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経営者の刑事責任は内部統制の適切な構築で免責される

軽井沢町のスキーバス転落事故が発生して丸1年が経過しましたが、長野県警は、バス運行会社の運行管理責任者とともに、経営者(社長)も業務上過失致死傷罪で書類送検する方針だそうです(1月14日付け日経夕刊社会面等)。立件の可否については今後、検察と協議するとのこと。安全面に最大の配慮をすべき運行管理責任者が(運転者とともに)起訴されるというのはわかりますが、果たしてバス会社の社長さんまで刑事処分に問えるのでしょうか。

もちろん、顧客の死亡事故について、社長さん個人が業務上過失致死傷罪で有罪とされた例は過去にも認められます。たとえば三菱自動車のリコール隠しによる山口県での事故発生事案では社長さんが有罪となりましたし、パロマ工業の湯沸かし器事件でも同様です。ただ、そこでは社長さんが商品の安全性の欠如を十分に知っていながら放置していた、という責任根拠が認められていましたが、今回は「運転手本人が観光バスの運転の経験があまりないということを知っていて、訓練を一回した行わなかったこと」から、社長にも(傷害ではなく)乗客の死亡事故の発生に関する予見可能性がある、と判断されたようです。当該運転手がすでに何度か事故を起こしていたことを知っていたとか、運転当日、危険運転に及びそうな体調であることを知っていて勤務させていた、といった事情は認められないようです。

事故がたいへん痛ましいものであったため、「社長にも刑事処分は当然」という捜査の方向性に賛成する方も多いかもしれません。ただ、会社の経営技能は多方面に及びますから、安全面についてはどの程度の予見可能性、結果回避可能性があれば経営者が刑事責任を問われるのか、その線引きはきちんと明確にしておくべきだと思います。たとえばこのたび最高裁判事に就任される山口厚先生のこちらの論稿などは、一般の方々向けに過失犯について書かれたものなので、とても参考になると思います。たとえば、経営者(監督者)が漠然とした(死亡事故に関する)予見可能性があるとした場合には、万全の措置で結果回避義務を尽くさなければ過失犯に問われてしまうというわけではなく、たとえば経営者が他の役職員の適切な行動を信頼できるような状況が認められる場合には業務上過失致死傷責任は免れる、ということも十分考えられるようです。

つまり、顧客の安全に配慮すべき内部統制を適切に構築して、運用されていれば(たとえ安全面の欠如に関する情報を経営者が入手していたとしても)信頼の原則によって刑事責任を免れる可能性がある、ということかと。また、このような法解釈をとることが、企業の安全体制整備へのインセンティブとなり、今後の重大事故防止にもつながるのではないでしょうか。ただし、今回の長野県警の捜査方針からみて、今後は顧客の身体・生命の安全を脅かす企業事故が発生した場合には、経営者を含めて「提訴リスク」が顕在化する可能性が高い時代が到来したことは間違いないと思います。

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