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日本企業は迷わず『経験価値の徹底追求』に取り組んだほうがいい

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トランプ政権誕生でも変わらないトレンド

2017年はトランプ政権誕生という大波乱のおかげで、政治も経済も今後を見通すことが以前にもまして難しくなっている。経済問題に限って見ても、選挙の公約について本当のところ何をどこまでやるのか。それによっては、予想以上の大混乱に陥る可能性も否定できない。

だが、それがどのようなものであるにせよ、昨年の終わりに書いた通り(記事タイトル:一人負け日本で企業はどう生き残ればいいのか?*1 )日本の経済、日本企業の展望はあいかわらず非常に厳しく(トランプ政権誕生によって好転するとも考えられず)、2010年代の残る3年間の過ごし方次第では、無事に2020年代を迎えることができなくなってしまいかねない。どんなに厳しくても、どんなに視界不良でも、今は踏ん張りどころだ。

それに、トランプ政権誕生が時代の大きな転換点になることは間違いないとはいえ、一方で経済やビジネスの中長期トレンドについてみれば、今世界には、不可逆な潮流が厳然としてあり、多少の紆余曲折はあっても根幹のところは変わりようがない。それは言うまでもなく、技術進化のトレンドだ。トランプ次期大統領は、現代のビジネスにおける技術進化を象徴する存在であるGAFA( Google、Apple、Facebook、Amazon)はじめ、西海岸のIT企業を嫌っていると巷間伝えられ、そのためにIT企業は、そのビジネス環境が悪くなったり、政治的な対応に足を取られて、しばらくは従来ほどの速度で活動することは難しくなるかもしれない。

だが、どの企業のどの活動でも、今後は特に、人工知能(AI)のような、デジタル技術の活用が企業競争力と直結していて、もはや切り離すことはできないことが明らかになってしまった現代では、政治的な環境が変化したところで、企業の競争の大原則(ウイニング・フォーミュラ)がおいそれと変わるとは思えない。当然、この点での日本企業の競争環境も原則変わりようがない。よって、あらためて、前に述べた『日本企業が市場で飛躍するための処方箋』も今変更する必要はないと考える。到達のための道順や時間は変更が必要かもしれないが、到達点は変わらない。それをまず基本的な前提として明確にしておきたい。

その上で、前回書ききれなかった議論を、もう少し展開しておきたい。場合によっては、今回分でも書ききれないかもしれないが、その場合にはまたその次以降に書き足していこうと思う。いずれにしても、このテーマはブログ記事の2~3本で語り尽くせる程度の問題ではない。書き足すだけではなく、修正すべきは修正して精度を上げ、全体像をより鮮明に浮かび上がらせていきたいと考えている。

◾️日本企業が市場で飛躍するための処方箋

では、前に挙げた処方箋だが、次の4つである(それぞれの説明は、記事をご参照)。

1. 人事制度

2. IT/技術利用

3. マーケティング経営

4. 体験価値の徹底追求

いずれも重要でどれ一つとしておろそかにできないし、そもそもこの4つを高いレベルでバランスをとることが何より重要であることは繰り返すまでもない。ただ、典型的な日本企業がGAFAのような巨大IT企業や、昨今では創造的破壊企業ともユニコーン企業(新しく事業を立ち上げたスタートアップ企業のうち、推定企業評価額が10億ドル以上の未公開企業がそのように呼ばれるようになった。)とも称される、猛烈な勢いのある企業と同列に争って勝ち抜くことができるのか、という疑問も湧いてこよう。上記の4つが『成功のフォーミュラ』と言えるとしても、それはまた、結局旧来の日本企業に勝ち目はないことを、言い換えているだけではないか、という弱気な疑問が出てくることも予想される。(特に最近はそのような反応も少なくない。)確かにそれは一面あたっていて、個別の得手不得手はあるにせよ、総じてシリコンバレーのIT企業タイプの企業のほうがこの点でも合理的でスピードが早く、自社で不足している要素があれば、買収や合併等を通じて短期間に取り込み、自家薬籠中の物とすることにも長けている。

◾️<あらためて立てるべき問いと回答

もちろん、現実のビジネスは、この4つを含む様々な要素を独自にミックスして、差別化し、競合力を構築していくわけだから、初めから白旗を上げるのはいかがなものかと思うが、何より彼らの経営判断も、組織を作り直すスピードも圧倒的に速く、このスピードに多くの日本企業が立ち竦んでしまっているのが現実だろう。さらに言えば、先にも述べたように時代が下れば下るほど、AIのような技術進化の影響が圧倒的になるから、他の要素で多少勝っても、結局全て吹っ飛んでしまうのではないか、という疑問も出てくるだろう。だから、ここであらためて立てるべき問いは次のようなものになる。

GAFAやユニコーン企業に対しても、短期的にも競合力の優位を保つことができ、AI等の技術が市場を席巻する時代になってもその競合力を維持し、維持するだけではなく、世界に攻めていくことができるための日本企業が取れる戦略は何か?

