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林真理子×マキタスポーツ 「山梨」発「野心」経由のふたり【後編】|インタビュー・対談|「オール讀物」編集部

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前編より続く

同じ山梨県出身で、マルチに活躍する二人が語る故郷で過ごした青春時代や、東京での日々、そして執筆への想い

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泉麻人で読書に目覚める

マキタ 林さんのことを知らないっていうのは、そもそも山梨県民は本を読まないんでしょうか。

 そうそう。でも、テレビに出ている人は大好き。だから、マキタスポーツさんは大人気なんですよ。私も、日川高校では放送部でお昼の放送をしたり楽しかったな。今でも同級生とは仲が良いんです。

マキタ 僕も高校は楽しかったのですが、東京で挫折をして一気に山梨を否定する中に日川高校も入れてしまったんですよね。そうやって引きこもっていたのですが、さすがにこのままでは良くないと思って、歌舞伎町で夜のバイトを始めたんです。百八十度反対の方向に行って、髪の毛を染めたり、お店でモノマネもしたりして、お調子者の店員として人気もありました。けれど、それもしっくりこなかった。友達と呼べるような人もおらず、慕っていた先輩もお店の金をずっとネコババしていたことが分かり、僕も疑われました。夜の世界はやっぱり嫌だなと思っていたそんなとき、フラッと入った古本屋で、泉麻人さんの『泉麻人のコラム缶』をたまたま手に取ったんです。

 泉さんは当時“新人類”と呼ばれていた方々の先駆けでしたよね。でも、コラム集とはいえ、ギッチリ内容が詰まってますよ。それまで読書をしていなかったのに、読むのは大変ではなかった?

マキタ その前から、バラエティ番組の『冗談画報』で泉さんのことは知っていたので読んでみようと思いました。そうしたら、僕の知りたいことが、平易に、それでいてユーモラスに綴(つづ)られていたんです。例えば、「『笑っていいとも!』の人気が長つづきしている原因は、メーンレギュラーであるタモリの“自分は本気でない”という姿勢にあるように思う」など、テレビのタレントや番組に、僕が昔から感じていた引っかかりが鮮やかに解き明かされていく。そのとき生まれて初めて、読書って面白いって思いました。

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はやしまりこ/1954年山梨県生まれ。82年『ルンルンを買っておうちに帰ろう』でデビュー。86年『最終便に間に合えば』等で第94回直木賞受賞。

 それは良い出会いでしたね。他にはどなたの本を読んでいたんですか?

マキタ まず、村上龍さんなどの小説にチャレンジしたのですが、読み慣れていないので長編小説には没入できませんでした。だから、自分が好きなテレビ周りのことや、ビートたけしさんやタモリさんが登場人物として出てくる、景山民夫さんや、高平哲郎さんのコラム集を読みました。そのうち小説にも再チャレンジして、筒井康隆さんや星新一さんの短篇を読みました。でも、ずっと真理子先輩のものを読まなくちゃって思っていて、まず『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を買いました。その後、『葡萄(ぶどう)が目にしみる』を拝読したのですが、それが小説を読み通した達成感を感じた一冊目だったんです。

 それは光栄なお話です。あの小説は、日川高校が舞台なんですよ。

マキタ そうですよね。でも、僕にはこんなこと書けやしないって、とてつもない距離を感じました。同じ地域に育って同じ高校に通っていたのに、どうしたら山梨の風景をこんな風に表現できるんだろうって愕然としました。例えば作中で、葡萄農家が種なし葡萄を作るために、生育途中の葡萄を薬液につける“ジベ”という作業が出てきますよね。その作業をすると指が薄桃色に染まるということは僕も知っているのですが、林さんの小説だと、それが思春期独特の恥ずかしさと結びついているんです。それって、僕が見ていた山梨と全然違うんです。

 それは時代の違いもあると思いますよ。まだ純真な高校生の気風を残してた私の高校生の時代と、それから十五年経って、カウンターカルチャーがたくさん入ってきたころのマキタさんの高校生活とは全く違うはずですから。

 そして、マキタさんもご本名の“槙田雄司”で「雌伏三十年」という小説を、『文學界』に連載していらしたでしょう。素晴らしいことではないですか。

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まきたすぽーつ/1970年山梨県生まれ。芸人、ミュージシャン。2013年映画『苦役列車』でブルーリボン賞新人賞。著書に『一億総ツッコミ時代』など。

マキタ いえいえ、小説とはいっても、まだ完全なる虚構のものは書けないので、半分自伝という形式にしました。まずは、生涯に一つしか書けないものを書きたいという思いもありました。

 でも、作家は誰でも、最初は自分のことを書くことから出発しますよね。そこからまた別の分野に飛躍する方もいれば、私小説で成熟を見る人もいらっしゃいますから、色々な方法があると思います。

マキタ 執筆中は身を削るようで、毎月本当に胃が痛くなりました。とにかく今は、恥ずかしいとも何とも言えない気分で、一回この作品と距離を置きたいです。

 でも、それを乗り越えなきゃ。私はわりとそういうところが鈍感だから、早く作家になれたんだと思う。『ルンルン』を書いたときに、「よくこんなこと書けるね」とか「恥ずかしくない?」とかみんなに言われたんですけど、「え、なんで? 書くってそういうことでしょ」って思っていました。

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