記事

「日本型」セルフメディケーションの危険性について

1/2
公的医療費の膨張を抑制する目的があるのでしょう。近年、セルフメディケーションという言葉をメディア等で頻繁に見かけるようになりました。今年からは、セルフメディケーション税制もスタートしています。
皆さんは、この言葉をどのように理解されているでしょうか。
「軽い症状の場合には病院に行かず、自分で市販薬を選んで購入し治療する」でしょうか。

厚生労働省はセルフメディケーションについて、『WHO(世界保健機構)は「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当すること」と定義している』と説明しています。ここには市販薬を購入して自己治療を行うという意味が含まれるものの、「自分だけの判断」で市販薬を選ぶよう推奨する意図はありません。

日本ではアメリカに追随する形で、昭和50年代以降、ドラッグストア型薬局(スーパーマーケットのように購入者が医薬品を自由に手に取って選び、購入する)を推進・拡大してきました。購入に際して薬剤師の介入(病状や使用状況に関する質問、適正使用のための助言)がない、そもそも薬剤師が勤務していない店舗がある(当時は法令違反)といった批判はみられたものの、徐々に「市販薬は購入者が自由に選ぶもの」といった理解が広がりました。

市販薬をOTC医薬品と表記することがありますが、OTCとはOver The Counterの略称です。医薬品はカウンターの後ろ(購入者が直接手に取れない場所)に保管され、薬剤師と相談して購入するものだと言われても、今の日本ではイメージすることが難しいのではないかと思います。

医薬品が「医療用医薬品(医師の処方が必要)」と「一般用医薬品(病院に行かなくても購入できる)」に分類されていることをご存じの方は多いはずです。「医師が処方する薬は使い方が難しく危険、市販されている薬は安全性が高い」といったご理解でしょうか。

もっと詳しい方は、市販薬にもカテゴリーがあり、薬剤師からでなければ購入できない薬があることを知っておられるかもしれません。「病院での検査・診断を要する程ではないが、薬剤師の関与が必要な程度には危険な薬」という理解、それとも「医師の処方を必要としない安全な薬なのに、薬剤師が既得権益を手放さず専売している」といった理解でしょうか。

医薬品をどのように分類し、どのような形で国民に提供・販売するかは、主要先進国それぞれに特徴があり、そこには各国の国民保護や自己責任の考え方、政府が重視する経済思想、医薬品に関わる各ステークホルダー(製薬企業や小売業者、医師会、薬剤師会)の政治力といった様々な要素が反映しています。

国が制定した医薬品販売制度はまた、制度が規定する購入方法を通じて国民の理解を誘導し、その国特有の「医薬品利用に関する文化」を形成しています(例えば、購入に専門家との面談を要する医薬品は危険であり、自由に購入できる医薬品は安全 といった認識)。

「セルフメディケーション」という言葉のみを導入するのではなく、それが諸外国においてどのように理解・運用されているか、当のWHOがセルフメディケーションの拡大についてどのように言及しているのかを知ることは有用です。
The benefits and risks of self-medication
The Role of the Pharmacist in Self-Care and Self-Medication

市販薬販売制度の改定

公的医療費の逼迫に対応するため、日本では平成21年に市販薬販売制度が大きく変更されました。市販薬は第1類医薬品から第3類医薬品に分類(現在はこれに加え「要指導医薬品」)され、薬剤師に次ぐ市販薬の販売資格「登録販売者」が新設されています。
制度設計にあたっては、諸外国における販売制度を参考とし、業界関係者へのヒアリング、国民のニーズを反映したとされています。

この制度を議論するにあたって作成された、諸外国の医薬品販売制度についての資料を挙げておきます。

諸外国における医薬品販売制度等の概要(比較表)


比較表に記載されているように、多くの国において医薬品は

 「処方箋医薬品」(医師の処方箋が必要であり、薬剤師が提供する)
 「薬剤師販売医薬品」(薬局において、薬剤師が提供する)
 「薬局販売医薬品」(薬局において、薬剤師又はアシスタントが提供する)
 「自由販売医薬品」(スーパー等でも自由に販売できる)

