである。

 ところが、日本はといえば、20日に行われた施政方針演説において安倍総理は、相も変わらず「日米同盟こそが我が国の外交・安全保障政策の基軸である。これは不変の原則です。」とか、「自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々と連携する。」とか、「自由貿易の旗手として、公正なルールに基づいた、21世紀型の経済体制を構築する。TPP協定の合意は、そのスタンダードであり、今後の経済連携の礎となるものであります。」とかいった、こうした時局の変化を読めず踏まえない、端的に言って寝言のようなことを繰り返していた。

 トランプ政権の明確かつ明瞭な考え方に基づけば、「日米同盟」なるものが日本の外交・安保政策の基軸であると言われても、アメリカにとってのメリットはあまりないのであるから、日本がそうしたというのであれば、在日米軍の駐留経費をもっと払えということなるだろう。同時に、他国のためにアメリカ軍兵士が犠牲になるなどということを容認するべくもなく、アメリカの国益と関係なければただ日本に駐留しているだけの軍隊ということになるだろう。(もともと日米安保条約に米軍の日本防衛義務など記載されていないのであるから、当然といえば当然であるが。)

 TPPを経済連携の礎というのであれば、日本と話すことはないだろうし、そうした考えに基づいた日本の行動がアメリカ経済やアメリカの労働者に悪影響を与えているということになれば、(関税の大幅引き上げ等)あらゆる手段を用いて対抗するということになるだろう。

 中身が周回遅れと言っていい施政方針演説を臆面もなく嬉々として行う現政権、世界の潮流から取り残され、まさに末期症状といったところか。それどこか、周回遅れの主張や働きかけがトランプ政権を苛立たせ、日米関係を悪化させる、そうした可能性も否定できないだろう。

 23日からの代表質問では、野党の諸氏にはその点を是非突いて欲しいものだが、さて、野党も野党で、特に野党第一党などは独特の世界観をお持ちのようですから、期待すべくもないか・・・

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