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「ものづくり」のシフトと情熱のシフト

 昨年を振り返ると、コミックマーケット文学フリマだけでなく、コミティアM3といった、いろいろな展示即売会に足を運ぶ一年だった。

 そこで考えたのは、日本人の「ものづくり」への意識やモチベーションが、製造業などから自意識の発露=コンテンツ制作というところに移りつつあるのではないだろうか、といったことだった。

 これまでは、本を作ったり、CDを作ったり、DVDを作ったり、動画番組を作ったりするには、多くの人員と機材、それを用意するための資本が必要だった。

 それが、PCの普及やツールの発達といった要因などで、劇的にコストが減り、個人でも制作することが可能になった。

 しかし現状のコンテンツ流通のほとんどは、そのような個人製作のコンテンツの販売をする仕組みが未整備のままになっている。

 そこで台頭してきたのが、「同人」という販売チャンネルだ。

 コミケには3万5千ものサークルが参加していて、昨年末のC79では3日間の来場者数はのべ52万人にも上る。あえて書くが、年末で最終日が大晦日だというのに、それだけの人数を動員しているのだ。このことは、一部のオタクだけの祭典ではなく、社会現象として認識されるべきだ。

 最近のコミケで面白いなぁと感じるのは、大学・学会・プロジェクトでの研究成果を「同人誌」というテイストで出したり、広告代理店や大手メディア勤務の方々が集まって「同人誌」を作ったり、これまでレガシー側のひと達も、コミケでブースを構えるようになってきていること。

 前者では、駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部准教授の山口浩先生がGLOCOMで実施したプロジェクト、「ネットの力、みんなのチカラ」をまとめた冊子を冬コミで頒布していた。(参照

 何がすごいって、表紙。「津田大介さんを女体化してうさ耳装着させたものであるとの噂もある」といういかにも「同人」なテイストの女の子のイラストなのだ。で、中身は、山口先生や津田氏をはじめ、経済産業省の情報分析官・境真良氏といった講師陣が、あくまで固く真面目にネットと社会について講演した内容になっている。この落差がすごい。

 おそらく、ひと昔前ならば、一般の出版社から刊行されて、書店に並んでいたであろうコンテンツを、自前でやってしまえるという意義はとても大きいように思う。あえて「同人誌」というガワを纏っている、というところも含めて。

 後者では、産経新聞の猪谷千香記者や広告会社・出版社勤務の女子有志が集まって刊行していた『久谷女子』が挙げられる。

 こちらは難しい話は抜きとして、ひたすら「web女子」の実存問題が語られる。もちろん職業上の話も出てくるけれど、あくまで「ほんとうの私達を知ってほしい!」という欲求が、この同人誌が作られる理由になっているように思える。

 たぶん、ひと昔前ならこういった企業の方々が有志で集まってコンテンツを作る、ということは(社風などの理由により)難しかったのではないかと思うし、そもそも出版のインサイダーがメンバーに連ねているのに、コミケに出る、という発想が生まれてこなかっただろう。

 コミケに限らず、同人誌即売会と呼ばれる空間では、自分の作った「もの」に対する愛や自己承認欲求に加えて、「ものづくり」への情熱がゆんゆんしている。おそらく、それまで製造業に傾けていた情熱が、どこかで「自分だけの」「ものづくり」にシフトしたのではないだろうか?

 東京都の改正青少年健全育成条例が、若年層から過剰なまでの拒否反応が出たのは、そういった「ものづくり」を阻害される、という本能的な怖れの表れだということに、為政者側は気づいていない。

 「自由な表現は、どんなことがあっても守ります」。こんな簡単なことが、新しい「ものづくり」を支えることになり、それがこれまでとは違ったイノベーションの種になるということを、多くのコンテンツホルダーやメディア経営陣も気づいていない。

 政治政策と一般人の表現欲求の「産業化」への齟齬。その「ひずみ」の場としてのコミケ。

 Parsleyからいえることは、とにかくその場にいる、ということが今の日本が何を求めているのかを知るきっかけになる、ということだろう。

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