といった形で分類され、保管・陳列方法に関してもカテゴリー別に規定されています。

分類のための基準には「危険性」を採用するのがシンプルでよいのですが、短期使用であれば安全性は高いが頻繁に服用すると危険性が高くなる、副作用の可能性は低いが選択は難しいといった医薬品もあり、そう簡単ではありません。
国民のニーズ(急な発熱に対応したい場合、規制は利便性を損ねる)に対応する必要もあり、それぞれの国で分類には工夫がみられます。

イギリスやオーストラリアでは、小包装(12錠入り)の解熱鎮痛薬は規制なくスーパーでも購入できる一方、大包装は薬局のみで販売するといった規制を採用しています。急な発熱といった利用者のニーズに配慮するとともに、継続的に服用する購入者に対しては、医師の受診を要するかどうか、継続服用に伴うリスクの告知や副作用兆候の確認といった薬剤師の介入が必要である、という観点が反映しています。

アメリカのように、規制を廃しスーパーで大包装の解熱鎮痛薬を販売する国もあります。たった一種類の解熱鎮痛薬のため年間数百人の死亡者が発生するといった負の側面はあるものの、市場に委ねることで低価格と良好なアクセスを実現しています。ここには「自由と自己責任」を重視するアメリカの価値観が反映しているといえるでしょう(国土が広く医療者の介入を確保できないといった理由も指摘されます)。他の先進国と比べ特異な制度ではあるものの、これも一つの考え方です。

厚労省での議論の結果、日本の販売制度は

 薬剤師の販売を要する医薬品(第1類医薬品)は全品目の1%以下とした
 登録販売者は諸外国の助手と異なり、薬剤師の監督下である必要はない
 (99%以上の市販薬を販売できる「薬剤師不在の店舗」を運営することが可能)
 医薬品の危険性は分類上、重視されなかった(副作用被害の大多数は第2類で発生)

といった形になりました。それまでのドラッグストアにおける実質的な販売状況を追認した制度であったこと、当時は世論も規制緩和派が大勢を占め、反対した日本薬剤師会は多くのメディアから「抵抗勢力」として報じられたことが勝負を決めたのだろうと思います。この制度改正に対し薬剤師会は大いに不満を表明しましたが、大手メディアや世論は揃って歓迎の意向を示しました。

分類自体は欧州・オーストラリアに似ているものの、実質的にはアメリカ型の販売制度を志向したものといえます。登録販売者の増加と共に、スーパーやホームセンター、コンビニエンスストアなど、ドラッグストア以外の店舗にも市販薬の販売は拡大しつつあり、高い利便性と価格競争の恩恵、経済にも貢献する日本らしい制度設計といえるのかもしれません。

あわせて読みたい

「医薬品」の記事一覧へ

トピックス

  1. 一覧を見る

ランキング

  1. 1

    「大規模会場予約 67% 空き」はお役所仕事の想像力欠如 ~ なぜ「高齢者」に拘り続けるのか

    近藤駿介

    06月14日 14:19

  2. 2

    私がDHC吉田会長の在日コリアンに関する妄想は相手にしなくていいと思う理由

    宇佐美典也

    06月14日 12:00

  3. 3

    田中みな実、長澤まさみ問題で考える マネージャーの劣化か時代の変化か

    NEWSポストセブン

    06月15日 08:58

  4. 4

    オリジナルを常に超越してくる 愛すべきガーナの手描き映画ポスターの世界

    木下拓海

    06月14日 11:34

  5. 5

    五輪強行開催 コーツが来たりて大量虐殺の笛を吹く

    田中龍作

    06月15日 08:39

  6. 6

    2021年のガンダムの見せ方、それとテロリズム──『閃光のハサウェイ』

    シロクマ(はてなid;p_shirokuma)

    06月15日 08:36

  7. 7

    選手間の感染だけでなく熱中症の死亡リスクも 東京五輪は綱渡り状態

    諌山裕

    06月15日 11:52

  8. 8

    「ディズニーランドのついでに予約」女性向け風俗の利用者が爆増しているワケ

    PRESIDENT Online

    06月14日 15:30

  9. 9

    ワクチン接種は医療者として当然必要な条件 個人の自由を制限するのはダメなのか

    中村ゆきつぐ

    06月15日 08:23

  10. 10

    歳を取ると「厄介な人」になりがちな理由

    内藤忍

    06月14日 10:57

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。