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中国大使館前の「脱北者少女像」設置運動はダメ? 慰安婦少女像問題 - 崔 碩栄

 2016年の年末に釜山の日本総領事館前に韓国市民団体が慰安婦を象徴する少女像(以下、少女像)を設置したことに対する対抗処措置として、日本政府は在韓大使を召還、日韓スワップの再開に向けた協議の中断を明言。日韓関係は再び、急速な冷え込みを見せている。

 これまで、少女像に関しては遺憾表明程度の反応しか示してこなかった日本による今回の強硬な措置に、韓国政府およびマスコミは当惑している。日本がこれほどまでに素早く、強い姿勢で対応するとは予想していなかったのだろう。

 実のところ、この問題に関しては韓国政府の責任によるところが大きい。2015年末、日韓慰安婦協定合意以降、日本は元慰安婦たちのために10億円の基金を拠出したが、韓国側はこれを受け取り、一部を元慰安婦たちに支給するなどして消費する以外、何の動きも示さなかったからだ。韓国政府は、例えばソウルの日本大使館前の少女像問題を解決するために市民団体や国民を説得するなり、少女像のために他の場所を提供するなどの努力をするべきではなかったのか。受け取れるものだけを受け取りながら、この問題を放置し続けた結果が今回の混乱を招いたのである。

少女像設置に対して「遺憾」表明をすることもなく
日本の対応だけを「批判」する韓国マスコミ

 日本側が大使召還および日韓スワップ協議の中断措置に踏み切った直接要因は何か? 間違いなく釜山領事館前の少女像設置である。だが、ほぼ全ての韓国マスコミは無許可で不法造形物を設置した市民団体に対して遺憾はもとより、批判意見を述べることなく、強硬措置にでた日本側だけを非難している。

 それどころか「日本が屈辱的な措置(通貨スワップ協議中止)に出たのに消極的な論評を出すに留まった韓国外務部と強気の日本に対抗できなかった韓国政府」という批判までも始めるような有り様だ。マスコミが一口同音にこのような論調を繰り広げているため、ほとんどの韓国人はこれをそのまま受け止め、日本の対応に問題があると考えている。

 もちろん、今回の韓国市民団体の行動やそれを政府が放置したことに対して、「韓国側がやり過ぎた」と、韓国外交の失敗を指摘する人もいないわけでないが、これらの声は、あくまでもSNS上などで辛うじて見つけることのできる、ごく少数派の意見にすぎない。残念なことに「多数=民意=正義」である韓国社会においては、少数派の意見は何の影響力も持たない。

あまりにも対照的な中国大使館前の「少女像」対応
「中国を刺激してはならない」「設置すれば撤去」

 実は、韓国には外国大使館前に「少女像」を設置しようとする市民運動がもう一つある。それは、中国大使館前に「脱北者少女像」を設置しようとする運動だ。北朝鮮から脱北を図る人々が現在も絶え間なく中国へと渡っているのだが、中国当局は彼らを保護することなく、北朝鮮に送り返している。これに対して抗議する人権団体の運動である。

 中国から北朝鮮に送還された脱北者たちは収容所に連れて行かれ処刑されるケースが多い。このような脱北者の人権を考えない中国を非難する意味で「脱北者少女像」を中国大使館前に建てようというのだ。この運動は北朝鮮脱北者を支援する市民団体により始められた。北朝鮮と中国を同時に批判するという意図が込められた活動である。

 ところが、(慰安婦問題とは異なり)現在も被害者が続出しているこの問題に対して韓国政府もマスコミも無関心だ。外交部は「中国を刺激してはならない」と設置に対して憂慮を示し、中国大使館が位置するソウル市中区庁は「脱北少女像を道路に設置することは不法であり、設置されれば撤去せざるを得ない」(国民日報 2014.3.10)と設置を認めない方針を明らかにしている。「国民感情」を理由に日本大使館前への少女像設置を黙認する対応とはあまりにも対照的な反応である。

 日本大使館、領事館前の少女像設置は黙認しておきながら、中国大使館前の少女像設置に対しては厳格な措置をとる。この韓国の対応が示唆しているのは以下の二点である。

 一点目、中国に対する怯え。同じ行動をしたとしても日本は我慢するだろう、あるいはすべきだという意識があるが、中国にはそんな甘えが通用しないことを知っているのだ。韓国がサード(米国の高高度ミサイル防衛システム/THAAD)配置を決定すると、中国は直ちに韓流コンテンツの制限に踏み切ったように、中国が具体的「報復」行為に踏み切ることを恐れているのだ。

 二点目、現在進行形の深刻な人権問題にも関わらず、韓国マスコミが無関心であるために、あるいは無関心を装っているために、ほとんど話題になっていないという点である。この問題が話題になれば、中国も北朝鮮も国際的非難を浴びることになるのは間違いない。それなのに韓国の主要マスコミはこの運動にほとんど触れずにいる。同じ市民運動でも日本ではなく、中国や北朝鮮を批判する活動は韓国マスコミの支持を得ることができない「ジャンル」であるということだ。

第3の公館 済州日本総領事館
既に少女像設置運動が進行中

 今、韓国政府は釜山に建てられた慰安婦少女像のために、にっちもさっちも行かない状況に陥っている。去年9月の世論調査によると国民の76%がソウル日本大使館前の少女像撤去に反対しており、前野党代表であり、次期大統領選挙支持率1位を走っている文在寅氏は「少女像撤去は親日行為だ」とまで明言した。「撤去=親日」という社会的雰囲気が確立してしまった中で、大統領不在の「代行体制」が撤去に踏み切るというのは簡単なことではない。

 だからといって、今の状況を放置すれば通貨スワップ交渉の中断という損失は免れず、もたもたしているうちに、もう一つ残っている日本公館である済州日本総領事館前にも少女像が設置される惧れがある。これはもはや杞憂などではない。2015年には既に「済州大学生が建てる平和碑建立推進委員会」が結成され、幾度にもわたり少女像の設置を要求するデモが済州で行われるなど、活動が続けられているのだ。

 大統領不在中に起きた日韓の葛藤。韓国側がこれまで時間稼ぎをしてきたのが裏目に出たのだ。韓国側の選択肢は二つに一つだ。「法」と「外交」を重視し銅像を撤去するのか、あるいは、「民意」と「情」に従い銅像を放置するのか。ただ、結果の責任は誰が取るのか問題だ。

 前者を選択した場合、批判を浴びる悪役になるのは撤去を進める政府か自治体になるだろう。しかし、民意に従って後者を選択し、そうこうしているうちにスワップ中断による経済的な打撃を受けるような事態に陥った場合、誰が責任を取るだろうか。おそらく誰も責任を取ろうとしないだろう。となるとその怨望は「韓国を苦しめた日本」に向けられるに違いない。それが韓国の「民意」の習性だ。

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