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就活スタート時期をめぐる100年間の変遷 大正時代から前倒しと後ろ倒しの繰り返し

就職活動の時期がなかなか定まらない。学業を阻害しているという理由で、行政が就活の後ろ倒しを要請する。しかし、学生は内定獲得のために早くから企業回りなどの準備を始め、企業の方も人材確保のために抜け駆けをして採用活動を開始する。特に好景気のときには、早期化に拍車がかかる……

就職活動の早期化とそれに歯止めをかけようとする動きはこれまでにも繰り返されてきた。2015年には、学習時間の確保という名目で選考開始が8月に後ろ倒しされたが、就活そのものが長期化し、かえって卒業論文などに取り組む時間が減ったという。結局、2016年には3月広報解禁・6月選考開始へとまた前倒しされることになった。

実はこうした就活を取り巻く動きは、いまに始まったことではない。コンサルタントの海老原嗣生氏の著書『お祈りメール来た、日本死ね』(文春新書)によれば、100年も前から選考の時期をめぐって「イタチごっこ」が繰り返されてきたらしい。同書を参考に、日本の新卒一括採用の歴史を紐解いてみよう。

高度成長期に一気に早期化、1971年には3年生の1~2月に就活スタート

大学生の新卒採用が定着したのは大正時代のこと。当時は大学卒業後に選考を行っていた。 しかし第一次世界大戦による好景気で学生の売り手市場となると、選考が最終学年の11月ごろに前倒しとなった。このころからすでに、就職活動の早期化による学業阻害が嘆かれていた。

そこで1928年には、日本銀行・三菱銀行など18社の連盟で、選考を卒業後とする協定が発表された。だが金融恐慌の影響で採用枠が縮小し、就職難を心配した学生たちは卒業前から就職活動に奔走する。そのため協定もしだいに形骸化していってしまう。

戦後、最終学年の秋採用が定着したため、文部省は、「4年生10月中旬から1ヶ月くらい」で選考を行うように日経連や大学関係者に要請。だが高度成長期に入ると、就職活動は早期化の一途をたどり、1963年には4年生の6月、1964年には4年生の5月、そして1971年には3年生の1~2月と早期化が進んだ。

このように戦前から現代まで、就職活動の早期化に歯止めをかけようと協定が結ばれたり、要請が出されたりしても、結局守られずに早期化するということが繰り返されてきたのだ。

2015年には後ろ倒しされるも、今度は就活の長期化が問題に

近年では、リーマンショック後の不況の時期に、就活時期の見直しの機運が高まった。当時は、就職活動への不安から早くに活動を始める学生が多く、学業への影響が懸念されていた。

日本学術会議は、2010年に就職活動の時期を後ろ倒しすることを提言。国公私立大学や高等専門学校が組織する就職問題懇談会、商社による業界団体である日本貿易会、経済同友会までもが就活後ろ倒しの提案に動いた。

また2013年には、政府も後ろ倒しを経済団体に要請。安倍政権が掲げた「日本再興戦略」には、「若者の活躍推進」のため、就職活動を後ろ倒しし、学習時間を確保したり、留学を推進したりすることが盛り込まれた。

こうして2016年卒からは、広報解禁が3月、選考開始が8月となったわけだが、やはり早くから採用活動をしていた企業は少なくなかった。8月にはすでに6割の学生がどこかの企業から内定を得ていたということが文科省の調査で明らかになっている。

調査では、就活後ろ倒しで良い影響は「特にない」と答えた学生が半数近くに達するのに対して、「就活期間の長期化」、「卒論作成の時間の現象」などの悪い影響があったと答える学生が多かった。

結局、2017年卒から3月広報解禁・6月選考開始と若干前倒しされることとなった。

結局、学生にとってはどの時期の就活がいいのか

以上、『お祈りメール来た、日本死ね』から就活時期の変遷をたどってみた。しかし結局のところ、どの時期に就活を解禁するのがよいのだろう。かつてのように卒業後に後ろ倒しするのがよいのだろうか。それともあまり長期化しないよう気を付けながらも、3年生の春休みあたりから行うのがよいのか。

留学には、就活時期よりも経済状況が及ぼす影響が大きいという。とはいえ就活時期が遅くなれば、留学しやすくなることも確かだろう。留学生を増やしたいのなら、やはり後ろ倒しが有効なのかもしれない。

一方、学業については、就活時期のせいで勉強をしなくなっているというのは疑わしい。本書に登場する崇城大学・総合教育センターの辻田氏も、学生が勉強しないのは就活時期だけが問題ではないと述べている。学生に勉強をしてほしいのならば、就活時期の見直し以外の対策が求められそうだ。

そもそも新卒一括採用という採用方法自体を見直した方がよいのではないかという意見もある。新卒一括採用では、未経験者をポテンシャルで採用するため、選考の基準が「コミュニケーション能力」など曖昧なものになりやすい。また新卒時に就職に失敗すると挽回するのが難しいといった弊害も指摘され続けている。

就活をめぐっては100年前から今もなお問題だらけである。現状のシステムを変えるのはなかなか難しいが、疲弊する就活生が一人でも減るよう、ベストな方法を社会全体で模索し続けていく必要があるだろう。

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