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ジャカルタ州知事の宗教冒涜容疑と「イスラム擁護アクション」 - 中村昇平 / 社会学・エスニシティ研究

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「第2回イスラム擁護アクション」

2回目のデモが11月4日に予定されていることが知れ渡ると世論はさらに盛り上がりを見せ、1回目を大きく上回る動員がなされることが報じられ始めた。デモはいつしか「第2回イスラム擁護アクション(Aksi Bela Islam II)」と呼ばれるようになり、著名なイスラム指導者や政治家、イスラム団体も続々とデモへの支持を表明した(注3)。同時に、デモが平穏に行われることを望む声明が各団体から出された。SNS上にも「411平和アクション(#AksiDamai411)」などのキーワードとともにデモが平和裡に行われるよう望む声が広がった。第2回デモの目的は、バスキ氏への法的手続きの開始を求める住民の「感情を示す(unjuk rasa)」ことだとされた。

こうして11月4日、5万から10万といわれる人々が参加した第2回デモが行われた。それまでのデモの規模を遥かに超える人数が参加し、ジャカルタ以外にも複数の都市で行われた。この時点で、一連の「アクション」はもはや一部の強硬派による反社会的活動とはみなせないものになっていた。デモ自体の性格も、強硬派組織の支持者が参加者の多数を占め、全体を通して投石が行われるなど暴動の様相を呈していたこれまでのデモとは対照的だった。強硬派以外の組織が多数参加したことに加え、個人の意思で参加する人も多かった。参加者への飲料水・食べ物の無償提供が行われたことや、ビニール袋を用意して自発的にゴミを片付ける活動があったことも盛んに報じられた。ただし、バスキ知事の退陣を求める声や個人攻撃が多数聞かれるととともに、中華系住民をターゲットとしたヘイトスピーチも散見された。

デモは当初の終了予定時刻である18時まで概ね平穏に行われた。しかし、ジョコ・ウィドド大統領がデモ主催者と面会しなかったことに不満をもった参加者の一部が18時以降も大統領宮殿前に居座って暴徒化し、投石するなどした。警察も群衆を散らすために放水車や催涙ガスを使用した。その結果、一般車両を含む21台が破壊され、参加者250人が負傷、警察官や一般市民などデモ参加者以外にも100人の負傷者を出す被害が出た。また、デモの開催地から離れたジャカルタ北部の中華系住民集住地区でも商店が壊されるなど小規模な暴動があり、10人余りの逮捕者が出た(注4)。

大統領の対応

これまでにイスラム強硬派が主催してきたデモとの対比もあって、世論からの第2回デモに対する評価は総じて肯定的なものだった。イスラム保守主義的価値観の拡大を危惧する声がある一方で、前例のないほど大きな規模で行われたにもかかわらず平和裡に行われた点を肯定的に評価する声も多く見られた。特にデモ賛同者の中には、平和的に行われたことをもって「民主的」な行動であったと認識する者が多かった。第2回デモの終了時点で主催者は、11月25日に第3回デモを開催すると発表していた。

大統領はデモ当日深夜に開いた記者会見で、バスキ氏への法的手続きを迅速かつ透明性をもって進めるよう警察に要請した。また、夕方までの平穏なデモと夜の暴動との区別を強調した上で、暴動の背後に「政治アクター」の存在があったことを明言した。この発言からもわかるように、ジョコ大統領の事態収束に向けた動きは大きく2つに分けられる。一つは、公正な法的手続きの実施をアピールするとともに、イスラム団体や政党関係者に根回しをすることによって第3回デモの開催を阻止する動きであり、もう一つは、一連の騒動を政治的に利用しようとする勢力を牽制する動きである。

