記事

弁護士「懺悔」の行く末

 10年くらいまえに自分が書いた記事を読み返していたらば、ちょっと奇妙な表現に目がとまりました。

 「最近、『反省する弁護士』によく出会う。『傲慢過ぎた』『市民に見放された』『ニーズにこたえていない』等々。これほどまでに弁護士が“懺悔”する時代が、かつてあっただろうか」

 この時期、多くの弁護士の心境に異変があったとすれば、それは一体、なにがもたらしたのでしょうか。これを書いた2000年という年、司法制度改革審議会の議事が進み、徐々に「改革」の骨格が固められていった時期です。この年の8月には事実上、司法試験合格者年3000人の方針、さらには弁護士会の悲願であり、「改革」への期待とともに掲げられていた「法曹一元」が絶望であることが伝えられます。

 それとともに、弁護士会内の「改革」論はより内向きの、自己改革論が強調されます。1990年初頭から今回の「改革」を主導してきたと自認し、自ら打って出た格好の日弁連・弁護士会は、思わぬ弁護士自身の「改革」を迫られることになり、当初、何番手かに置いていた観もあった弁護士改革が、いつのまにか「改革」の主眼ともいえる位置付けになっていることを知ります。

 当時、これを「登山口」と表現する言い方が弁護士会内でよく聞かれました。つまり、弁護士の自己改革が、これから始まる「改革」の入口になるのだ、と。これは、弁護士会内の「改革」主導層が会員向けにアピールし、やがて会員間で言われることになったわけですが、多分に「改革」への自覚を促すというよりも、納得しようとするための表現のように思えました。まさに、痛みを伴う「改革」への納得です。

 同時にこれは、弁護士会にある変化をもたらしていました。「反権力」の減退です。「懺悔」は弁護士・会の闘争的運動、それにつながる政策的正当性への会員のとらえ方に微妙な変化をもたらしていたようでした。それは、時に、日弁連・弁護士会の「反権力」的なスタンスが、「市民ニーズ」にこたえていくという「改革」のスタンスと、あたかも相反するかのような、響きももっていました。

 そして、これは弁護士自治についての軽視、もしくは再定義といった形につながることを予感させました。当時、このムードについて、こんな率直な印象を記事にしていました。

 「だが、これまでの弁護士・会の活動の成果をみる時、極めて奇妙な見方といわざるを得ない。弁護士たちは、自分たちの城の城壁が、どれほどの矢を挫いてきたのか忘れてしまったのだろうか」

当時、こうした方向に弁護士を向かわせている状況を憂慮している学者の声もありました。

 「私が非常に憂慮しているのは、はっきり言えば、政財界の規制緩和的な司法改革の動きが、弁護士層を攻撃していることです。弁護士層の中核にある人権擁護性をなんとか軟化させよう、後退させよう、弁護士業務に市場原理を持ち込んで不当に競争を煽り、弁護士の基本的な任務をビジネス的なものに変えていこう、そういう動きが規制緩和的な司法改革の本質です」(小田中聰樹・専修大学教授の「司法改革市民会議」での発言)。

 だとすれば、「改革を口にするなら反省を」というムードのなかで、弁護士・会は、「懺悔」することによって、同時にこの「規制緩和」的な「改革」に取り込まれていったように見えます。逆にいえば、そのために弁護士の「懺悔」が必要だったということもできます。

 あれから10年という歳月は、「改革」の影響をよりリアルに、より脅威として受け止める期間だったようにも思えます。今や、弁護士は「懺悔」ではなく、むしろ覚悟としてビジネス化を受け止め、それは同時に何かを失うものとしてはとらえていない方向と、一方で、「懺悔」の仕方そのものを疑問視する方向が大きく分かれています。まさに「改革」をめぐる会内世論の10年の対立は、弁護士だけの激増政策のなかで、「登山口」として描かれた弁護士改革の意図を多くの会員に気づかせたようでもあります。

 今、やはり10年前の「懺悔」をどうとらえるのか、それによって、今後のこの国の弁護士のあり方も、さらに大きく変わるように思います。

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