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【読書感想】大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史

大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史 (文春新書)大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史 (文春新書)

Kindle版もあります。
大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史 (文春新書)
大学入試問題で読み解く 「超」世界史・日本史 (文春新書)

内容紹介
大学入試の歴史の良問は、本当は大人のためにある!

慶応義塾大学教授で、思想史の新たな視座を提示してきた著者が、有名大学の記述式入試問題に挑む。

【世界史】
・十字軍が与えた影響(慶応義塾大学)
・オランダ400年史から近代が見える(東京大学)
・女性参政権が1920年前後に実現した理由(一橋大学)
・補講「キリスト教はなぜ世界を支配できたのか」
……など

【中国史】
・科挙が日本に入っていたら?(京都大学)
・清朝はなぜ近代化できなかったのか?(早稲田大学)
・共産党が中国を統一できたのはなぜか?(京都大学)
……など


 いわゆる「難関大学」(東大・京大・一橋・早慶など)の入学試験では、どんな世界史・日本史の記述問題が出題されているのか?
 僕はこれらの大学の入試を受けたことはなく、入試問題集も真面目に見たこともないので、ちょっと興味を持って読んでみました。
 歴史好きとしては、「いまの僕だったら、完答はできなくても、いい線はいくんじゃない?」なんて、思いつつ。
 しかしながら、やってみると、全然歯が立たなくて、がっかりしてしまいました。
 ああ、大人になってからも、歴史の本とか、けっこう読んでいるつもりだったのになあ。
 世界史が得意だった受験生のときだったら、少しはマシだったかな……いや、やっぱりこれはちょっと無理かな……

 下線部B(宗教改革)に関連して、ルターの主張した宗教改革が、ドイツでは農民戦争以降、諸侯と結びついて進められていった理由を、所定の欄の範囲内(100字程度)で説明しなさい。(慶應義塾大学経済学部 2013年度 世界史)

 中国の科挙制度について、その歴史的な変遷を、政治的・社会的・文化的な側面にも留意しつつ、300字以内で説明せよ。句読点も字数に含めよ。(京都大学文系 2014年度前期 世界史)


 自分が受験生だったときには、「なんか覚えることばっかりで憂鬱」だったり、「なんでこんな細かいことばかり聞いてくるんだろう?」なんて苛立ったりしたはずの入試問題なのですが、難関大学の文系学部では、こんな論述問題が出てくるんですね。
 自由すぎるだろ、この問題……
 ちなみに、引用しやすい短い問題を2つ挙げてみたのですが、この新書のなかでは、史料を読み取って考察しつつ少ない字数で結論をまとめなければならないようなものも紹介されています。

 いま、あらためてこれらの難関大学の問題をみてみると「十字軍が西欧社会に与えた影響」とか、「日本の戦争責任について」とか、「いまの世界を読み解くための歴史的知識」を問うものが少なからずあるのです。
 試験って、受ける側だったときは「なんでこんな問題を?」って言いたくなるのだけれど、こうして客観的に眺めてみると「教える人たちが、この大学に来る学生に知っておいてもらいたいこと」を問うているのだなあ、ということがわかるんですよね。
 けっして、「差をつけるためだけの問題」じゃないんだな、って。
 それと同時に、出題者の専門とか好みとかイデオロギーみたいなものが反映されているところもあるのです。

先述した京大の「科挙」の問題について。

——京大の世界史では、西洋史についても300字の記述問題が出されますが、東洋史と比べると、肩の力が抜けている印象を受けました。東洋史の記述問題は、これまで読み解いていただいた二題のように、ひねりはありませんが、熱を感じます。

片山杜秀:内藤湖南、矢野仁一、宮崎市定らが形成してきた京都帝国大学文学部東洋史学の学統が、今だ健在ということでしょうか。
 皮肉なことに日本にもし、科挙が導入されていたら、京大東洋史のような学統は存在を許されなかったでしょう。なぜなら、先ほど見たように科挙は「正解」を一つに定め、権威や権力を皇帝と官僚に集中させ、一元化させるための制度だからです。科挙の下の教育制度では、基本的には「正解」に対する批判は許されません。
 ところが、京大は東大の「正解」を批判し、異論を唱えることに自らの存在意義を見出してきました。日本の帝国大学は基本的に西洋の学問の翻訳機関として作られました。ですから、その頂点に立つ東京帝国大学の使命は、西洋の学問の輸入を通して、遅れた日本をできるだけ西洋に近づけていくことであり、その使命にそって学統が形づくられていきました。
それに対して、京大は、その使命は担いつつも、東大の「世界は西洋の普遍的な価値観の実現に向けて進歩しているのだ」という主張に対して、「世界は普遍的な価値観で覆われるものではない、複数の価値観が葛藤相克しながらも、共存共栄していくのだ」という主張を様々な学問分野で唱え続けてきたように思えます。


 こういう経緯があって、京大では、東洋史の問題が多く出されているのです。
 入学試験って、その大学にとっての「顔」みたいなものなのだなあ、と。
 つくっているのは、そこにいる人間なんですよね、やっぱり。

 最近は、大人になってから、山川出版の『世界史』などを読み直し、学び直すという人が増えているそうです。
 僕も最近、『世界史』の教科書を買いました。
 あの時代、忌み嫌っていた「教科書的な知識」というのは、たしかに「常識として知っておいたほうがいい、最低限の知識」なのです。
 ここで紹介されている問題について考え、答えをみてみると、人類が抱えている問題というのは、少なくとも有史以来、そんなに変わっていないのではないか、という気がしてきます。

 受験生は、もっと本格的な参考書を読んでいるでしょうから、「歴史にちょっと自信がある大人」にこそ、手にとって、自分の無知と忘却を再確認してみていただきたい新書です。

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