前者について、大統領は第2回デモの開催と前後して事態収束へ向けた根回しを始めていた。まず、国軍・警察の関係機関への訪問を繰り返して連帯をアピールした。加えて、強硬派を除くイスラム系社会組織と近隣地域のイスラム教指導者、および各党党首(一部野党を含む)を中心とした政党関係者との面談の機会を設けて、第3回デモへの不支持を訴えた。また大統領は、こうした会合のたびに、自身が捜査や公判の過程に介入しないことを繰り返し強調し、法的手続きの公正性を印象付けるよう努めた。その成果か、多くのイスラム組織や政党から、バスキ氏への法的手続きの進展をもって第3回デモの正当性を否定する声明が出された。

事前捜査の結果、バスキ氏は15日に検挙され、被疑者となった。ただし、逃亡や証拠隠滅の恐れはないということで、勾留はされず、国外に出ることが禁じられたのみだった(注5)。法的手続きが進展してバスキ氏が被疑者となったことは前回デモの目的達成を意味する。これは結果として、事態の収束を狙う大統領や警察が第3回デモの正当性を否定するための根拠を与えることになった。

一方で、イスラム擁護戦線を中心とした強硬派勢力は、「インドネシアウラマー評議会ファトワ保護国民運動(GNPF-MUI)」の名で声明を出し、12月2日に「イスラム擁護アクション第3部(Aksi Bela Islam Jilid III)」と題したデモを行うことを発表した。バスキ氏が被疑者となったにもかかわらず勾留されていないことが不公正だと訴え、勾留を求めることが第3回デモの目的だと主張した。

この動きに対しては、警察と国軍も圧力をかけた。まず11月18日、警察庁長官はインドネシアウラマー評議会を訪れた際、同評議会が傘下に強硬派組織の主導するGNPF-MUIの成立を許したことを、社会組織にそぐわない政治的な動きであるとして厳しく批判した。また、21日には警察庁長官が国軍司令官同席のもと記者会見を行い、被疑者の勾留の是非は法に従って決定されていること、「法的手続きの開始」という当初の目的は既に達成された以上、デモに正当性はないことを主張した。その上で警察庁長官は、11月25日の騒ぎに乗じて政権転覆を計画している勢力があると発表した(ただしこの勢力が誰なのか具体的な言及はなかった)。12月2日に予定されているデモについても、公道の使用を禁止すると発表した。

大統領の根回しの結果イスラム系組織や政党の多くがデモ不支持を発表して強硬派が孤立し始めていた状況での警察庁長官の一連の言動は、結果的に強硬派にプレッシャーを与えることになった。デモ主催者のGNPF-MUIは翌22日に記者会見を行い、政権転覆とは無関係であることを強調するとともに、11月25日にはデモを行わないことを初めて明言した。そして、12月2日に「平和アクション」のみを行うことを発表した(警察庁長官はのちに、政権転覆を狙う勢力がGNFP-MUIではないと補足した)。さらに28日には、GNFP-MUIが警察庁長官同席のもと記者会見を行い、「イスラム擁護アクション第3部」は独立記念塔周辺の公園内で、朝8時から昼の金曜礼拝までのみの開催とすることを発表した。

デモを政治的に利用しようとする勢力に関しては、第2回デモの前後から様々な憶測が流れていた。今回の騒動を2017年のジャカルタ州知事選と2019年の大統領選に利用するために背後で動いている勢力がいるという懸念は多くの人々が感じていた。第2回デモの時点で特に世間の注目を集めたのは、デモに参加表明をした野党系の政治家と、デモ直前に異例の記者会見を開いたスシロ・バンバン・ユドヨノ前大統領だった(注6)。

デモに参加した政治家のうち演説などで政権の打倒や大統領の失脚に言及した者は、第2回デモ後に国会倫理法廷(MKD)ほかに訴えられた。また警察は、18時以降の暴動に参加したイスラム学生同盟のメンバー数人を逮捕し、その背後にいたアクターを特定すべく捜査を行なっている。こうして、一連の騒動を政権打倒にまで繋げようとする動きを牽制する流れの延長線上に、先述の「政権転覆」に関する警察・国軍の発表があった。第3回アクション当日の12月2日午前、警察は政権転覆を企図した疑いなどで10名あまりを逮捕した。【次ページにつづく】

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