記事

トランプ次期大統領記者会見を巡る右往左往に見る日本の思考停止

 1月11日、トランプ次期大統領が当選確定後初めて記者会見を行った。

 当選確定後初めてということもあって、注目が集まったのみならず、期待以上に不安が多く入り混じった「前説」が様々なメディアにおいてなされた。

 トランプ氏は何を話すのかといったもののみならず、トランプ氏は思いつきで話をしているだけだから記者とのやりとりはまともに出来ず、早くもボロが出るのではないかといった根拠なき憶測(ある意味での希望的観測)まで飛び交った。

 さて、その記者会見、主な趣旨はトランプ氏の大統領就任に伴い、The Trump Organizationの会長兼社長を退任し、二人の息子に経営を任せる等の措置を講じ、利益相反への懸念を払拭することを発表することであったようで、冒頭のペンス氏らによる挨拶の後、延々と担当弁護士による措置の説明が続けられた。

 その説明の終了後、トランプ氏が演壇に立ち、記者との質疑応答が行われた。日本ではトランプ氏は記者を差別しただのなんだのといった趣旨で伝えられているようであるが、トランプ氏が演壇に立った途端、参加していた記者たちは、「Mr. President-elect!」や「Mr. Trump!」と叫ぶように声を上げながら一斉に手を挙げた。その様子はまるで獲物に向かって吼えたてる猟犬の群のようであった。トランプ氏が記者を指し、その記者が質問を始めてもしばらくその状況がおさまらないこともあったが、そんな風にして質疑は続けられていた。

 そうした中で、記者を差別したと報道されている「fake news」についての言及を巡る騒動があった。トランプ氏はこれに関する発言を終えると、次の質問に答えるべく挙手をした別の記者を指した。ところが、その記者が質問を始めたにも関わらず、「fake news」を流したと批判された某メディアの記者は一言言わせろとばかりにトランプ氏に食ってかかったのである。トランプ氏はその記者を制止したが記者は全く聞く耳を持たず、トランプ氏は「Don’t be rude!」を連発する始末になった。当然その記者を質問者として指したわけではないので「あなたの質問には答えない」と断ったわけであるが、なぜかその部分だけが切り取られて、トランプ氏が記者を差別的に取り扱ったことになってしまっている。情報操作というか何というか、お粗末な話である。

 また、日本についての言及は確かにあり、貿易不均衡の事例の一つとして挙げられていたというのはそのとおりであるが、具体的かつ詳細な話があったわけではなく、日本を名指しで批判するという意図は見受けられなかった。名指しで槍玉に挙げられた国があったとすれば、強いて言えば中国ぐらい。それも記者会見の場を借りて中国を叩こうという趣旨のものではなく、一般的な情勢認識を示したものとった程度のものであったと考えるのが妥当であろう。

 そしてロシア。選挙への介入疑惑(特にサイバー攻撃)とトランプ陣営とロシアの関係も注目の的の一つとなっていたが、まずサイバー攻撃については、ロシアからも中国からも受けているという認識を示していたが、これをもってロシアの選挙介入があったことを認めたとするのは、議論が飛躍しすぎであろう。トランプ陣営とロシアの関係についての質問に対してはトランプ氏は明言は避け、米露関係が今後好転するという認識を示すにとどまった。これはトランプ氏のメディア不信の表れであろう。そもそもこれに関する事項については、それらが「fake news」であったと回答している。揚げ足取りのためだけの質問には応じないといったところだったのではないか。

 トランプ氏の発言を巡っては、これまでも主に根拠なき不安や恐怖に基づく拡大解釈や議論の宇宙的飛躍が多く見られた。在日米軍の駐留経費の負担増がその典型である。トランプ氏は負担を増やせといったのではなく、負担を増やさなければ撤収すると言っただけである。これに対する対応策の選択肢は、「どうぞうお帰りください。」というものも含めていくつも考えられる。しかし、そうした検討が行われたとは聞いたことがなく、いつの間にか負担増という話になってしまっている。

 トランプ氏については過去の発言等から見ていけば、考え方は一貫しているし、表現方法は別として、突拍子もないことを言っていたり考えたりしているわけではないことは容易に分かるだろう。

 メキシコからアメリカに輸入する場合に高関税の話にしても、アメリカの国内産業の保護や国民の雇用・生活を守ることを考えれば、ありうべき選択肢である。

 そうしたことが分からず、不安と恐怖と希望的観測で目の前の現実から目を背けようとするのは、多くの日本人やメディアが、グローバリズムの幻想や何でもかんでも自由にすればいいという自由貿易の空理空論、既に過去のものとなった安全保障を巡る冷戦思考に拘泥し、そこから抜け出さずに安住して、思考停止に陥っているからではないのか。

 トランプ氏の大統領就任まであともう少し。そろそろ目を覚まして頭を動かし始め、冷静に現実を直視してはいかがか。

あわせて読みたい

「ドナルド・トランプ」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    イソジン会見 同席医師に違和感

    三田次郎

  2. 2

    藤井7段 最年少17歳で棋聖の凄さ

    大村綾人

  3. 3

    コロナ致死率は世界的に低下か

    中村ゆきつぐ

  4. 4

    渡部の現在「格闘家みたいな顔」

    SmartFLASH

  5. 5

    「日本は核保有国と共犯」に反論

    音喜多 駿(参議院議員 / 東京都選挙区)

  6. 6

    消費税率戻さねば辻褄合わぬ政府

    自由人

  7. 7

    うがい薬問題 誤解の連鎖に呆れ

    青山まさゆき

  8. 8

    舛添氏 利権で動く専門家に苦言

    舛添要一

  9. 9

    桑田と荒木 球児への言葉に違い

    企業法務戦士(id:FJneo1994)

  10. 10

    李登輝氏の死去に冷淡な日本政府

    WEDGE Infinity

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。