そして、以前から私が申し上げているのは、『経験価値の徹底追求』がその一番の回答となると考えられるということだ。

◾️あらためて、経験価値とは

ご参考までに、あらためて、経験価値という概念につき、最初に提唱したマーケティングの専門家、バーンド・H.シュミットが定義した『5つの側面』について引用し、提示しておく。

経験価値とは、製品やサービスそのものの持つ物質的・金銭的な価値ではなく、その利用経験を通じて得られる効果や感動、満足感といった心理的・感覚的な価値のこと。カスタマー・エクスペリエンス(Customer Experience)ともいい、顧客を、単なる購入者ではなく、最終利用者としてとらえる考え方に基づいている。この概念を提唱したバーンド・H.シュミット(Bernd H. Schmitt)によると、経験価値には以下の5つの側面があるとしている。

SENSE(感覚的経験価値) 視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感を通じた経験

FEEL(情緒的経験価値) 顧客の感情に訴えかける経験

THINK(創造的・認知的経験価値) 顧客の知性や好奇心に訴えかける経験

ACT(肉体的経験価値とライフスタイル全般) 新たなライフスタイルなどの発見

RELATE(準拠集団や文化との関連づけ) 特定の文化やグループの一員であるという感覚

経験価値とは|マーケティング用語集|株式会社エスピーアイ

◾️音楽市場における事例

市場が飽和した現代では、差別化の最も有効な手段の一つがこの『経験価値』であることは、すでに『常識』なので事例は沢山あるが、すでに『常識』とされているのであれば、競争は激化しており、ここもすでに『飽和』していて参入が難しいのでは、との危惧もあろう。確かに、後に述べるように多くの米国企業は非常にシステマティックにこれに取り組んでおり、競争は激化している。だが、一方で、この競争領域(経験価値)の奥は深く、まだ開拓余地が十分にある。それを感じていただけそうな事例と今後の方向について以下に述べてみたい。

先日発売された、音楽ジャーナリストの柴那典氏による『ヒットの崩壊』*2という本には、音楽ビジネスにおける体験価値の重要性がわかりやすく示され、具体例も豊富で非常に面白い(市場の評価も高いようだ)。日本の音楽業界において、CD等の音楽ソフトの販売のピークは1998年で、以降は、2013年の特殊な例外を除き、下落に次ぐ下落で、それを補う存在として期待された有料音楽配信サービスも2005年〜2007年は全体の売り上げを押し上げることに貢献したが、それ以降は音楽ソフトの落ち込みを補う勢いはなく、1998年に6000億円あった音楽ソフトの売り上げも、2015年には有料音楽サービスを加えても、半分の3000億円まで落ち込んでしまった。ところが、その一方でライブやフェスは大変な活況で、実力のあるミュージシャンは生計を立て、活動を拡大する原資も得て潤ってきているという。

柴氏は本書の前書き(はじめに)で次のように述べる。

ここ十数年の音楽業界が直面してきた「ヒットの崩壊」は、単なる不況などではなく、構造的な問題だった。それをもたらしたのは、人々の価値観の抜本的な変化だった。「モノ」から「体験」へと、消費の軸足が移り変わっていったこと。ソーシャルメディアが普及し、流行が局所的に生じるようになったこと。そういう時代の潮流の大きな変化によって、マスメディアへの大量露出を仕掛けてブームを作り出すかつての「ヒットの方程式」が成立しなくなってきたのである。

CD等の音楽ソフトによって音楽を聴くより、実際のミュージシャンの演奏だけではなく、観客の歓声やその場の雰囲気等のすべてを体全体で感じる体験(経験)の価値を人々は重要視するようになってきた。その構造変化に気づく者は生き延び、それに気づけない者は没落していく。そういう状況がこの日本の音楽業界でも現実になってきている。ただ、実ところそのようなユーザー側の変化は、ずっと前から伝えられていた。例えば、以下の記事が書かれたのは2009年9月、今から7年以上も前だ。

CDが売れないといわれる中、音楽コンサート市場は活況を呈しているようだ。日本経済新聞の9月10日付朝刊では、ぴあ総研による「集客型エンターテイメントのチケット市場規模」に関するレポートを引用し、2008年の音楽コンサートの市場規模が前年比3.9%増の約1,503億円となったと報じている。同年の音楽ソフト市場規模が前年比約92%の約3,617億円にとどまったこと(日本レコード協会統計資料)を踏まえると、コンサートビジネスは異例の高成長を遂げているといえる。

CD文化からコンサート文化へ Jポップは「聴く」よりも「観る」時代 - ライブドアニュース

この傾向は、日本だけではなく、世界的傾向であることも、当時から指摘されていた。

日本に限った話ではない。音楽業界は世界的にコンサートビジネスへとシフトしており、有力なアーティストほどコンサート活動で稼ぐ傾向がある。たとえば米国の歌手・マドンナの場合、先月終了した世界ツアーにおいて計32カ国で350万人のファンを動員し、4億800万ドル(約375億9,700万円)の収益を上げている。一方で、マドンナのCD販売のポテンシャルはヒット作でも世界で500万枚程度と見られており、インターネット等の音楽配信分を勘案しても、コンサートにおける収益には遠く及ばない。

CD文化からコンサート文化へ Jポップは「聴く」よりも「観る」時代 - ライブドアニュース

また、アーティスト毎の日本の音楽CDの売上は、『握手券のシステム』に支えられている、AKB48がトップの常連で、それどころか、2011年から2015年までのオリコン年間シングルランキングのTop5のほとんどをAKB48の楽曲が占めている。このやり方には批判もあるが、裏を返せば、AKB48は握手会のような場でファンとの交流を深め、ソーシャルメディアをフルに活用し、ファンをライブに動員する等の手法には非常に長けていて、仕掛け人(秋元プロデューサー)が体験価値の重要性を早くから見抜いていたことが商業的な成功につながった例であることは以前から指摘されていた。

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