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真珠湾攻撃75周年。祖国の命運を担って零戦で飛んだ男たちの肉声! 『零戦、かく戦えり! 搭乗員たちの証言集』 (零戦搭乗員会 著)(文藝春秋 刊)|自著を語る|神立 尚紀(NPO法人「零戦の会」会長)

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 重慶上空で零戦が初戦果を挙げてから六十二年の記念日にあたる平成十四年(二〇〇二)九月十三日、靖国神社で、零戦搭乗員会の解散総会と慰霊昇殿参拝が、参加者二百四十名を集めて盛大に行われた。そしてこの日、「零戦搭乗員会」の解散と「零戦の会」(現・NPO法人零戦の会)の発足が総会で議決され、新生「零戦の会」がスタートする運びとなった。会長には引き続き岩下邦雄氏が就き、活動は、毎年九月の慰霊祭を柱に、四九号まで続いた零戦搭乗員会会報『零戦』の総集編の本の出版などを通じて、海軍戦闘機隊の歴史を後世に伝えること、などとされた。

 その「会報の総集編」が、本書である。

 会報『零戦』は、毎号、多くの元搭乗員による投稿で成り立っていた。読者も元搭乗員であり、しかも戦記本に多く見られるような、プロの作家や編集者の手を経た文章ではないので、洗練はされていないが虚偽や誇張の入る余地は少なく、長い歳月を経ての記憶の間違いなどを考慮に入れてもなお、史料的価値の高い、立派な会報であった。「このまま埋もれさせるのは惜しい」というのは、すべての関係者の思いでもあった。

 その会報『零戦』が、自らも元海軍搭乗員を父に持つ、文春ネスコ(当時。現在は文藝春秋)の小林昇氏の熱意とご尽力により、『零戦、かく戦えり!』として単行本にまとめられたのが平成十六年(二〇〇四)のこと。長らく絶版状態になっていたこの本が、このほど、十二年を経て文庫として甦ることになった。

 内容については、四九号分すべてを一冊の本にまとめるのは物理的に不可能なので、事務局報告や連絡、戦史に関係ない記事は省き、内容が重複する記事については涙を呑んで削った。文章については、明らかな誤字脱字や間違った表記については改めてあるが、なるべく掲載された原文を生かすことを原則とした。また一部は、著者の要望により、会報以外の私家版や雑誌記事から収録した記事もある。

 本文は、零戦隊の歴史を敷衍できるように、編年体に順を追って再構成した。内容について改めて解説することは控えるが、全体に共通するのは、いずれも当事者ならではの視点で書かれていることである。

 平成二十七年(二〇一五)は戦後七十年、そして二十八年(二〇一六)は大東亜戦争開戦、真珠湾攻撃から七十五年。そんな話題のなかで、「戦争の悲惨を忘れない」「戦争の記憶を語り継ぐ」という声がよく聞かれる。だが、メディアもふくめ、当事者の生の声を聴き、その真情に触れた経験のある戦後世代がどれほどいるだろうか。終戦時十九歳だった少年がいまや九十歳の高齢となり、作戦の中枢に触れた人や緒戦時の戦闘に参加した人の話を聴くことはほぼ不可能である。早い話が、真珠湾攻撃作戦に参加した零戦搭乗員は、もはや一人もこの世にいない。「体験者の声を聴く」のも、いきおい、大戦末期に偏ったものにならざるを得ないのが実情である。

 戦後五十年の平成七年時点で、「零戦搭乗員会」には約一一〇〇名の元搭乗員が名を連ねていた。それが「零戦搭乗員会」が解散し、「零戦の会」に引き継がれた平成十四年には八〇〇名を切り、平成二十八年夏現在、ついに二〇〇名を割るまでになった。生存搭乗員の最高齢は九十九歳、最年少が八十八歳である。

「忘れない」ためにも「語り継ぐ」ためにも、その前提として必要なのは、まず正しく「知る」ことであるはずだが、この状況を冷静に見れば、「知る」ことが今後、ますます困難になってゆくことは想像にかたくない。

 本書に収載している記事の執筆者は皆、明治末期から大正十五年までの生まれ。戦時中、一〇代後半から三〇代までの人たちである。本書は、海軍戦闘機隊の記録というのみならず、ある世代の日本人の記録でもある。昭和の戦争の時代にあって、日本と日本人を象徴する零戦。その栄光と終焉をつぶさに見ることのできる本書は、執筆者の殆どが鬼籍に入ったいまとなってはまさにかけがえのない一冊であり、戦争を知り、語り継ぎ、忘れないための一助となると信じている。

 最後に、本書の『零戦、かく戦えり!』というタイトルについて、歴戦の元搭乗員の間からは、「零戦が戦ったわけじゃない、搭乗員が戦ったんだ」という声があったことをご紹介して、結びの言葉に代えさせていただく。

   平成二十八年十月

(「文庫版のためのあとがき」より)

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